連載新宿の診察室から 定点“患”測

暑い時期に増える痛風、ならないためにどうすればよい?

公開日

2024年08月19日

更新日

2024年08月19日

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2024年08月19日

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

痛風は突然襲ってくる激しい痛みを伴う病気だ。その発症者数は過去30年間で約5倍に増加しており、多くの人にとって他人事ではない。

特に注意が必要なのは「尿酸値が高め」の人たちだ。尿酸値が高い状態が続くと、痛風のリスクが高まるだけでなく、腎臓病や心臓病、動脈硬化などの合併症リスクも増加することが最近の研究で明らかになっている。

年末年始についで飲酒の機会が多く、脱水しやすい夏は痛風の発症が多くなる時期。本記事では、痛風や高尿酸血症の専門家であるイーヘルスクリニック新宿院の天野方一氏に、尿酸値が上昇するメカニズムとその改善方法について詳しく伺った。

想像を絶する激痛

「痛風の痛みは、経験した人にしか分からない、想像を絶する激痛です。一度でも発作を経験した人は、その恐怖から解放されたいと願うものです。」と、イーヘルスクリニック新宿院の天野氏は言う。

「痛風の痛みは、日常生活に大きな支障をきたします。初めての発作では、あまりの痛みにパニックになることもあります。靴を履けず、職場に行けず、時には救急車を呼ぶ事態に発展することもあるのです。」

しかし、ここで注意が必要だと天野氏は語る。

「問題は、発作が治まると嘘のように痛みがなくなるため、原因である高尿酸血症を放置してしまう人が少なくないことです。痛風の痛みが改善したら、すぐに高尿酸血症を治療することが大事になってきます。」

尿酸とプリン体

尿酸値が高いことが問題であることは分かるが、そもそも尿酸とは何者なのか。天野氏は説明する。

「尿酸はプリン体が肝臓で分解されて生じる代謝物です。プリン体には、プリン体を多く含む食べ物に由来する外因性プリン体と、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)などの核酸が分解されて生じる内因性プリン体があります。」

では、プリン体とは何か。

「プリン体には悪役のイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実際はあらゆる生物の細胞に含まれる物質で、細胞内の核酸の主要な成分です。」

つまり、プリン体は生命維持に不可欠な物質なのだ。さらに天野氏は述べる。

「尿酸は、最近の研究では病気の原因となる一方で、活性酸素が細胞を傷つける酸化ストレスから体を守る役割を果たしていることが分っています。つまり、尿酸は私たちの健康を守るはたらきも持っているのです。」

尿酸の基準値はどれくらい? 高いとどうなる?

とはいえ、やはり体内に尿酸が多すぎることはリスクにつながると天野氏は言う。

「そもそも、尿酸値は7.0mg/dLまでが基準値内で、これを超えると高尿酸血症と呼ばれます。7.0mg/dLを越えてしまうと、関節内に尿酸がたまってしまうからです。」

尿酸が増えてしまうことの最大のリスクは痛風だ。さらには、心血管疾患や慢性腎臓病など、動脈硬化に関連する病気のリスクを高めてしまうというから注意が必要だろう。

まず、高い尿酸値が痛風を引き起こすメカニズムはこうだ。

「血中の尿酸値が高い状態が続き、尿酸塩が結晶化して関節内に蓄積すると、痛風発作を引き起こします。痛風発作とは急性の単関節炎で、特に下肢の関節に多くみられます。また、発作時にはすでに尿酸値が低くなっていることが多く、発作時の尿酸値よりも、過去の高尿酸状態の継続が重要とされます。」

尿酸値が高いと生活習慣病を引き起こす一因に

では、尿酸値が高いと心血管疾患や慢性腎臓病につながるのはなぜだろうか。

「高尿酸血症の患者さんの体内では、プリン体が代謝され尿酸ができるときに作られる活性酸素と、尿酸それ自体の影響で、血管の内皮細胞が傷つけられ血管の柔軟性が損なわれると考えられています。実際に多くの疫学研究で、尿酸の高値は高血圧、脳卒中、心血管疾患、さらには慢性腎臓病のリスクであることが示されています。」

つまり、これらの病気を予防する意味においても高尿酸血症を適切にコントロールする意義は大きいのだ。

痛風の発作が起きたら

尿酸値が高い状態が続き痛風の発作が起きた場合、どのような治療を受けることになるのだろうか。

「急激な痛みに対しては、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)やコルヒチンの少量投与が行われます。さらに、多発性関節炎や腎機能障害がある場合には、ステロイドが投与されることもあります。私は症状に応じてナプロキセンとコルヒチンを投与することが多いですね。また、痛風発作中に急激に尿酸値を変動させることは、発作をさらに悪化させる可能性があります。したがって、原則として発作中には尿酸低下薬の使用を開始しないこととしています。」(天野氏)

