院長インタビュー

希少がんにも対応することでがん診療の選択と集中を実現──埼玉県立がんセンターの取り組み

希少がんにも対応することでがん診療の選択と集中を実現──埼玉県立がんセンターの取り組み
横田 治重 先生

埼玉県立がんセンター 元病院長、埼玉県立がんセンター 地域連携・相談支援センター長

横田 治重 先生

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埼玉県立がんセンターは、埼玉県のがん診療を担う病院の1つです。一般的に広く知られている胃がん大腸がん乳がんから、発症率がまれな希少がんまで幅広く対応しています。周辺の地域がん診療連携拠点病院に指定されている医療機関と連携し、切磋琢磨(せっさたくま)する同院について、病院長の横田 治重(よこた はるしげ)先生にお話を伺いました。

埼玉県立がんセンター 外観
埼玉県立がんセンター 外観

当院は、1975年に埼玉県政施行100周年記念事業の一環として開院しました。開院後は周辺地域だけでなく、埼玉県全体のがん診療を充実させるために増床や、設備面の拡充を行ってきました。2013年には、隣接して建設された新病院が開業し、新たなスタートを切りました。内装は廊下を広くし、吹き抜けを作ることで太陽の光が広く差し込むように設計してあります。

診療の面では、PET-CTなどの医療機器を新たに導入しました。埼玉県内のがん診療をより充実させるために、新しい医療機器や検査、治療方法などを積極的に導入しています。また、県内の医療機関と連携・切磋琢磨し、埼玉県や近県の皆さんによりよいがん診療を提供できるように体制を整えています。

がん診療は、5大がんのように患者数が多く一般病院で治療を担うことができるものもあれば、希少がんのように医師に経験・知識と技術をより強く求められるものもあります。近隣の医療機関もがん診療に力を入れているなかで、がん診療を専門とする当院は、希少がんなどの一般的に対応が難しいとされるがん診療にも、積極的に取り組んでいます。

希少がんとは、患者数の少ないまれながんのことです。たとえば、肉腫(サルコーマ)などの患者さんを受け入れ、治療にあたっています。当院が積極的に希少がんの診療を実施することで、県民の皆さんが医療難民になることを防ぎたいと考えています。

また、当院はがんゲノム医療拠点病院の1つとしてがんゲノム医療を推進しており、その一環としてがん遺伝子パネル検査にも取り組んでいます。

内視鏡下手術室
内視鏡下手術室

術は体に負担をかけますが、がん治療において強力な効果をあげることができるケースもあります。近年では、内視鏡下のように小さな傷で手術を行うことで、体への負担を軽減することができるようになりました。さらに手術支援ロボット(ダ・ヴィンチなど)で支援することで、低侵襲(ていしんしゅう)かつ精密な手術が進化してきています。当センターは低侵襲手術センターをつくり、安全なロボット支援手術をはじめ低侵襲手術の発展に努めています。2018年度からは多くのロボット支援下手術が保険収載となっており、対象が広がっております。

緩和ケア病棟 談話室
緩和ケア病棟 談話室

がん診療を専門としている当院では、緩和ケアにも力を入れています。特に、ホスピス緩和ケア週間では、毎年さまざまなイベントを企画しています。ホスピス緩和ケア週間とは、日本ホスピス緩和ケア協会が緩和ケアの普及啓発活動のために設定している1週間のことです。

これまでには、医師や看護師による緩和ケアについてのご紹介や薬剤師、栄養士、歯科口腔(こうくう)外科医、歯科衛生士によるセミナーを開催しました。また、緩和ケア病棟のボランティアによる演奏会やハンドマッサージの体験コーナーの設置、医療用ウィッグの業者さんによる医療用ウィッグのご紹介も行ってきました。そのほかにも訪問看護の紹介や当院の緩和ケア病棟の見学会の実施など、地域の皆さんに緩和ケアについて知っていただく場として毎年開催しております。

乳がんの診療には乳腺外科、乳腺腫瘍(しゅよう)内科、形成外科、病理診断科、放射線科、公益社団法人 日本看護協会が認定するがん看護専門看護師が関わり、緊密なチーム医療を行っております。綿密な診断、説明、カウンセリングのうえで外科的治療と内科的な治療の両方を選択できます。患者さんのご希望や病状に合わせて、適切な診療を受けていただけるように体制を整えています。

乳腺外科では乳がんの外科的治療や形成外科と連携した乳房再建術などを実施しています。また、乳腺腫瘍内科は内科的治療だけでなく、乳腺外科と連携した、手術前後の補助療法を実施しています。関係部署のシームレスな連携が自慢です。

あたたかみのある内観
あたたかみのある内観

小中学校におけるがん教育に、講師として当院の医師を派遣しています。がん教育が推奨されている現在では、学校によっては教員があらためてがんについて勉強し、学生たちの質問にも答えられるような体制を築いているケースもあります。指導要綱があっても、医療を専門にしている我々医師とは異なり、負担も大きくなる部分があると思います。現場の生の情報を通じてがんを知り、がんを通して生命と人生について考えるきっかけになればと考えます。

また、講演会というかたちで行うことで、学生だけでなくご家族や近隣にお住まいの方々もがんについて知る機会になると考えています。学生だけでなく、埼玉県全体でがんへの知識を深めていくことができればよいと思います。

現在のがん医療の実情について、埼玉県民の皆さんにお話しする埼玉県民のための“がんの集い”を毎年開催しています。当院のスタッフだけでなく、ボランティアの方や地域の医療機関の方、実際にがんを体験した方々にお話ししていただいております。

また、さいたま市などの県内でも比較的大きな市だけでなく、そのほかの市町村でもミニ講演として実施しています。

当院はがん診療において、常に新しい手技や医療機器を取り入れています。それとともに、患者さんやご家族に優しくあることをスローガンにしています。どのような結果でも、患者さんやご家族にがんセンターで治療を受けてよかったと思っていただける病院を目指しています。患者さんやご家族が満足できる医療の提供に今以上に努めてまいります。

病気やけがで人生の方向が変わることがあります。患者さん自身にとってもそうですが、ご家族にとっても人生の大きな出来事であることは多いです。それだけに、真摯に対応していくと医療現場ではさまざまな機会に患者さんやご家族に感謝していただけます。これほど心からの感謝に報われる仕事はそれほど多くはないのではないでしょうか。

一方、思うような結果が得られないと、患者さんやご家族はもちろん、医療者にとってもつらいものです。そんなときにも気持ちを分かち合い全力で対処してほしいと思います。医療者が“最善の診療を行うことができた”と思え、患者さんとご家族が“最善の診療を受けてがんとの時間を過ごせた”と思えるようながん医療。それが私たちの目標です。

  • 埼玉県立がんセンター 元病院長、埼玉県立がんセンター 地域連携・相談支援センター長

    日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医

    横田 治重 先生

    婦人科系悪性腫瘍に対し、手術(ロボット支援手術含む)、化学療法、放射線治療を症状に応じ提供している。また、婦人科悪性腫瘍のそれぞれの段階の診療において、常に自覚的症状を最大限緩和するような治療(症状緩和治療)の実施に力を注いでいる。さらに、必要に応じ院内の緩和ケアチームや緩和ケア科と連携しながら、婦人科チームが共働して診療にあたっている。

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