静岡県藤枝市の藤枝市立総合病院は、564床を有する総合病院です。志太榛原二次医療圏(藤枝・焼津・島田・牧之原4市)で唯一、地域がん診療連携拠点病院の指定を受けており、救急医療では三次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)を担っています。地域の方々を病気やけがから守る最後の砦となっている同院の役割や今後について、院長の中村 利夫先生に伺いました。
当院は共立志太診療所として1950(昭和25)年に開設しました。1995年に現在の場所に新築移転し、その際に名称を現在の藤枝市立総合病院に変更しています。当院は志太榛原二次医療圏(藤枝・焼津・島田・牧之原4市)に属し、この地域では厚生労働大臣から地域がん診療連携拠点病院の指定を受けている唯一の病院です。救急医療では三次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)を担っており、志太榛原地区の地域医療において、当院が担う責任と役割は非常に大きいものがあります。
志太榛原地区は人口が減少傾向にあり、同地区の人口は約45万人で(2020年時点)、2040年には約40万人まで減少すると予想されています。それに伴って外来の患者さんが減少し、少し遅れる形で入院の患者さんが減少していくと思われます。そのため、将来的には地域全体で病床数を減らしていかなければなりませんが、その一方で寝たきりの高齢者の方が増え、その方々を受け入れる介護施設が不足しそうです。今後はこうした状況を見据え、急性期から介護まで見据えた、地域に密着した医療体制を整備していかなければならないと考えています。
当院は志太榛原地区で三次救急対応と救急集中治療管理、ドクターヘリ症例の受け入れを行っています。同時に救急外来で一次救急(入院や手術を伴わない医療)と二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)の対応もしており、救急車の受け入れ台数は年間で5,000台前後、受診患者数は年間で15,000件前後*になります。そこで救急科の医師を10人体制にして、救急患者の方をスムーズに受け入れる体制を整えました。
当院の救急対応で特徴的なのは、志太消防と連携して、医師が同乗して現場に向かうラピッドレスポンスカーを運用していることです。消防の救急システムは119通報を受けてから救急車が現場に向かい、救急隊による処置を施したうえで病院へ搬送します。搬送時間は約30分が1つの目安になっていますが、志太榛原地区は面積が広いため搬送時間が長くなる傾向にあります。そこで、緊急性が高い病気の場合には救急隊から直接連絡が入り、医師と看護スタッフがラピッドレスポンスカーに同乗して直接現場に向かう、プレホスピタル(入院前救護)のシステムを導入しました。医師は現場に着いたらその場で処置を行い、当院への搬送が必要なのか判断します。さらに、医療スタッフは消防の救急車に同乗し、病院に到着するまで車内で治療を続けます。
*救急科実績……
救急車台数/2020年:4,549台、2021年:4,914台、2022年:5,772台
受診患者数/2020年:12,548件、2021年:13,817件、2022年:14,773件
当院は静岡県の地域がん診療連携拠点病院として、地域の皆さんに専門的ながん医療を提供しています。特に力を入れているのはロボット支援手術です。ロボット支援手術はカメラや手術器具が取り付けられた装置を体内に挿入し、映し出された映像を見ながらロボットアームを操作して手術を行う鏡視下手術のことです。従来からある開腹・開胸手術に比べると、傷口が小さくて出血量も少なく済むことから、手術の傷あとが目立ちにくく、術後の早期回復が期待できるといった特徴があります。当院では2021年3月に“ダビンチ外科手術システム”を導入しました。ダビンチは米国で開発された手術用ロボットで、二眼カメラの映像を元に鮮明な立体画像にする機能があり、従来の内視鏡手術より正確な手術が可能になります。
がん治療の分野で、ロボット支援手術と同様に注力しているのががんゲノム医療です。がんゲノム医療は、患者さんから採取したがん組織を基に遺伝子情報を調べ、それぞれの患者さんのがんの性質を明らかにし、体質や病状に合わせたオーダーメイドの治療を行うがんの治療法のことです。がんの性質を調べてからがん治療を行うため、高い効果と副作用が少ない治療法を選択できる可能性が高まります。厚生労働省は多くの患者さんにがんゲノム医療を受けていただくため、特定の医療機関に集約して整備する指針を定めています。当院はがんゲノム医療連携病院の指定を受けており、遺伝子の変異に合う薬があるかどうかを調べるための“がんゲノムプロファイリング検査(がん遺伝子パネル検査)”を受けていただくことが可能です。保険診療で検査を受けていただくには一定の条件がありますので、まずはお気軽にご相談ください。
当院では待合時間にタブレットをお渡しして、患者さん自身にタブレット端末の問診項目を入力していただく“AI問診システム”を導入しました。紙による問診表に代わるシステムで、症状に合わせてAIが質問を出しますので、患者さんはその質問にお答えいただければ問診が終わります。打ち込んだ回答は電子カルテと連携しており、診察がスムーズに進むことから、患者さんの待ち時間短縮につながっているのではないでしょうか。また、外国語にも対応しており、海外の方々が診療に訪れた場合でも混乱なく診療ができるといったメリットもあります。当院では外国籍の方を診療する機会はそれほど多くありませんが、企業などで働く外国籍の方が多いエリアでは、今後必須のツールになるはずです。
また、当院では優秀な医師を育成するための臨床研修プログラムを用意しています。プログラムでは1年目に救急科、内科、外科、小児科、産婦人科を経験してもらい、どの診療科に進んでも救急の患者さんを落ち着いて診療できるように、そして、乳幼児から高齢者まで年齢・性別を問わず対応できる医師になってもらいます。こうしたプログラムが評価され、15名の研修医の募集に対してうれしいことに毎年40名ほどの応募者があります。研修を終えた方の何名かは当院に残ってくれますので、優秀な若い医師を獲得するうえで強みにもなっています。
藤枝市には“保健委員制度”という独自のシステムがあり、自治会長や町内会の代表者などを中心に、毎年約1,000名が保健委員として市長から任命されます。藤枝市の人口が約14万人ですので、約140人に一人の保健委員がいる計算です。この方々が藤枝市の保健センターを中心に、健康の大切さや検診の必要性を広める活動に取り組んでくださっており、病気の予防や早期発見につながっています。その成果が表れているのが大腸がん検診の受診率です。大腸がんは早期に発見すれば高い確率で治すことが可能な病気ですが、全国的に検診の受診率はなかなか向上しません。一方、藤枝市の受診率は全国平均を2倍近く上回っており、大腸がんの早期発見につながっています。ぜひ皆さんも積極的に健康診断を受けていただき、病気の早期発見・早期治療につなげていただけたらと思います。
*病床数や医師数、診療科、提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年5月時点のものです。