患者さんそれぞれとの思い出を、しっかりと覚えている

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患者さんそれぞれとの思い出を、しっかりと覚えている

アメリカのてんかんセンターで学び、日本のてんかん診療の発展に尽力する赤松 直樹先生のストーリー

福岡山王病院 神経内科、日本神経学会 代議員
赤松 直樹 先生

英語で書かれた教科書で勉強をしていた医学部生時代

私は医学部の学生だったとき、仲のよい友人から「アメリカで研修医として学べれば、よい医者になれる」という話を聞きました。そしてそのためには、ECFMG*という団体の試験を受けて、海外で研修医として学ぶための資格を取得する必要があるのだと。それを聞いた私は、卒業したらアメリカに行ってバラ色の研修医生活を過ごしたいと思い立ち、英語で書かれた教科書で勉強をしていました。アメリカに行けば毎日が海外旅行だ、と簡単な気持ちで考えていましたね。

研修医としてアメリカで過ごそうと考え始めたのは、そういった小さなきっかけからでしたが、そのわりにはモチベーションを保って一生懸命勉強をしていました。もともと、勉強熱心なタイプではあったと思います。中学生・高校生のときは、コツコツと勉強をして上位の成績をキープしていましたし、医学部生時代の成績もなかなかよかったですね。その勢いでしっかりと勉強を続けて、ECFMGの試験にも無事合格することができました。

*ECFMG:Educational Commission for Foreign Medical Graduatesの略。アメリカ、カナダ以外の医学校で教育を受けた医師に対して、アメリカでの研修資格を認定する非営利団体。アメリカでの臨床研修を希望する場合には、試験を受けてECFMG certificateを取得する必要がある。

てんかんを学ぶことになったのは自然な流れだった

医学部卒業後、産業医科大学の神経内科に入局しました。そこで、私の恩師である辻貞俊(つじさだとし)先生(現・福岡山王病院 予防医学センター)に出会いました。辻先生は過去にアメリカのクリーブランドクリニックというところに留学された経歴があります。そしてその留学先には、日本に留学経験のあるハンス・リューダースという先生がいたのです。リューダース先生が積極的に日本人を採用していると聞いた私は、実際にお会いしたときに「ECFMGの試験に受かっています」とアピールをしたところ、「チャンスがあったら呼んであげる」と言っていただきました。そして1992年、リューダース先生はたまたまポジションがあいたタイミングで本当に私をクリーブランドクリニックに招いてくださいました。

当時先生はクリーブランドクリニックの神経内科教授で脳波やてんかんについて研究されていましたから、私がてんかんを学ぶことになったのは自然な流れでした。今になって思い返してみると、医学部生時代に英語で勉強をしていたところから、全てがつながっているのかもしれません。

バラ色とはほど遠いアメリカでの研修医生活

こうして念願のアメリカでの研修医生活が始まったのですが、思い描いていた“毎日が海外旅行”という生活とはほど遠い毎日でした。当然、当直などもありますし、とにかく忙しい日々を送りました。さらに、医学部生時代に懸命に勉強していた英語は、いざ現地へ行ってみるとほとんど理解することはできませんでした。当直中、病棟の看護師さんから電話がかかってきて状況を説明されても把握しきれない。最初に覚えた英語は「I’ll be there.(そちらに行きます)」でした。とにかくその場に行って様子をみる。そうすると状況がつかめてきます。言われていることが半分しか分からなくても、状況を見て、判断して、指示を出す。とても大変ではありましたが、苦労した分、本当に貴重な経験ができたと思っています。

また、当直だけではなく日中の診療も多忙を極めました。ハンス・リューダース先生をはじめとして、てんかんに関する教科書を執筆されているような先生も多くいらっしゃったので、病院には世界中から難しい症例の患者さんが紹介されてきていました。そういった患者さん全てを、まずは私が診察するのです。1人の患者さんに対して2時間ほど時間をとり、そのうち1時間半くらいは私1人で診察をしたり、病歴を確認したり、持参していただいた資料全てに目を通したりと、奮闘します。これは、上級医の前に研修医があらかじめ診察をするというアメリカ式研修医トレーニングシステムの一環で、日本では“予診”と呼ばれています。そして予診を行ったあと、リューダース先生のところへ行って一連の報告をし、一緒に患者さんに診断や治療方針の説明などを行う、というのが主な流れでした。このようなスタイルで、何名かの先生に直接1対1の指導をしていただきながら、必死に学んだ2年半でした。

開始当初は批判を受けたてんかん手術

アメリカから産業医科大学に戻ってくると、私はある違和感を覚えました。日本でてんかんに詳しいといわれる方とお話ししていても、どうも話がかみ合わないのです。私はそこで、ようやく日本のてんかん医療が遅れているのではないかと考え始めました。ただそのとき、同大学の脳神経外科には浦崎永一郎(うらさきえいいちろう)先生(現・福岡みらい病院 脳神経外科部長)がいらっしゃいました。浦崎先生は私よりも少し前に、ジョンズ・ホプキンス大学の脳神経外科に留学をしており、てんかんの外科手術を学んでいたのです。そこで、浦崎先生と一緒にてんかん手術を始めるに至りました。浦崎先生が同じタイミングで産業医科大学にいらっしゃったことは、私にとってとても幸運だったと思います。

しかし、初めは批判を受けることもありました。その当時、アメリカでは当たり前のように手術によるてんかん治療が行われていましたが、日本では「てんかんが手術で治るわけがない」という認識だったのです。それくらい、日本におけるてんかんの治療は遅れていたと思います。

手術を担当した患者さんとの思い出

これまで手術をした患者さんとの思い出は、それぞれ覚えています。私が最初に手術をした方は女性で、手術によって無事にてんかん発作が治まりました。その後、彼女は結婚し、出産もしました。そのときにわざわざ子どもの顔を見せに来てくれたのです。もうてんかんは治っているので私のところに来る必要もないのですが、「赤ちゃんが生まれたんです。先生にどうしても見せたくて」と嬉しそうにおっしゃるのです。そうして笑顔で来ていただけたことに、私も大きな嬉しさを感じました。

後輩医師にも常に意見を求める

医学の進歩についていくためには常に学び続け、自分の中にある知識を更新することはとても重要だと考えています。今ではインターネットも普及して、どこにいても学べる環境が昔よりも整いました。ただ、やはり個人的には机上で学ぶことと現場で直接見て学ぶことでは、大きな違いがあると考えています。

私自身は後輩医師の指導をすることが増えてきましたが、自身がアメリカで受けた研修の中でよかったと感じたことは積極的に取り入れるようにしています。アメリカでは常に「君は何を見つけた?」「君の診断は?」というように意見を求められました。それと同様に、私もカンファレンスなどでは、常に後輩医師に意見を求めています。それに加えて、前述した“予診”も実施しています。現場で教育をしていくということは、一番大事にしているところですね。

今後も自身の医師としての腕を磨き続けると同時に、後進の育成にも力を入れていきたいと思っています。

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