その後、痛風の発作は1〜2週間で自然に緩解することが多いという。が、そのまま何もせずにいるのは避けたほうがよい。天野氏は言う。

「放置していると再発の可能性があります。再発を防ぐには尿酸値を下げることが重要です。」

高尿酸血症のタイプとすぐできる対策

天野氏は、高尿酸血症の原因は大きく2つあり、その原因に応じた生活習慣の改善はすぐにでもできると言う。

「高尿酸血症の原因は『産生過剰型』と『排泄低下型』に大別されます。これには遺伝的要素も関係しますが、生活習慣も重要な要因です。」

尿酸が体内に多くできてしまう産生過剰型では、高プリン食(肉類や魚介類など)やビールなどのアルコール、さらには果糖の過剰摂取が原因と考えられている。

「これらの食生活を見直すことが重要です。」と天野氏はアドバイスする。

一方、体の外に出る尿酸が少なくなる排泄低下型では、尿酸の尿中排泄機能が低下する原因が生活習慣に関連している。肥満や糖尿病によるインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)やアルコール摂取が低下の要因だという。

「特に気をつけたいのはアルコールについてです。最近はプリン体をカットしたというビールが販売されていますが、そもそもプリン体を含まないアルコールでも尿酸値が上昇する可能性があります。痛風というとついプリン体に気をつければよいと思いがちですが、飲酒自体を適度にすべきでしょう。」

ビタミンCを積極的に摂取する

生活習慣の改善でできる高尿酸血症の対策はほかにもあると天野氏は説明する。

「2021年に報告されたメタアナリシス研究によれば、ビタミンCの経口補給は尿酸値を減少させる効果があることが示されています。これによって『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版』では、ビタミンCの積極的な摂取が尿酸値低下に寄与するエビデンスの確からしさを、4段階の上から2番目の“B”と評価しています。さらに、ビタミンCは感染予防や酸化ストレス対策に有効であり、さまざまな病気の予防につながる可能性があります。」

また、ほかにも気をつけて食べたい食材があるという。

「野菜や海藻は毎日十分に摂取してください。食物繊維を多く含むこれらの食品は、プリン体の吸収を妨げるとされています。また、これらは尿が酸性に傾きすぎるのを防ぎ、尿酸を体外に排出しやすくしてくれます。」

尿酸ができるのを抑える

痛風の発作を防ぐには、生活習慣の改善と同時に、クリニックで高尿酸血症の治療を受けることも考えたい。

「高尿酸血症の治療は薬物療法が基本になり、主に尿酸の“産生抑制”と“排泄促進”の2つのアプローチに分かれます。」と天野氏と述べる。

尿酸産生抑制の治療法は、体内での尿酸の生成を減少させることを目的としたものだ。具体的にはアロプリノールやフェブキソスタットなどを服用し、キサンチンオキシダーゼという酵素を阻害することによって尿酸の産生を抑制する。特に後者のフェブキソスタットは腎機能が低下している患者さんでも比較的安全に使われるという。

尿酸の尿への排泄を促進する薬は新薬が登場

一方、尿酸排泄促進の治療法は、体内で生成された尿酸を尿として排泄することを促進することが目的だ。尿酸の再吸収を抑制するプロベネシドやベンズブロマロンなどといった薬剤を服用することで、尿中の尿酸濃度が増加し、体外への排泄が促進される。

排泄促進法について、天野氏は続ける。
「近年では新規の尿酸排泄促進薬として、選択的尿酸再吸収阻害薬『ドチヌラド』が使用可能になっています。ドチヌラドは、腎臓で尿酸の再吸収を担う『トランスポーターURAT1』のはたらきを阻害することで、尿酸の尿中排泄を促進し、尿酸値を低下させます。」

天野氏は実際にドチヌラドの効果を検証しており、慢性腎臓病を併発した高尿酸血症の患者さんの腎機能が改善されたことを初めて確認し論文で詳しく報告している。尿酸排泄促進薬でもっとも処方されている薬はすでにドチヌラドになりつつあり、今後ますます存在感を増していくだろう。

生活習慣の改善で尿酸値をコントロールする

耐え難い痛みを伴う痛風は、そもそも発作を起こさないに越したことはない。天野氏はあらためて、痛風にならないために尿酸値をコントロールすべきだと言う。

「尿酸値が高いことは、痛風だけでなく、心血管疾患や慢性腎臓病などのリスクを高めると考えられています。高尿酸血症の原因には遺伝的要素も関係していますが、生活習慣も大きな影響を与えます。適切な生活習慣を維持し、尿酸値をコントロールすることが、痛風や心血管疾患、慢性腎臓病の予防には重要です。」

 

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。