市立室蘭総合病院は北海道中央南部に位置する室蘭市において、1872年から145年以上ものあいだ地域に根ざした医療を提供し続けています。同院は、「がん診療連携指定病院」、「脳神経外科・精神科のある総合病院」、「災害拠点病院」、「重篤な救急患者さんの救命医療を担う病院」、といったさまざまな特色をいかして、地域の医療を担う中核病院として質の高い医療の提供をめざしています。長い歴史を将来へつなぎ、地域の方々から愛される病院であり続けようと努力されている同院の病院事業管理者兼院長である金戸 宏行先生にお話を伺いました。
当院は、1872年に前身である官立病院が北海道開拓史により室蘭市に開設されて以来、この地域の基幹病院として室蘭市をはじめとする近隣市町村住民に高度医療を提供してきました。当院が位置する北海道西胆振医療圏は、北海道の中央南部に位置し、室蘭市、登別市、伊達市、豊浦町、洞爺湖町、壮瞥町の6市町で構成される人口約18万人が暮らす地域です。高齢化率、単身高齢者世帯数の割合が全国平均よりも高く、地域の高齢化に対応した医療が求められています。
当院は内科や消化器内科・呼吸器内科をはじめとして、外科・精神科・泌尿器科・脳神経外科・整形外科など24の診療科を有しています。麻酔科[注1]や臨床検査科、放射線科、リハビリテーション科など 院内の各診療科の垣根を越えた連携もスムーズで、複数疾患をかかえているご高齢の患者さんをトータルで診療できます。
当院の病床数は、一般病棟401床、結核病棟24床、精神病棟120床、感染症病棟4床の合計549床です。2015年5月から地域包括ケア病棟を開設し、地域のみなさまができるだけ住み慣れた我が家で安心して暮らせるよう、地域の医療・介護機関と連携を密にして、患者さんをサポートいたします。
[注1]麻酔科標榜医 部長 下舘勇樹先生 他
西胆振地域唯一の総合病院における入院・手術が可能な脳神経外科として、ほかの診療科と連携・協力してよりよい医療の提供を目指しています。脳卒中や頭部外傷・脊椎損傷といった重篤な救急患者さんのほとんどが、総合病院である当院に運ばれてきます。2017年度には年間1,997台の救急車[注2]を受け入れており、医師は24時間体制で、昼夜を問わず緊急手術で対応しています。MRI、CT、血管X線撮影装置(DSA)などの医療機器により脳、脊髄の診断を丁寧に行い、特に脳卒中の予防に力を入れています。近年、治療可能な認知症といわれる特発性正常圧水頭症に対しても、積極的に鑑別診断、治療を行っています。
慢性的な手足のしびれや痛みは、神経系全体にわたる原因が考えられます。その原因となる、脳や脊椎脊髄疾患および末梢神経疾患を幅広く治療しています。慢性難治性疼痛(脳卒中後疼痛、脊椎手術後疼痛など)に対しては、現在いくつかの外科的治療選択肢が存在しますが、日本ではあまり認知されていません。当院では、薬物治療では痛みが取れない患者さんに対して、外科的治療法のひとつである脊髄刺激療法(SCS)を積極的に行っています。しびれや痛みで困っている患者さんはぜひ一度ご相談ください。
[注2]2017年4月~2018年3月 実績
当院は精神病棟を持つ総合病院の強みをいかし、精神疾患と一緒に身体疾患などほかの合併症も合わせて診察できる医療機関として、多くの患者さんを受け入れています。2017年9月現在、精神科外来では4名の常勤医が診察し、若い方から高齢の方まで毎日たくさんの患者さんが受診しています。
当院の精神科の治療は主に薬物治療と精神療法が中心となり、医師による診察だけでなく、看護師、作業療法士、臨床心理士、精神保健福祉士がチームとなって精神科デイケア、作業療法、訪問看護などを行っています。リハビリテーションの充実を図り、患者さんにとって無理のない社会復帰をめざしています。
当院は、北海道がん診療連携指定病院として2013年に指定される以前から、手術療法、放射線治療、抗がん剤治療をはじめとするがんの集学的治療を実施しています。2008年に外来化学療法室を開設したことをきっかけに、とくに長期間の抗がん剤治療が必要な患者さんへのチーム医療を本格的に導入しました。医師・看護師・薬剤師・医療ソーシャルワーカー・栄養士が中心となり、患者さんの状態や生活習慣に寄り添った治療方針・支援の提供をめざしています。さらに、患者さんが日頃通っている調剤薬局の薬剤師さんにもカンファレンスに参加していただき、院内だけではなく院外でも患者さんのサポートができるように心がけています。また、がん治療の正しい知識や技術の向上をめざし、当院の医師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、栄養士、病棟および外来看護師、がん化学療法看護認定看護師がそれぞれ講師となって院内、院外の医療職に向けて、がん化学療法勉強会や緩和ケア講習会を定期的に行っています。また、2018年4月より日本臨床腫瘍学会認定のがん薬物療法専門医が着任し活動の中心を担っています。
