2004年に独立行政法人へ移行、そして2013年に現在の病院名となり、地域と共に歩んできた「仙台西多賀病院」は、地域の歴史と共にその診療内容を変化させてきました。
その歴史は古く、1934年に当地に開設された市立西多賀療養所と1941年に今の仙台空港近くに開設された第二陸軍病院の2病院をルーツに持ちます。
その歩みを振り返ると、同院は全国に先駆けて小児患者を対象としたベットスクールを実施したり、全国で初めて筋ジストロフィーの長期療養患者の受け入れを行ったり、それぞれの時代のニーズに先駆けて進化してきました。
時代のニーズに合わせ進化するという“アイデンティティ”は現代にも受け継がれ、地域のニーズに合わせて現在も進化し続けています。今回は、院長の武田 篤先生に、歴史的な背景と仙台西多賀病院の未来について、お話をお伺いしました。
仙台西多賀病院は、戦後の混乱期を経て、国立療養所として大きな役割を担うために歴史をスタートしました。当時、結核の診療がとても重要で、当院もその治療を行う機能を有していました。1934年に前身となる病院(市立西多賀療養所)が開設しているので、2024年で90周年を迎えます。
当時の画期的な取り組みとして、小児の結核患者の受け入れを行うと同時に、全国に先駆けてベットスクールを実施し、長期入院をしている小児患者の学習環境を整備しました。この活動は、その後の全国の養護学校・支援学校の源流といえるものです。
また、1960年には全国で初めて、筋ジストロフィーの長期療養が必要な患者の受け入れを開始し、その後の筋ジストロフィー患者を対象とした当院を含む全国の専門病棟の開設につながりました。
その後も地域のニーズや国全体での役割を担いながら歩んでまいりましたが、医療の進歩とともに結核の患者は激減し、1995年には結核病棟を閉鎖してその歴史的な役割に終止符を打ちました。
そして結核感染にともなう脊椎カリエスの治療に取り組んでいた整形外科はその後、変性性脊椎疾患の診療に取り組む様になりました。また、筋ジストロフィーの診療を行うなかで、当院には小児神経や脳神経内科の診療領域が発展して来ました。
このように当院は歴史的にも時代のニーズを先取りしながら、その診療内容を変化させて来ました。
脳神経内科は、筋ジストロフィー症、パーキンソン病など神経筋疾患を診療する基幹施設として、神経筋疾患の遺伝相談、神経難病のリハビリテーション、在宅医療を含めた専門医療の提供を行っています。さらに重症心身障害児(者)医療でも、小児科を中心とした専門医療と社会支援の提供を行っています。
パーキンソン病においては、私が赴任した当時は通院している患者さんが100名程度でしたが、現在は1,000名を超えており地域を超えて中心的な役割を担っています。治療法もさまざまな選択肢がでてきており、最近では“デバイス補助療法”という治療を導入いたしました。デバイス補助療法とは、従来の薬物療法で十分な効果が得られない場合に検討される治療法であり、持続皮下注療法、持続経腸療法、脳深部刺激療法(DBS)という3つの方法があります。当院ではこの3つの治療法全てに対応しており、患者さん一人ひとりに合わせた治療を行っています。
新たに開設された脳神経外科では、機能的外科という分野の治療を専門に行っており、パーキンソン病や難治性疼痛に対する外科治療などを実施しています。先述したデバイス補助療法の1つである脳深部刺激療法(DBS)では着実に実績を重ねており、日本定位・機能神経外科学会の技術認定施設となっています。また、難治性疼痛に対する外科治療である持続脊髄刺激療法(SCS)も積極的に行っており、東北地方でも中心的な役割を担っています。
整形外科では、脊椎(せぼね)の病気、関節の病気に分けて診療を行っています。特に脊椎外科は歴史が古く、中でも変性性脊椎疾患の外科治療において専門性が高いことから、国内のみならずアジアの各国からも幅広く研修生を受け入れるなど、指導的な立場として発展してきました。
現在、脊椎手術だけで年間600件*前後の実績があり、地域のみならず県外からも患者さんがお見えになります。当院の脊椎手術は、内視鏡を用いた低侵襲な手術が中心となっており、体への負担が少なく安全性の向上を目指した治療を行っています。
