北海道室蘭市に建つ社会医療法人 母恋 日鋼記念病院は、高度専門医療の提供と地域医療機関との連携による質の高い医療環境づくりを目指しています。
「病院は地域の財産、職員は病院の財産である」という理念のもと、地域に求められる医療を提供し続ける同院の取り組みについて、院長である柳谷 晶仁先生にお話を伺いました。
1911年1月に「私立楽生病院」として株式会社日本製鋼所内に開設したのが、当院の始まりです。以来100年を超える長い間、この室蘭の地で住民のみなさまのニーズに応える医療を提供してきました。
1981年にCTを導入し、その後もMRI、リニアック、PETと専門性の高い医療に欠かせない医療機器を積極的に導入してきました。5大がんの治療はもちろん、それ以外のがんの治療にも積極的に取り組み、2007年には地域がん診療連携拠点病院に指定されました。患者さんにいつまでも自分らしく生活していただくため、院内独立型の緩和ケア病棟(22床)も開設しました。また、同法人内に老人保健施設や訪問看護ステーションを設立し、当院の療養病床・在宅ケアセンターなどと密に連携することで、急性期治療後も患者さんやご家族のニーズに合わせた療養環境を提供しています。
当院は、2010年に社会医療法人の認定を受けました。救急医療、小児救急医療、周産期医療、災害医療など、公益性の高い医療を将来にわたって提供し続けることを目指し、日々努力しています。
当院が医療を提供する北海道の西胆振地域は、北海道の中央南部に位置し、室蘭市、登別市、伊達市、豊浦町、洞爺湖町、壮瞥町の6つの市町で構成されています。
2018年1月現在、病床数は479床を構え、ICU(集中治療室)、NICU(新生児治療室)および全室個室の緩和ケア病床を含む一般病床387床と、療養病床92床を有しています。
地域の医療機関の先生方との連携も積極的に行っています。2018年1月、当該地域では北海道ではじめて医療・介護連携を実現した「SWANネット」が稼動しました。システムを介した情報開示・医療連携によって地域の医療機関をはじめとした福祉・介護施設との連携を密に行い地域医療の質向上に寄与したいと考えています。また、地域の医療機関の先生方からの各種検査のご依頼は年間800~1,000件ほどお受けしており、特にCT・MRI・PET・RI検査を行った際には、経験豊かな放射線科担当医による読影レポートをお返ししています。
西胆振医療圏の地域がん診療拠点病院に指定されている当院は、総合病院として幅広い診療科を有しているため、五大がん(肺がん・大腸がん・胃がん・乳がん・子宮がん)以外のがんにも対応しています。たとえば鼻・口・のど・上あご・下あご・耳などにできる頭頚部がんの場合、耳鼻咽喉科・口腔外科・形成外科など診療科の垣根を超えたチームで、がんの切除および再建手術などを行っています。
医療技術の向上に合わせて、医療機器の更新も積極的に行っています。2017年7月にリニアック(放射線治療装置)を更新し、これまでの機械より正確かつ、高出力のピンポイント照射が可能となりました。2018年には当該地域ではじめてIMRT(強度変調放射線治療)を開始する予定です。IMRTは、腫瘍の形に合わせて放射線量を集中させ、正常な組織へのダメージを少なくできる治療です。これまでより短時間で、精度の高い放射線治療ができるようになります。
医療の進歩とともに、がん患者さんが安心してこの地域で暮らすことができるよう、がん患者さんのフォローアップや在宅緩和ケアに対応した地域連携をさらに強化していきます。
当院ではがんと診断されたときから、外来や入院、自宅療養などさまざまな場面において、患者さんに緩和ケアを提供する体制を整えています。緩和ケアは決して治療を終えたあとに提供されるものではなく、がんの初期から「治す」治療と平行して実施すべきものと考えています。そのために、当院の緩和ケアチームは、身体的な苦痛や心の不安などを軽減し、患者さんが安心して前向きに治療を行えるよう支援しています。また、緩和ケア病棟では痛みやそのほかの苦痛を取り除くための専門的な知識を駆使し、医師や看護師以外にもソーシャルワーカー、管理栄養士、臨床心理士、理学・作業療法士、言語聴覚士、音楽療法士、薬剤師、ボランティアなど、さまざまな職種がチームを組み、患者さんとご家族のニーズに応えられるよう活動しています。
2001年には、院内独立型緩和ケア病棟を開設しました。全室個室で、ご家族用のベッドやご家族と一緒に入ることもできるお風呂もあります。大切な時間だからこそ、患者さんご自身あるいは家族や友人のために使いたいと願う患者さんの生き方を、積極的に支援しています。
在宅で療養を希望される患者さんの支援にも取り組んでいます。緩和ケア病棟に入院して苦痛症状を取り除くことができたあと、ご自宅への退院を希望される患者さんには、退院の準備や在宅療養環境の整備もサポートしています。緩和ケア科外来を実施しているため、通院で緩和医療を受けることもできます。
