院長インタビュー

時代を先取りする河北総合病院が目指すもの

時代を先取りする河北総合病院が目指すもの
河北 博文 先生

社会医療法人 河北医療財団 理事長

河北 博文 先生

目次
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社会医療法人 河北医療財団 河北総合病院は、前身である「河北病院」として、1928年に内科と小児科30床の小さな病院として開設されました。その後、現在に至るまで地域のニーズに合わせて診療科数と病床数を増やし、現在は分院を含め、55診療科、407床の規模を有しています。

56.2万人という人口をかかえる東京都杉並区の中核病院として、同院はどのような取り組みを行っているのでしょうか。理事長である河北 博文先生にお話を伺いました。

当院は1928年の開設当初からこの土地で、永らく地域住民の健康を支えてきました。

当時は感染症で亡くなる方も多く、平均寿命も60歳前後でした。また、地域にある病院が感染症の治療を行うことが当たり前でした。

時代は変わり、平均寿命が延びるにともない、がん生活習慣病も増えてきました。当院は、そういった時代のニーズに合わせながら、地域のみなさんが必要な医療が受けられるよう、病院機能の充実を図っています。

なお、当院は2025年の6月に、現病院のすぐ西側に新たに地上9階建ての新病院を新築し移転する予定です。

新病院では“健全で持続可能な「医療」を提供し、「医療」の未来を創る”をコンセプトとし、救急医療の充実、地域がん拠点病院と同等な機能強化、災害拠点連携病院としての役割強化、周産期医療の充実、地域総合生活支援の実施などを基本方針とし、東京都区西部医療圏の中核を担う病院として大幅に充実した医療を提供することとなります。この病院は環境省が推奨する、年間の一次エネルギー消費量を抑えた建築物に与えられる“ZEB Oriented”の認証を取得しました。急性期病院の同認証の取得は都内初であり、全国でも3例目となります。
当院の今後にぜひご期待ください。

先方提供

当院の理念は“社会文化を背景とし 地球環境と調和した よりよい医療への挑戦”です。この理念のもと、“質の高い恕(おもいやり)のある医療を行うとともに地域の健康向上に寄与する”を目的に、当院では医療を提供しています。

具体的な行動目標はシンプルな標語にして、病院のスタッフにも共有しています。

  • あたたかく やさしく 人にも 地球にも
  • 安心と納得が創る信頼
  • 受容 傾聴 共感
  • 学び(心で感じ) 考え 行う
  • もったいない、我慢する、面倒くさがらない

標語はほかにもありますが、それらすべては理念と目的に結びつき、よりよい医療を目指す指針となっています。

当院では、開院当初から小児科の診療を行っています。開院当時は、子どもの脱水をともなった感染症である疫痢の死亡率が高く、多くの子どもたちが亡くなっていました。

その状況をみて、当院は世界的にもめずらしい「持続点滴注入療法」というものを行いました。これは、抗生物質がなくても、まずは点滴で水分と栄養を補給し、その点滴で子どもの体が回復するのを待つ治療法です。

この持続点滴注入療法は、疫痢による子どもの死亡率の改善に劇的に貢献しました。

感染症が昔ほど多くなくなった現在は、外傷以外のほぼすべての領域の診療を行っています。特に重点を置いているのが、アレルギー疾患と心の診療、発達障害診療です。地域で暮らす子どもたちを支えるため、24時間365日入院診療に対応できる体制を整えていきます。

当院が開設されてからしばらくは、戦争の影響で混乱の時代が続きました。この頃は、出生数が非常に多かったため、それを受けて当院も産婦人科を1930年には開設しました。

現在でも産婦人科には力を入れており、「マタニティ・レディース スクエア」として、2024年9月現在は常勤医5名、非常勤医2名、助産師20名(非常勤含)、他に看護師3名の充実した診療体制を整えています。総合病院としての特性を活かし、各診療科と連携しながら、合併症を持った妊婦さんへの対応も行っています。

