臨床研究の結果を患者さんに還元することが私の使命

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臨床研究の結果を患者さんに還元することが私の使命

手術手技を極めるとともに、新しい知見を発信し続ける小林直実先生のストーリー

横浜市立大学附属市民総合医療センター 准教授・整形外科部長
小林 直実 先生

大学院や留学先のクリーブランドで研究に打ち込んだ若手時代

研修医時代、「臨床医として幅を広げるためには、研究に携わる期間が必要だ」と考えた私は、研修を終えたあと大学院に進学しました。研修先の上司からすすめられたことや、実際に研究をしている先輩が周りにいたこと、海外留学をしたいという漠然とした思いがあったことも、研究を始める後押しになりました。

大学院を卒業したあとは、米国のクリーブランドクリニックに留学する機会を得て、さらに研究に打ち込みました。主な研究テーマは、体の中に入れた人工関節の周囲に細菌感染が生じた状態である「人工関節周囲感染(PJI)」の診断に関するものでした。帰国後は、人工関節に関するさまざまな問題や「大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)」という新しい疾患概念に関する研究に携わってきました。

研究の結果が臨床に直結することが私の原動力

私がとくに股関節外科を専門とするようになったのは、大学院時代からお世話になっている稲葉裕先生(現・横浜市立大学整形外科教授)の影響が大きかったと思います。当時、あらゆる股関節手術に精通されていた稲葉先生に、人工関節置換術や骨切り術といった股関節外科の基本を教わりました。

大学病院に勤務していたときは、稲葉先生の指導のもと、コンピューター支援技術の研究に携わった経験を糧に、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の手術に対して国内で初めてナビゲーション手術を応用しました。ナビゲーション手術の有用性、威力を実感できたときは、本当に感激しました。この研究内容を、国内で関節鏡視下手術に取り組んでいる先生方にお見せした際、褒めていただけたことも大変励みになりました。このように、研究することは臨床的に大きな意義を持つと感じられることこそが、研究を続けるうえでの私の原動力になっています。

最近では、当科に在籍する大学院生や大石隆幸先生らと共に、MRI検査の新しい画像診断を取り入れ診断分類をつくり、股関節唇損傷を正確に診断するうえでの有用性を発表しました。また、大石先生を中心に、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)をコンピューター上で再現し、骨がぶつかっている部分の異常な骨代謝を画像的に捉えるという試みも行いました。これらの成果は海外の英文誌に発表しましたが、世界に発信することも重要なことだと考えています。現在は、医学部の学生と一緒に、骨盤の動きとインピンジメントとの関連について研究を進めています。

このように、常に臨床に直結するようなテーマで研究を行い、臨床研究の結果を患者さんの治療にフィードバックしていくことを目指しています。

股関節鏡視下手術を習得するまで

関節鏡手術のトレーニングの様子

股関節外科のなかでも、「股関節鏡視下手術」という新しい手術方法については、大学院時代から特に力を入れて行っていきたいと考えていました。股関節鏡視下手術は、従来の人工関節置換術や骨切り術とは全く異なる手術方法です。当初は、技術的なハードルが高く、正直なところ「私にこんな手術ができるのだろうか」と思ったものでした。

しかし、当時、産業医科大学の内田宗志先生(現・産業医科大学若松病院 整形外科)に、大学の枠を超えて、股関節鏡視下手術の技術を指導していただく機会に恵まれました。また、他大学の同年代の医師で、股関節鏡視下手術を一緒に頑張っている先生方とも、情報共有しながら、手術手技の習得に努めました。

同年代の医師のなかには、すでに多くの関節鏡視下手術を手掛けてきた経験を持ち、関節鏡を用いた手術そのものに慣れている先生もいました。一方、私は、鏡視下手術の基本技術に慣れておらず、研究歴も長かったことから、技術的に鍛錬が必要でした。そこで、手術用モデルなどを借りて、自分が納得いくまで手術手技の練習を繰り返す日々でした。

今でも、「ひとつの手技を習得しようと思ったら、強い気持ちがあればかならず習得できる」という信念をもって手術を実施しています。横浜市立大学の医局内でも関節鏡の勉強会やセミナー開催などを積極的に行い、グループとしてレベルアップできればと思っています。普段の診療では、患者さんから「手術のあと、部活に復帰してインターハイに出場した」という報告を聞いたり、「あんなに痛かったのが嘘のよう」と喜んでいただけたりすることが、大きな喜びです。

患者さんと向き合い、痛みの原因を追究することを諦めない

横浜市立大学整形外科医局の関節鏡グループ(米国キャダバートレーニングにて)

私たち医師が手術を無事に終えて、術後の画像検査でも問題はないと判断した場合でも、患者さんが痛みを訴えることがあります。とくに、関節鏡視下手術を行うようになってから、見た目や画像診断では分からない部分に痛みが出てくることがあるのだと痛感しています。そういったときは、痛みがどこから来るのかを考えてアプローチできるよう、日々の診療のなかで常に心がけています。

最近では新しい薬剤が登場しており、痛みに対してアプローチする手段は増えてきました。術前、術後のリハビリテーションも重要です。超音波検査による画像診断も、盛んに行われるようになってきています。ですので、原因がはっきりしない痛み関しても自分ひとりで解決しようとするのではなく、超音波検査による画像診断や、痛みに対するアプローチが得意な医師たちと相談しながら、患者さんの訴えを真摯に受け止めるよう努めています。

痛みの原因がはっきりするだけでも安心される患者さんは多くいらっしゃいます。痛みの程度はさまざまでも、個々の状態に応じて困っていることがあるのだと理解したうえで、患者さん一人ひとりと向き合うことを大切にしながら診療しています。

手技を極めるとともに、新しい知見を世界に発信できる医師を目指して

股関節外科のなかでも、股関節鏡視下手術はひとつの大きな武器だと思っています。この手術は技術的にどんどん進歩しており、私自身、引き続きチャレンジしていかなくてはならないこと、明らかにしなければいけない問題がたくさんあると考えているので、さらに追求していくつもりです。そのためにも、臨床研究を継続して行うことによって、診療だけでなく研究面でも世界に発信できるような新しい知見をひとつでも多く発表していきたいと考えています。

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