がん相談支援センターを院内に開設したり、がんサロン「ひまわりの会」を定期的に開催するなど、院内外の患者さんやご家族からの相談もお受けしております。また、当院はがん患者さんやそのご家族を支援し、地域全体でがんと向き合いがん征圧を目指すチャリティーイベント「リレーフォーライフ」にも携わっています。当院のチーム「くじらんハート」は、仲間とタスキを繋ぎながら24時間歩き続けるリレーウォークに毎年参加しています。
患者さんが、がんとともにその人らしい生き方ができる地域社会をめざし、これからも努力を続けてまいります。
当院は2008年に災害拠点病院として指定を受け、地震・津波・台風・噴火等の災害発生時において、救命医療などの高度な医療の提供を行い、被災患者さんの受け入れや、医薬品・医療材料などの供給が円滑にできるよう、マニュアルを作成したり、災害訓練を実施したりして、備えています。地域のみなさまの命を守るのが公的病院の役目ですので、災害対策は特に力を入れるべき事業として取り組んでいます。
2017年3月に厚生労働省から災害拠点病院に対して義務付けられた業務継続計画(BCP)の策定についても速やかに行いました。業務継続計画(BCP)とは、被災した病院のダメージを最小限に抑え、早期に回復し、被災者の診療にあたれるよう事前の備えや対応を盛り込んだマニュアルのことです。道内では、当院の業務継続計画(BCP)を参考にこれから策定される医療機関もあります。
また、当院では毎年災害訓練を行っており、その特徴としてNBC災害に対する訓練を定期的に行っているという点があります。このNBC災害とは、核(Nuclear)、生物(Biological)、化学物質(Chemical)による特殊災害のことです。NBC災害の一報を受けたスタッフは水除染、乾的除染スペースの準備を整え、防護服に着替えて、搬送されてきた患者さんを受け入れます。歩行可能な患者さんには着替えと体を洗う指示を行い、重症者はその場で服を切り、シャワーで体を洗うなど、症状別に除染を行います。道内随一の重化学工業都市である室蘭だからこそ、このような特殊災害にも対応できる災害拠点病院でありたい、と考えています。
当院は、手術の症例数が比較的多く、幅広い症例の患者さんがいらっしゃる総合病院であるため、若手の医師をしっかり育てやすい環境です。特に重要な役割を果たすのが「医の原点」でもある救命救急医療です。当院は西胆振地域における救急医療・災害医療の中心的役割を担っています。脳神経外科を含む外科系診療科が充実していることから、高エネルギー外傷(交通事故など)に対応できる病院として、西胆振地域で発生する高エネルギー外傷の症例の多くが搬入され、麻酔科・脳神経外科・整形外科よりなるチームが初診にあたります。地域医療を支える最後の砦である当院で、ぜひ医師としての腕を磨いてください。
少子高齢化の時代が進み、西胆振地域の高齢化率もますます上昇しています。若い方の人口は減少し、医療や介護を担う人員の確保が難しくなっているのは事実です。これからは、地域の病院同士の連携が重要になると考えています。地域の診療所の先生方との連携ももちろんですが、大きな総合病院同士が互いの得意なところをいかした連携をすることで、地域のみなさまによりよい医療の提供ができるようになると思っています。病院同士が重複する強みを互いに切磋琢磨する時代ではなく、それぞれの特徴を認めて、よい連携を組めるようにしたいですね。2017年11月から、室蘭市内の大きな総合病院、医師会、行政、有識者の方が集まって、将来の医療体制づくりに向けての話し合いが始まりました。各病院が抱えている問題を、みんなでうまく解決できたらと思っています。
当院は145年の歴史を重ね、「思いやりのこころがかよう病院」を理念として発展し続けてまいりました。この室蘭の地に根ざした医療を、これからも続けていきたいと思っています。地域のみなさまの健康と暮らしを支え、地域のみなさまから信頼され、愛される病院でありたい、そう願っています。そのために私たちは、新しい知識の習得や、医療技術の向上に努め、地域の医療・介護機関と連携を密にして、高度な医療と市民のニーズに対応した医療を実践できる病院づくりをめざしてまいります。
室蘭市 病院事業管理者、市立室蘭総合病院 病院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。