連載新宿の診察室から 定点“患”測

花粉症の根治を目指す―“舌下免疫療法”を今から始めるべき理由

公開日

2024年06月26日

更新日

2024年06月26日

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2024年06月26日

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

梅雨が明ければ夏がやってくるが、花粉症の治療に携わる医師たちは「この季節こそ花粉症の根治に向けた治療を始めるべきだ」と口を揃える。実際に、いまの時期から始めると効果が期待できるのが“舌下免疫療法”だ。その治療内容や気をつけるべきことを、年間約1000例の舌下免疫療法患者を診察しているイーヘルスクリニック新宿院(東京都新宿区)の天野方一院長に聞いた。

花粉症の根治を期待するなら有力な選択肢

舌下免疫療法は、1日1回、薬を舌の下で溶かして成分を体内に吸収させるだけという手軽な治療法だ。天野氏は、「舌下免疫療法は、注意点などを守って正しく治療が行われると、花粉症の特徴的な鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの症状を治したり、抑えたりすることができるといわれています。また症状が完全に抑えられない場合でも、症状を緩和し、薬の量を減らすことができるとされています。」と説明する。

その治療効果も高い。「当院で舌下免疫療法を受けている患者さんでも、これまで花粉症の症状に苦しんでいたのに、治療を開始したことで薬を使用せずに快適に過ごせるようになったとういう方がたくさんいらっしゃいます。根治を期待するなら舌下免疫療法は有力な選択肢です」と天野氏は強調する。

3〜5年の治療で、薬を使わない生活が期待できる

「舌下免疫療法は3〜5年ほど継続することで、将来的には薬を使わずに快適な生活を送ることが期待できるといわれています。」

イタリアで行われた15年間の追跡調査*によれば、ダニの舌下免疫療法の最適な治療期間は4年であることが示唆されている。具体的には、治療終了後、3年間治療した場合は7年間効果が持続し、4年間もしくは5年間治療した場合は8年間効果が持続する、といった結果が報告された。

しかし、この結果を日本に当てはめるにはいくつかの問題があるという。

「この研究はダニアレルギーに焦点を当てており、日本ではスギ花粉アレルギーが主要な問題であるという点です。さらに、使用された治療薬の投与量や投与方法が日本と異なるため、結果を直接適用することは難しいでしょう。」

日本での花粉症の舌下免疫療法では、現時点では最低でも3年間の継続が必要であると考えられているという。天野氏は「患者さんの状況に応じて5年の治療を推奨する場合もあります」と言う。

舌下免疫療法を開始するのは花粉シーズンが終わってから

根治へのアプローチとして有効な舌下免疫療法は、そもそもなぜ効果があるのか。天野氏は「この治療法は、アレルゲン(スギ花粉)を含んだ薬剤を舌の下に入れて溶かし、口腔粘膜から吸収させることで徐々に体をアレルゲンに慣らしていくものです。」と述べる。

アレルゲンの吸収量が多くなりすぎて症状が強くなるリスクを下げるため、舌下免疫療法を開始するのは通常、花粉の飛散が終わった後だ。「6月頃が開始の目安になります。」と天野氏は説明する。

クリニックに通院せず、自宅で治療ができるのがメリット

さらに天野氏は言う。「舌下免疫療法は誰でもどこでも簡単に実施できるため、基本的に医療機関に通う必要はありません」。

とはいえ、初診時は対面で診察を受ける必要がある。「この治療法はアレルゲンを直接投与するためアレルギー反応が起こるリスクがあり、1回目の服用時は医師の見守りが必要になるからです。アナフィラキシーのような重篤な副反応はまれだといわれていますが、舌や口の中が腫れたり、かゆみが出たりするなどの軽い副反応が出る可能性があり、その場合は医師がすぐに対処します」。

1回目で問題がない場合、2回目以降は自宅などどこで服用しても構わない。薬も医療機関によってはオンラインで処方箋が薬局に送られ、そこから手元に郵送してもらうことができる。通院や薬の受け取りのために外出することなく治療が継続できることは、大きなメリットであると言えるだろう。