* 脊椎手術実績(2023年4月~2024年3月)……581件
私は2014年4月に院長に就任しましたが、病院の進むべき方向について、思案を重ねてきました。筋ジストロフィーなどいまだに根治的な治療法の乏しい疾患について、長期療養を支える診療機能はもちろん今後も必要ですが、かつては病院での長期療養が必須だったこれらの疾患も、医療の進歩で在宅療養が中心となりつつあります。
また、少子高齢化の流れのなかで、患者数自体も次第に減少傾向にあります。かつては全校生徒200名を超えていた当院に隣接する西多賀支援学校の在学生徒数は、今や十分の一まで減少しました。一方で当院の位置する仙台医療圏では、高齢者が激増しています。地域のニーズに応えようとすると、やはり、高齢者医療の充実を目指して行くべきであると考えるに至りました。
こうした背景から、院長就任翌年の2015年には、認知症疾患医療センター(地域型)開設を行い、翌2016年には、東北大学連携大学院 高齢者認知・運動機能障害学講座開講し、治療の開発や研究、そして専門医師の育成にも力を入れています。
もうひとつ、地域のニーズに十分に応えるために必要なことがあります。それは、最新の治療法や医療機器を迅速に導入するということです。2016年には神経難病等の患者さんの歩行障害を改善する治療の一環として、“医療用下肢タイプロボットスーツ”を、東北で初めて導入、また2017年には、東北初となるSPECT-CT装置を設置し核医学検査を導入。パーキンソン病や認知症などのより正確な診断に活用しています。
今後は、今まで以上に筋ジストロフィーやパーキンソン病などの神経難病の治療の充実や重症心身障害児(者)の積極的な受け入れはもちろん、認知症や整形外科疾患などの高齢者医療にもますます力を入れて行きたいと思っています。また、患者さんの負担軽減にもなる内視鏡による低侵襲脊椎手術なども積極的に実施してまいります。
地域のニーズに応え、地域医療にこれまで以上に貢献できるように、専門的な医療提供、治療の開発や研究、医師の育成を行い、そして、最新医療の導入を中心に、“良い医療を安全に、心を込めて”の病院理念に基づき診療内容をさらに充実させたいと思っています。
仙台西多賀病院は仙台駅から10km圏内と市の中心部に位置しているものの、公共交通の便がよい立地というわけではなく、むしろ少し不便な場所にあります。また、歴史的背景も含めて、筋ジストロフィーやパーキンソン病など専門性の高い医療を提供してまいりました。
今後も当院が地域の方々に選ばれるためには、やはり、広報活動を積極的に行い“知っていただくこと”が大切だと思っています。 地域住民の皆さんには、パーキンソン病や認知症への理解を深める一助として、市民公開講座を年に3~4回実施したり、地域の開業医の先生方との連携を強めるために「病診連携の会」を開催したりしています。
また、患者さんやご家族、地域の方々が、インターネットで検索をする機会が増えていると思います。適切な情報を提供できるよう、インターネットでの情報発信も検討を重ねていきたいと思っています。
地域の高齢化に伴い、高齢者医療の需要はその必要性が高くなっています。未来の医療を担う若い医師には、まだまだ専門家の不足しているこの分野の専門性を磨き、地域に貢献できるように育っていただきたいと思いますし、病院としてもその研修をサポートしていきたいと思っています。
これからの仙台西多賀病院は、今まで以上に障害を持った患者さんへのよい医療の提供と、脳神経内科/外科や整形外科を中心に、高齢者に対する医療の提供を充実させるため、最新の医療を積極的に導入しながら患者さんやご家族の立場に立って、心を込めた医療を提供してまいります。
*診療科や医師、提供している医療の内容等についての情報は全て2024年10月時点のものです。
独立行政法人国立病院機構仙台西多賀病院 院長
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