院長インタビュー

患者さんへ最先端の医療を届けるために―名古屋医療センターが目指す姿

患者さんへ最先端の医療を届けるために―名古屋医療センターが目指す姿
直江  知樹 先生

独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター 院長

直江 知樹 先生

この記事の最終更新は2017年10月16日です。

独立行政法人 国立病院機構 名古屋医療センターは1878年(明治11年)に名古屋衛戍(えいじゅ)病院として開設されました。戦前までは陸軍病院として機能し、戦後は国立名古屋病院として、政策医療(国がその医療政策を担うべき医療)や地域医療を提供してきました。2004年(平成16年)の独法化によって現在の名前で再スタートしています。

大都市での基幹病院である同センターが、どのような理想を掲げ、日々の取り組みを行っているのか、院長である直江 知樹先生にお話を伺いました。  

当センターは、全国に143ある独立行政法人国立病院機構(NHO)病院のひとつです。診療科は32科、病床数は740床、働いている職員数は約1,300人という、都市型の大病院です。

受診に訪れる患者さんの多くは、当センターが位置している名古屋市中心部、そして名古屋市北部にお住まいの方々です。当センターは研究にも力を入れています。市中病院としての特性と大学病院などのような研究病院としての特性を併せ持った、働きがいのある病院を目指しております。

当センターは3次救急患者の対応を行っており、年間の救急車受け入れ台数は8,000台近くにのぼります。心肺停止状態で運ばれる患者さんの数は名古屋市内でもトップであり、この地域の救急医療では最後の砦となる役割を果たしています。

高齢化が進んできているため、ご高齢の方が肺炎や意識障害などで運ばれてくることも多くなってきました。当センターでは脳血管内治療を積極的に行っており、脳血管疾患の患者さんの予後が劇的に改善していることはご存知のとおりです。

また、近くに繁華街がありますので、事故や飲酒、過量服薬などで運ばれてくる患者さんも多く、最近ではそのうち外国人比率も高くなっています。

地域がん診療連携拠点病院に指定されている当センターでは、院内がんセンターを設けて、がんの患者さんを総合的に支援しています。手術件数が多いだけでなく、緩和ケアチームや相談支援センターがあり、談話や情報収集の場として利用できるやすらぎサロンなどもある、充実した施設となっています。

名古屋市内でも特に症例数が多いのは、血液がんや小児がん乳がんなどです。血液内科では治験数の多いことが特徴で、小児科では思春期・若年成人のがんにも力を入れています。また眼部腫瘍に関しては東海地区のセンター的な病院となっています。 

呼吸器内科では、気道が閉塞した症例に対して、気道の確保や呼吸状態の改善のために、ステント留置術を行っています。特にシリコンステントを使った治療では、日本一の手術件数を誇ります。

また、末梢肺野型の肺がんの診断には、より安全に、患者さんの負担を少なくできるよう、極細経・細径気管支鏡を使った気管支鏡検査を取り入れています。この気管支鏡を使った検査の症例数も、国内最多です。

当センターでは、臨床研究センターを整備し、血液病や免疫不全の病態解明、がんのゲノム医療、臨床試験・疾患登録での研究支援を3つの柱として研究活動を行っています。

研究活動に携わっている専従職員は、医師の他、薬剤師、検査技師、臨床研究コーディネーター、生物統計家など約50名に上ります。NHO施設のなかでも中心的役割を果たしており、NHO本部総合研究センターと協力しながら、全国でネットワークを作って臨床研究を進めています。

 

現在行われている医療は、薬物治療を始めとしてまだまだ発展し続けます。患者さんにとって、最適の治療(個別医療)、満足のいく治療、QOL(生活の質)の維持が可能な治療はまだまだ発展途上にあります。そのため弛むことなく臨床研究を続けていく必要があります。またどの診療科においても、医療の現場で湧き上がる疑問をクリニカルクエスチョンとして問うことから始め、臨床研究をもっと身近なものにしていってほしいと思います。

地域医療支援病院として、病診連携を積極的に進めているほか、勉強会やイベントなども行っています。先日は、NHOの3病院が合同で市民公開講座を行いました。うちわやパンフレットなどを積極的に配って声をかけ、560名もの方にお越しいただきました。

また、看護学校と合同で、毎年10月に「金シャチフェスタ」というお祭りを開催しています。こちらも地域住民や患者家族の方々にお越しいただいて、健康チェックや模擬店、アロマセラピー、学生のダンスコンクールなどを行っています。

患者さんに参加いただいた禁煙川柳コンクールもご好評頂いております。

当センターは地域の病院という役割を担っていますが、NHO病院だからできることもあります。

たとえば全国規模でネットワークを使った研究を進めることは、一般の病院では難しいと思います。人材の育成や研修、143拠点あるネットワーク連携もそうです。また、HIVなど感染症診療や、災害医療も特徴の一つでしょう。ちなみによく誤解されるので申し上げますが、診療面では一切国民の税金は投入されていません。地方自治体や民間病院では難しいことも行いつつ、地域の病院として受け入れられる努力も同時に行っているのがNHOと言えます。

ご高齢の患者さんが増えてきており、特に後期高齢者の入院が多くなっています。在院日数をどう短縮するか、退院できない患者さんをどちらへ紹介するか、ということを考えていかなくてはなりません。

診療所と3次救急病院のあいだをつなぐ、受け皿となる場所が少なくなってきています。都市部では中小病院が少なくなり、老人保健施設などから直接搬送されてくる場合も多いです。在宅医療を充実させることが必要ですが、都市部では難しい面もあります。高齢化率や独居率が高くなっている現在、介護なども含めて地域でどう対応するのかが課題です。

院長である私自身ができることは限られています。スタッフ全員が目線を高くして、少しずつ病院をよくしていこうと考えることが必要だと思っています。病院を支えるのは、スタッフのみなさんです。謙虚でありながらも自信を持ち、よりよい医療を提供していこうという姿勢が、病院としてもっとも大切なのではないでしょうか。

問題に直面したとき、どうすればそれを改善できるのか、一人で悩まずいつもチームで解決していく、一人一人が現場で責任を持ちながらもチームワークでさらなる改善を目指す、そういう病院は伸びると思います。

2004年(平成16年)に独立行政法人となってから、『病む人の立場に立って、安全でより質の高い医療を提供します。』という言葉を病院理念として掲げています。その言葉にすべて、私たちの思いは集約されています。

私たち医療者はもちろん努力しますが、よい医療は患者さんと共に作り上げていくものだと思っています。患者さんの理解や協力がなければ、治療は進みません。患者さん自身も私たちと一緒に、自分のためによい治療を選んでいって欲しいと考えております。よい医療を提供するためも、改善すべきところがあればご指摘いただきたいです。

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