当院は西胆振地域の地域周産期母子医療センターとして2001年に認定され、通常分娩はもちろん、ハイリスク分娩や専門的な新生児医療も実践しています。24時間体制で診療を行っており、当院に通院されている妊婦さんだけでなく、この地域すべての妊婦さんに対して転入院を受け入れています。産婦人科と小児科は同じフロアーにあり、NICU(新生児集中治療施設)6床のほか、MFICU(母体胎児集中治療室)4床を持ち、妊娠中のお母さんから生まれた赤ちゃんまで、一貫した治療が可能です。
陣痛から分娩・産後の回復までを同じ部屋で過ごすことができる地域で唯一のLDR(陣痛分娩回復室)を2床整備しています。移動の大変さがなくリラックスして出産に臨めると、妊婦さんに好評です。
助産師外来では、妊娠中の不安や疑問を助産師がじっくり伺い、少しでも安心して出産に挑めるよう支援します。また、産後の母乳・育児に関する悩みについて助産師が相談に応じる母乳育児外来は、当院で出産した患者さん以外にも対応しています。
当院では、産婦人科・小児科・小児外科・麻酔科(ペインクリニック科)・眼科・耳鼻咽喉科など総合病院ならではの豊富な診療科が連携し、妊娠・出産・産後を通じて、お母さんと赤ちゃんの健やかな成長を支えています。
当院が位置する室蘭市は、大規模石油コンビナートや製鉄所などの工場群をかかえており、火災事故・化学災害などの災害に対しての備えが必要です。また、20~30年の周期で噴火を繰り返す有珠山をはじめ、樽前山・駒ケ岳などの24時間体制で観測している活火山があり、地震や噴火が予想されています。
当院は1997年1月に災害拠点病院に指定されました。災害拠点病院とは、災害時における初期救急医療体制の拠点となる医療機関のことで、災害医療支援機能を有し、24時間対応可能なことが求められます。当院では、自家発電装置・ヘリポート・備蓄倉庫・受水槽などの整備や、DMAT(災害派遣医療チーム)の結成など、災害時に迅速に医療救護活動ができるよう備えています。災害発生時には、行政や地元医師会、各医療機関と緊密な連携を取りながら、医療救護活動にあたります。
当院では、病院の各所でボランティアのみなさまが活躍しています。2018年1月時点で約80名ほどの方にご登録いただいており、地域と病院のかけ橋として活動されています。
患者さんにご利用いただいている図書室は、開設当初からボランティアのみなさまが運営されています。2017年には設立20周年を迎えました。約1,200冊の病気や医療にまつわる本の貸し出し(入院患者のみ)や、持ち帰り自由な資料・パンフレットの配布、パソコンを使った検索など、患者さんやご家族が病気や医療に関する情報に触れるお手伝いをお願いしています。
当院を訪れるご高齢の患者さんやお体が不自由な方が安心して受診・検査などを受けられるよう手助けをしていただいています。
緩和ケア病棟では、患者さんやご家族になるべくご自宅での生活に近い環境で過ごしていただけるよう、医療スタッフと協働して活動していただいています。日々の生活にかかわることから、ガーデニングやアロマテラピー、法話などそれぞれ得意なことや興味のあることを通じて、自分のペースでご参加いただいています。
当院は医療の質の向上にむけて、人材育成を最重要事項としてこれまで教育にもっとも力を入れてきました。認定看護師などの育成をはじめ、市中病院ならではの実践的な技術指導によって初期臨床研修プログラムも充実してきております。さらに医療専門職以外のメディカルクラークやドクターズクラークの育成にも力を入れています。すべての職員が向上心を持って切磋琢磨することで、常によりよい医療を提供し、地域に求められる病院としてありつづけたいと考えております。
チーム医療においてスタッフと医師が必要な知識を共有して、安全で円滑な医療を提供するために、各診療科の医師が病状と治療方法などについてレクチャーします。毎月2回実施しています。
医師の臨床研究をサポートするため、学術研究サポートチームが診療録や動画像データの抽出・処理、統計処理、文献検索、英文翻訳から学会や講演会の資料作成、論文・医学雑誌への投稿原稿調整まで幅広く対応しています。また、臨床データのデータベースから研究対象症例や専門医申請に必要な症例の情報提供なども行っております。日々の診療が忙しくても、研究を続けたいという医師を病院全体でサポートします。
医師事務作業補助者約60名を外来や病棟に配置し、カルテ入力や文書作成を代行し、事務作業の効率化と医師の負担軽減を図っています。
室蘭の地に開設して以来100年間、地域のみなさまに支えられて当院は存在してきました。
これから、超高齢化社会を迎えるなかで地域の医療のあり方が問われています。私たちは、患者さんにとって「訪れたとき、いつも「ほっ」としてもらえる病院」であるために、常に一歩前を目指し、よりよい医療の提供に励みます。それによって「日鋼記念病院は地域の財産である」と地域のみなさまから思っていただけることが、当院の理想の姿だと考えています。
みなさまが安心して暮らすことができるよう、地域の医療機関と力を合わせながら努力してまいります。
社会医療法人母恋 日鋼記念病院 院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。