院長インタビュー

地域の健康を守り若手医療従事者の育成に尽力する広島大学病院

地域の健康を守り若手医療従事者の育成に尽力する広島大学病院
木内 良明 先生

広島大学視覚病態学教室(眼科) 教授

木内 良明 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年10月22日です。

広島大学病院は広島県内の大学病院として、高度急性期医療や人材育成を担うとともに、地域医療を支えるためのさまざまなとりくみを行っています。さらには2011年に発生した東日本大震災の被災地に対して医療面から復興に協力しています。

今回は広島大学病院の歴史や現在のとりくみ、今後の展望について広島大学病院 木内良明病院長の先生(2018年5月現在)にお話を伺いました。

広島大学病院 外観(広島大学病院よりご提供)

広島大学病院は1945年に設立された広島県立医学専門学校とその附属医院が起源となっています。1945年の広島といえば8月6日の原爆投下を思い起こす方も多いのではないでしょうか。実は広島県立医学専門学校は原爆投下の前日、1945年8月5日に開校式を行いすぐに疎開、翌日に原爆が投下され、校舎や附属医院が全焼するという数奇な運命を辿ってきました。そのため広島大学病院は、戦後の日本を見守ってきた歴史ある病院です。

上記のように原爆で多くの医療資源を失ってしまった経験を持つ広島県では、大学と医師会、そして県などが協力し戦後の医療を作り上げてきた歴史があります。そのため、3つの組織の協力体制が充実しており、これは2014年より始まった地域医療構想に取り組むうえでも円滑にはたらいています。

たとえば、医師不足の問題や、救急の課題などは大学、医師会、県などそれぞれの関係者が会議を行いながら、今後の方針を検討しています。

2018年7月に広島県、岡山県、愛媛県を中心とした豪雨災害が発生しました。広島県、医師会、他の災害拠点病院と連携を取り対策に当たりました。超急性期、急性期はこれまでの訓練通り行うことで速やかかつ、スムーズな活動を行うことができました。一方で急性期から慢性期の移行が少しギクシャクしました。この点については今後の課題と捉え、改善していきたいと考えています。振り返り、検討を加えることでさらなる防災能力の向上に努めたいと思います。

広島大学病院(広島大学病院よりご提供)

広島大学病院は県内の大学病院として、大きく4つのミッションを掲げています。

<広島大学病院のミッション>

  1. 医学・歯学・薬学・保健学の統合による新しい医療の開発と提供に努めます。
  2. よく理解できる安全な医療の提供に努めます。
  3. 温かい心と倫理観を持つ医療人の育成に努めます。
  4. 平和につながる国際的医学教育・研究の展開に努めます

それぞれのミッションについて説明しますが、これらのミッションはお互いに関連性を持っています。

まず当院では高度先進医療を積極的に取り入れるだけでなく、新たな治療の開発も行っています。治療が難しいといわれた患者さんにもベストを尽くして、よりよい結果が得られるように尽力しています。

末梢血管疾患である、慢性閉塞性動脈硬化症・ビュルガー病(バージャー病)に対する血管再生治療を行っています。この治療法は2008年6月に先進医療として認可(保険診療)されています。
下肢血行障害によって下肢切断におちいる患者さんは、外国では人口10万人あたり年間20〜80人発生していると言われています。当院では、慢性閉塞性動脈硬化症・ビュルガー病(バージャー病)の患者さんを対象とした血管再生療法として自家骨骨髄幹細胞移植を行っています。

また、広島大学整形外科では骨、軟骨、骨格筋、腱、靱帯、神経といった身体の支持や運動を司る器官である「運動器」の再生治療開発の研究を積極的に行っています。特に、軟骨再生の分野では「組織工学的手法」を用いた自家培養軟骨移植を行っています。

自家培養軟骨移植は、少量の軟骨組織から軟骨細胞を分離し、ゲル状のアテロコラーゲンの中での三次元培養によって軟骨様組織を作製し、関節の軟骨欠損部へ移植する方法です。

自家培養軟骨移植は、越智光夫先生(広島大学学長)が開発したもので、1996年(当時島根医科大学教授)に臨床応用を開始しました。

この自家培養軟骨移植で用いられる軟骨様組織は、2013年4月に保険収載され、一般の保険診療で治療することが可能となりました。この軟骨様組織は、日本で開発され、実用化に成功した初めての再生医療用の細胞加工製品といえます。

ダヴィンチ手術の様子(広島大学病院よりご提供)

広島大学病院は2010年、内視鏡外科手術用ロボット「ダヴィンチ」を導入しました。導入当初は1台の稼働でしたが、現在はバージョンアップの際に機器を刷新し、2台体制で治療にあたっています。また、患者さんの治療だけでなく、若手医師の研修にも活用されています。

広島大学病院では2017年4月より「国際リンパ浮腫治療センター」を開設しました。リンパ浮腫とは、がん治療の際にリンパ節やリンパ管が傷つくことで起こるむくみのことで、従来は治療が難しいとされていました。しかし近年は技術の開発が進み、手術治療ができるようになってきました。

当院の国際リンパ浮腫治療センターは、センター長を元東京大学形成外科・美容外科教授の光嶋勲先生が務め、国内外のリンパ浮腫に悩む患者さんの治療や、医師の教育・育成、新しい治療方法の研究に尽力していきます。