感染症の診療を多く行っていた当院ですが、戦後から徐々に社会情勢が変わってきました。経済成長にともなって生活習慣病が増えるなど、診療する疾患も変化してきました。

そうした社会環境の変化を受け、また、私の父でもある先代の院長の「医療はもっと地域の医師会や診療所の人たちとやるべきだ」という意思もあり、1981年に在宅医療をスタートさせたのです。

在宅医療を行うためには、訪問診療だけでは不十分です。看護、介護も取り入れ、在宅患者サービスをトータル ホームヘルスケア サービス(T.H.H.S)という形ではじめました。診療も看護も介護も、1か所でできるようにしたのです。

現在は、河北家庭医療学センターである「河北ファミリークリニック南阿佐谷」は家庭医を育てることを基本に、訪問診療、看護・リハビリ部門「河北訪問看護・リハビリステーション阿佐谷」として事業を継続しています。患者さんそれぞれのニーズをくみ取り、包括的な地域ケアでサポートができるよう心がけています。

地域医療構想の先駆けとなった病診連携システム

当院では、1986年に杉並地域医療システムズ(SRHS)という病診連携システムを始めました。これは、当院がセンター病院となり、地域の診療所と連携するシステムです。患者さんには、診療所から登録してもらい、双方のカルテを医療機関どうしで共有するというものです。当初、7つの診療所からはじまりました。

カルテを見ると、その病院の診療水準が分かります。そのため、カルテを見せ合えるくらいの信頼がなければ、病診連携は難しいと思います。

システム開始当時、厚生科学研究費を2年間申請し、厚生省にこの取り組みについて報告しました。このシステムは、将来、必ず日本の社会で必要になると当時から考えていましたが、まさに今、地域医療構想というものが持ち上がっていますね。

当時はインターネットがなく、ファックスができたばかりの頃です。診療所で診察をしたら、その日に情報が送られてくるため、毎日たくさんの書類が届いていました。この頃から築いてきたものがまさに、当院と地域との関係です。

2004年から、河北医療連携の会(KHC:Kawakita Health-care Collaborations)という地域病診連携組織を発足させ、2024年9月現在で570か所以上の診療所に登録いただいています。

先方提供

当院は、長野県茅野市に「N.K.Farm」という研修所を保有しています。ここでは馬を飼育し、座学研修のほか、農業体験や乗馬といったプログラムが実施できるのが特徴です。

施設名の「N」は、NatureのNですが、「自然」とは訳していません。動物などの自然界も知恵を持っているという考えのもと、ここではNは「知恵」と訳します。「K」はKnowledgeのKであり、「知識」を意味します。

「Farm」は、さまざまなものが育っていくところ、という意味合いです。育てるという受け身ではなく、自ら育っていくという自主的な意味を込めています。

N.K.Farmはそういった概念のもとで教育を行う場として運用しており、2019年まで年間約20プログラムほどの研修がここで行っていました。

時代のニーズに合わせて規模を拡大していくなかで、だんだんと病院機能を変える必要性が出てきました。必要な機能をすべて備えようとすると、現在の当院の土地だけでは足りません。

そこで、すでに述べたように当院は2025年の6月にはすぐ西側に新築移転します。これまでも健診クリニックを高円寺に、透析クリニックを阿佐谷の別の場所に移転させ、リハビリテーション病院と介護老人保健施設を開設しました。分院やサテライトクリニックも開設し、併設されていた看護学校は早稲田速記医療福祉専門学校に事業継承してもらいました。そういった病院機能の移転・拡大を行っているうち、各施設が点だったものが、面としてつながっていきました。この面をもっと強くして、杉並区を中心とした医療圏を支えていきたいと考えています。

これからの構想として考えているのは、患者さんの「医食住」すべてに関わることです。働くことや、学ぶこと、何かを楽しむこと、そういった「コト」の部分に関わっていくために、いくつかの企業と協力し、積極的に地域づくりに取り組んでまいります。

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