対象年齢は5歳以上。家族で始める舌下免疫療法

舌下免疫療法は5歳以上から受けることができる。つまり花粉症で困っている家族ならほぼ全員が治療に参加でき、皆で治療をするからこそ継続できるのもこの治療法のメリットと言える。実は、子どもに対する舌下免疫療法の安全性や効果について15歳未満の子どもと15歳以上の成人を対象に調査した研究*では、子どもと成人での治療効果に差はなく、治療患者は未治療患者よりも症状が有意に改善したことが報告されており、子どもで無投薬・無症状まで著明に改善した例が成人よりも多かったことも心強い。副反応の出現についても重篤なものはみられず、治療を中断する例はなかった。この結果からも、子どもでも成人でもスギ花粉の舌下免疫療法は効果的で安全であることが分かる。

天野氏は力説する。「近年、子どもの花粉症患者は増加傾向にあります。くしゃみや鼻づまりなどの症状は集中力を低下させるなど、お子さんの日常生活に悪影響を及ぼしかねません。お子さんがくしゃみを連発するなどの症状があれば、ぜひ一度検査を受けることをおすすめします。子どもの時期に治療を開始すれば、早めに完治に近い状態にまで改善することが期待でき、その後長きにわたって花粉症に悩まされる心配の軽減につながるはずです」。

治療薬は供給不足が続く。始めるなら早めに

舌下免疫療法には1つ、切実な問題がある。保険が適用されるため、保険料3割負担の方は初診が4000~5000円、以降は毎月2000~3000円程度の費用となる。実はこの費用感と簡単さ、治療効果の高さから舌下免疫療法を開始する人が増加しており、製薬会社での生産が追いつかない状況が2023年から続いているのだ。

2024年現在も引き続き数量を限定した出荷が見込まれており、さまざまなクリニックで新規受付を中止するなどの対応がされ、今後の見通しはつきにくい状況だ。天野氏は「舌下免疫療法を希望する場合は治療を受け付けている医療機関を探し、早めの受診を」と提案している。

抗ヒスタミン薬やオマリズマブなど、治療選択肢は増えている

また天野氏は、「毎年花粉症に悩まされている人は舌下免疫療法に加え、花粉シーズンの前から治療を開始する“初期療法”を受けることも考えてほしい」とも言う。

初期治療で主に使用される“抗ヒスタミン薬”は、アレルギーの原因となる“ヒスタミン”のはたらきを阻害して、くしゃみや鼻水、鼻づまりといった花粉症のつらい症状を抑える効果が期待される。この薬を早い段階から使用することで、花粉飛散のピーク時を含め症状をコントロールすることができ、重症化予防につなげることもできるのだ。実際に花粉症の治療ガイドラインでも、症状が出る前あるいは軽い症状の段階から治療を受けることを推奨している。天野氏は「私の場合、患者さんに花粉飛散が予測される2週間前から抗アレルギー薬を使用することをおすすめしています。」と明かす。

さらに、抗ヒスタミン薬のような従来薬を使用しても改善しない場合の治療として、2019年より抗IgE抗体オマリズマブを皮下注射するという新たな治療が保険適用にて受けられるようになっている。「オマリズマブは根治が期待できる薬ではなく毎シーズン、一定期間ごとの投与が必要になるが、この治療を行う患者も年々増えている」と天野氏は語る。

市販薬で我慢せず、受診を検討すべき理由

最後に、花粉症の治療ではもう1つ気をつけたい点があるという。それは市販薬に頼ることだ。「症状が軽い場合などでは、市販薬に頼ることも少なくないでしょう。しかし、市販薬は安全面を考慮し、有効成分の含有量が少ないため、十分に効果を感じられないこともあります」と天野氏。

近年は医師の処方が必要だった薬が市販薬として登場し、選択肢が広がってるものの、選び方はどうしての自己判断とならざるを得ない。天野氏は「市販薬の選び方が分からない、効果を感じられないといった人は医師に相談すべきだ」と強調する。「医師は患者さんの状況に応じてさまざまな治療を提案できるからです」

花粉症治療の選択肢は年々広がっている。将来的な症状の軽減・改善を真剣に目指す場合は、一度受診し医師に相談することが重要だろう。
 

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。