2016年5月より運用しているスマート治療室も注目を集めています。スマート治療室とは、従来手術室の中でひしめき合っていた医療機器を1つにまとめ、手術中の煩雑な情報がモニターに集約されることで、術中の情報の選択や機器のコントロールがしやすくなる手術室です。

このスマート治療室では術中にMRIの撮影を行うことも可能であるため、今まで以上に手術の精度や安全性を高めることが期待できます。当院では主に脳神経外科の手術で使用されていますが、整形外科など他の診療科でも使用することがあります。

広島大学病院はてんかんセンターを有し、2015年にはてんかん診療拠点機関に指定されています。てんかん患者さんに対する外科手術も行っており、当院のてんかんセンターには難治のてんかんを罹患している患者さんもいらっしゃいます。

2017年には世界的なてんかん疾患啓発活動の日「パープルデー」にちなみ、イメージカラーがパープルである広島県広島市をホームタウンとするプロサッカークラブ「サンフレッチェ広島」と当院のてんかんセンターがコラボレーションし、てんかんの啓発イベントを行いました。今後も継続的に、啓発イベントに取り組みます。

木内先生診察の様子(広島大学病院よりご提供)

患者さんにも自分が受ける医療をよく理解していただき、医療をしっかりと受けていただいて、スムーズな社会復帰をしていただくために患者入退院センター(Patient flow management )を立ち上げます。手術申し込みの時点や予定入院患者の入院申込み時点で看護師による患者情報収集と各種リスクのアセスメント、必要に応じて社会福祉士・精神保健福祉士の医療ソーシャルワーカーなどが介入して、退院や転院の計画をあらかじめ立てます。そのため、患者さんとその家族も入院申し込み時点でおおよその入院期間が分かります。

入院したら標準的な治療法を組み込んだ治療工程表(クリティカルパス)に従って治療を行います。クリティカルパスは定期的に見直してその時点での患者さんの病状に適した治療方法に更新されます。患者用の用紙を見ると自分が毎日どんな治療を受けていつ退院になるかわかります。

眼科でのカンファレンスの様子(広島大学病院よりご提供)

広島大学は医育機関のひとつとして医師の教育、育成にも力を入れています。ここでは広島大学医学部や広島大学病院の取り組みの一例をご紹介します。

広島大学医学部は医師の数が十分とはいえない広島県の医療機関に、より充実した医師の供給を行うため、医学部の地域枠推薦制度を活用しています。以下では、広島大学医学で実施している初期研修について簡単にご紹介します。

広島大学病院では医学部を卒業してすぐの初期研修医がより多くのことを学べるよう、初期研修制度にも工夫をしています。特に、初期研修期間の1年目を大学病院で、2年目を関連病院で過ごすことができる「たすきがけ制度」は、大学病院、市中病院のどちらも経験できるため、若手医師の手技を磨くうえでは貴重な研修になると思います。

また、若手医師のキャリアアップをサポートするために、広島大学病院臨床実習教育研修センターを設置しています。卒後の2年間の研修が若手医師にとって実りの多いものにするために、関連施設ではどのようなスキルを身につけることができるのか、その地域の特徴など広島の医療圏に関する情報を収集しています。

研修制度に関する疑問や不安、自身のスキルアップについての相談も受けています。さらに、2年間の卒後臨床研修修了後のご相談も受け付けていますので、同センターを活用して、実りの多い卒後臨床研修に臨んでほしいと思います。

当院では、さまざまな背景を持つ医師がその能力を遺憾なく発揮できるよう、医師のサポートにあたっています。たとえば、女性医師に対しては働きやすく、きちんと能力を発揮できるように「広島大学病院女性医師支援センター」を設置し、キャリアアップを助成したり、広島県医師会と協力し女性医師や女性医学生を対象とした講演会を行ったりしています。また、広島大学医学部長秀道広先生がセンター長を務める「ふるさとドクターネット広島」では県外で働いている広島出身の医師がUターンしたくなった際に安心して帰ってきていただけるよう、サポートを行っています。

広島大学病院は被爆地・ヒロシマの戦後を支えてきた病院でもあります。そのような経験も踏まえ、東日本大震災の被災地医療にも尽力しています。

2016年より「福島医療支援センター」を設置し、福島へ医療支援を行っています。福島は2011年に起きた東日本大震災から少しずつ復興が進み、避難のために他県に引っ越していた住民が徐々に福島県に帰れるようになってきています。故郷へ帰った住民が安心して生活できるよう、福島県では福島県立医科大学を中心に医療環境の整備を行っていますが、それでも医師が不足しているそうです。そこで広島大学病院は福島県へ内科の医師の派遣や、救急、血液内科、循環器内科の医師を送り、医療面から復興に協力しています。

 

若手医師には「上を向いて歩こう」という言葉を伝えています。日々さまざまな患者さんと接し、ときには研究をしているかと思います。目まぐるしい日々のなかでも、自分の5年後10年後の姿を思い描き、広い視野を持って行動してほしいと思います。

また、当院で働くスタッフには「月曜日が楽しみ」と思ってもらえるような病院でありたいと願っています。

地域の皆さまが安心して医療が受けられるようにスタッフ一同尽力しています。当院は地域の皆さまのご支援のもと、さまざまな医療を提供することができます。これからも皆さまの健康を守り、地域や広島県の医療を支える若手医療従事者の育成に努めて参ります。医育機関でもあります。そのため、学生や若い医師が医療チームに加わることがありますがその点ご了解ください。

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  • 広島大学視覚病態学教室(眼科) 教授

    木内 良明 先生

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