連載新宿の診察室から 定点“患”測

5月17日は「高血圧の日」 放置すれば命の危険も…最新知見に基づく対策開始を

公開日

2024年05月17日

更新日

2024年05月17日

更新履歴
閉じる

2024年05月17日

掲載しました。
E45ffebdc9

イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

高血圧の認識と管理の重要性を啓発するため、毎年5月17日は「高血圧の日」と定められています。健康診断などで「血圧が高め」と指摘されても、自覚症状が現れたり日常生活に支障が出たりすることはほとんどありません。一方で、高血圧は「サイレントキラー」の別名があり、放置すると命に関わる病気につながる恐れもあります。高血圧はどこが怖いのでしょうか、予防法や治療法は――? 今回は高血圧について詳しく解説します。

高血圧とは

高血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力(血圧)が高い状態のことを指します。血圧は日常生活や時間帯、季節によっても左右されますが、持続的に血圧が高い状態は「高血圧症」と呼ばれます。高血圧になると血管に持続的に負担がかかるため、血管がしなやかさを失う「動脈硬化」になり、脳卒中、心臓病や慢性腎臓病(CKD)など、さまざまな病気に影響を与えていることが分かっています。

ところが、日本の高血圧患者で実際に治療を受けているのは、約2割から3割に過ぎません。このような背景から、日本高血圧学会と日本高血圧協会は毎年5月17日を「高血圧の日」と制定し、高血圧の認識と管理の重要性を啓発しています。世界高血圧連盟が制定した「世界高血圧デー」に由来するもので、日本では2007年に開催された第30回日本高血圧学会総会で制定され、日本記念日協会にも認定登録されました。

高血圧の定義

血圧は測定されるときの本人の状態や環境によっても数値が異なります。病院で測定する血圧(診察室血圧)と自宅で測定する血圧(家庭血圧)は数値が異なり、どちらも診断する際には重要な指標になります。具体的には、診察室血圧だと140/90mmHg以上、家庭血圧は135/85mmHg以上が高血圧の基準となっています。

高血圧では一般的に自覚症状は現れませんが、血圧がかなり高いときには頭痛、めまい、肩こりなどの症状が現れることがあります。これらの症状が出たときや血圧が高い状態が続く場合は、医療機関の受診が推奨されています。

「高血圧パラドックス」が注目されている

日本高血圧学会の報告によれば、推定高血圧患者数は約4300万人とされています。これは、子どもを含む日本人の約3分の1が高血圧であることを意味します。しかしながら、医療機関で治療を受けている高血圧患者は約1000万人に過ぎず、約3000万人もの人々が「高血圧でありながら治療を受けていない」状態にあります。また、我が国における血圧のコントロール率(140/90mmHg未満の達成率)は約40%にとどまっており、年齢が上がるにつれて高血圧の頻度が増え、血圧のコントロールが不十分な割合も増加しているのが現状です。
高血圧に対しては効果的な降圧薬がいくつも開発されており、診察を受けて薬を飲めば血圧はコントロールしやすいといえます。であるにもかかわらず、多くの高血圧患者が降圧目標を達成できておらず、高血圧治療が十分に機能していないこの現状は「高血圧パラドックス」と呼ばれ、現在、重要な問題として注目されています。

治療法

生活習慣

高血圧の90%程度を占める本態性高血圧(遺伝的な因子や生活習慣などの環境因子が関与する、原因の分からない高血圧)では、主に塩分の取りすぎ、肥満、喫煙、運動不足やストレスなどの生活習慣が関係して発症するといわれています。高血圧と塩分の関係が密接であるため、高血圧の管理においては塩分の摂取量をコントロールすることが基本になります。

しかし、高血圧の中には、塩分摂取量を減らすことで血圧が顕著に改善するタイプの高血圧(食塩感受性高血圧)と、塩分の摂取量を減らしても血圧に変化が少ないタイプの高血圧(食塩非感受性高血圧)があることが分かっています。食塩感受性高血圧はそうでない高血圧と比較して、心臓や血管に負担がかかりやすく、これらに関連する病気のリスクが2倍以上になると考えられています。食塩感受性高血圧にかかりやすい特徴としては、両親が食塩感受性高血圧であることや腎臓障害があること、肥満傾向であること、中高年であること、塩分摂取後に血圧が顕著に上昇することなどが挙げられます。このようなタイプの高血圧の方は、より厳格に塩分を控える必要があります。

まずは、塩分を過剰に摂取しないようにする工夫が重要です。減塩を長期間続けるためのポイントは、加工食品の摂取を減らすことや、味噌汁の具だけを食べて汁を残すようなこと、食卓に塩の瓶を置いている人は置かないようにするなど、極端になりすぎないことが継続の鍵となります。そのほか、塩分を体から排出するカリウムや、血管を拡張して血圧を下げる作用が期待されるマグネシウム、不足すると血圧上昇につながるカルシウムなどの栄養素を積極的に摂取することも重要です。併せて、野菜、果物、イモ類などを摂取することも大切です。

薬剤

高血圧の治療薬にはさまざまな種類があり、それぞれの特徴や効果、副作用が異なります。日本で多く使われている降圧薬はカルシウム拮抗薬(CCB)とアンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬(ARB)です。CCBは7割以上の患者が服用しており、効果が強く副作用が比較的少ないという特徴を持っています。また、ARBは腎保護作用があり、蛋白尿のある患者には積極的に利用されています。

一方で、近年新しい機序(薬が効果を発揮する仕組み)の降圧薬が臨床の現場で使用されるようになってきました。たとえば、以前は心不全にしか適応がなかったサクビトリルバルサルタンは、現在は高血圧の治療にも使われています。この降圧薬はネプリライシン阻害作用を持つサクビトリルと、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)であるバルサルタンを1:1の割合で含有しており、体内にたまった余分な水分や塩分を排出する作用も期待されます。外食が多く、減塩が難しい中高年の患者にとっては好適な可能性がある薬だと言えるでしょう。

高血圧において降圧薬の使用ポイントは、

  1. 長時間効果のある降圧薬を選び、朝夜ともに降圧作用がある薬を選択すること
  2. 基礎疾患がある場合は、単に血圧を下げるだけでなく、心臓や腎臓などの臓器保護作用のある降圧薬を選択すること

です。自分に合った降圧薬を飲むために、ぜひかかりつけの医師と相談してください。

繰り返しますが、高血圧は適切な管理と治療によってコントロールが可能です。

  • 自身の血圧を知り、必要に応じて医療機関を受診すること
  • 医師の指導のもとで治療を続けるとともに、定期的に自分で血圧の測定と記録を行い、治療の効果を確認すること

を心がけ、動脈硬化を進行させないようにしましょう。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

新宿の診察室から 定点“患”測の連載一覧

イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。