院長インタビュー

治すのは病気ではなく、社会で暮らす患者さん。QOLを意識した診療にこだわる福井県済生会病院

治すのは病気ではなく、社会で暮らす患者さん。QOLを意識した診療にこだわる福井県済生会病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

福井県福井市にある福井県済生会病院は、社会福祉法人 恩賜財団済生会の病院の1つとして1941年に開設されました。現在は地域の二次救急を担うと同時に、急性期から回復期まで幅広く医療を展開しています。地域の中核的な病院として地域医療を支える同院の役割や今後について、院長の笠原 善郎(かさはら よしお)先生にお話を伺いました。

先方提供
提供:福井県済生会病院

当院は1941年に恩賜財団済生会福井診療所として開設されました。済生会は「恵まれない人々のために施薬救療による済生の道を広めるように」との明治天皇のお言葉“済生勅語”により創設された恩賜財団で、当院は全国に80か所以上(2023年時点)ある済生会の病院の1つです。福井県済生会病院に改称したのは1950年で、当時の病床数は50床でした。その後、施設の増設・設備の充実を続け、現在の診療科目は24科、許可病床数は460床となっています(2024年7月時点)。救急では医療圏における二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担っています。年間約3,100台の救急車を受け入れており、ウォークインを含めると救急患者さんの数は年間約11,000人*に達します。

当院の使命は次の2つです。1つ目は済生会の病院として、社会的に支援を必要とする方々を支援することで、医療費の免除や減額、医療支援、性暴力被害者の支援事業などを行っています。2つ目は地域の公的病院として、地域の皆さんに寄り添い、適切な医療を提供することです。単に高度な医療を追求するのではなく、患者さんの身体(Physical)・心(Mental)・生活(Social)の在り方を優先して考え、常に患者さんの立場に立った医療を提供することが重要だと考えています。

*2023年度実績……救急車受け入れ:3,143件、救急患者数:11,167件

地域の皆さんに健康や医療について興味を持っていただくことを目的に、病院を開放したイベント“済生会フェア”を毎年に開催しています。実物の機器やVR(バーチャル・リアリティ)を用いた手術体験、無料で検査が受けられる健康エリアが大変好評です。こうしたイベントを通して医療や福祉、健康に興味を持っていただけたら嬉しいですね。その中から医師や看護師など医療従事者を目指す方が一人でも増えれば、地域医療にも貢献できるのではないでしょうか。

がん治療では、X線を用いた放射線治療装置“トモセラピー”を2009年に北陸で初めて採用し、2012年には新型トモセラピーを追加導入して2台体制で放射線治療に取り組んできました。そして2023年5月には、北陸では2台目となる新しい放射線治療装置“サイバーナイフ”を導入しました。

サイバーナイフは高精度な照射が可能であり、集中的に放射線量を照射することができる治療装置で、しかも治療にかかる日数が短縮できるという特徴があります。特に高齢の患者さんの場合、治療に時間をかけることで体力が低下してしまう可能性があることから、健康寿命を考えた場合にも、短期間で治療が終了するサイバーナイフには大きな期待ができます。

高齢化社会の進展で介護が大きな負担になる家庭が増えています。そうした負担を軽減するためにも、当院では地域の医療機関と連携した認知症の診療に力を入れています。2024年2月からは、アルツハイマー型認知症の治療薬“レカネマブ”(2023年12月より保険適用)の処方を判断するための検査を始めました。福井県内では初めてになるかと思います。

レカネマブが投与できるのは、アルツハイマー型認知症による軽度認知障害、または軽度の認知症に限定されています。さらに、投与対象になるかどうかは臨床診断やMR検査、認知症検査、アミロイドPET検査などさまざまな検査が必要になるなど、厚生労働省のガイドラインに従って判断しなければなりません。実はこうした診断・検査ができる体制を整えるのが非常に大変なのですが、当院はチーム医療を得意としており、短期間で検査を始める準備ができました。

がんの患者さんは増加傾向にあり、男性のがんによる死亡の第4位、女性では3位になっています(2021年時点)。主要ながんの中でも生存率が低く、自覚症状がほとんどないため早期発見が難しいという特徴があります。しかし、早い段階で見つけて治療を始めれば、完治することも可能な病気です。そこで当院では2015年から“胆道・膵疾患外来”をスタートさせ、早期発見・治療に向けた診療体制を整えました。

膵がん手術に関しては日本肝胆膵外科学会より高度技能専門医修練施設(B)の認定を受けており、肝胆膵外科高度技能専門医の資格を持つ医師を中心に手術を実施するなど、診療体制が充実しています。

肝臓の病気においては、B型とC型のウイルス性肝炎が薬で治療できるようになってきました。そのため、ウイルス性肝炎を原因とした肝がんは減っているのですが、脂肪肝を原因とした肝がんは減っていません。そこで当院では、診療の中心をウイルス性肝炎から脂肪肝にシフトして、肝がんの減少に取り組んでいます。肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれるほど、症状が進行しないと自覚症状が現れにくい臓器です。そのため、当院では脂肪肝外来を開設し、脂肪肝の患者さんの早期診断・治療に努めています。さらに県内唯一の肝疾患診療連携拠点病院として、市民公開講座を開催し積極的に市民へ啓発活動も行っています。

先方提供
提供:福井県済生会病院

がんで悩む患者さんやそのご家族をサポートする取り組みも行っています。その1つが“がん哲学外来”で、毎月第1金曜日にメディカルカフェ(がんサロン)内で開催し、当院の医師ががんの悩みを抱える患者さんやご家族と個別で対話しています。根底にあるのは、“がんであっても笑顔を取り戻し、人生を生きることができるように支援したい”という願いです。より多くのがん患者さんが少しでも安心して日々を過ごせるよう、対話を通して寄り添っていきたいと思います。

先方提供
提供:福井県済生会病院

また、ハローワーク福井や福井産業保健総合支援センターと連携して、がん患者さんを対象にした就労支援も行っています。福井県は共働き家庭が多く、女性が復帰しようとしても就職できないといったケースが散見されることから、特に女性の就労支援は重要なテーマです。私たちは“びっくり退職”と呼んでいますが、がんの告知を受けるとびっくりして、治療に専念するため仕事を辞めてしまうケースがあります。しかし、近年は医療の進歩で生存率が向上し、病気と長く付き合いながら日常生活を続けていくことができるようになってきています。治療によって金銭的な負担が増えることもあるため、がん患者さんが病と闘っていくうえで、就労支援はとても重要だと考えています。

最新の医療機器を導入し、難易度の高い手術を成功させることも大切だと思いますが、高齢化社会になってくると、健康寿命を考え、患者さんのQOL(クオリティ オブ ライフ:生活の質・生命の質)を優先することもとても重要な視点になってきます。当院は理念として“患者さんの立場で考える”ことを掲げており、今後ますます求められるこの視点をこれからも大切にしていく所存です。常に患者さんの生き方・考え方、そして医療に求めるものをしっかり受け止め、そして理解し、患者さんを最優先した医療の提供を目指してまいります。

*病床数、診療科数、医師、提供している医療の内容等についての情報は全て2024年7月時点のものです。

実績のある医師をチェック

Icon unfold more