胸のしこり:医師が考える原因と対処法|症状辞典
メディカルノート編集部 [医師監修]【監修】
胸には乳房や骨、筋肉などさまざまな器官や組織があり、その上を皮膚が覆っています。通常、胸部の皮膚は平坦で滑らかな形態を保っていますが、何らかの原因によって体の表面からしこりを触れることがあります。
これらの症状がみられる場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
胸のしこりは何らかの病気が原因の場合がほとんどです。しかし、中には日常生活上の習慣が発症の原因となっていることもあります。原因とその対処法は以下の通りです。
胸部は比較的汗をかきやすく、皮脂分泌も多い部位です。このため、毛根部などに汚れが溜まりやすく、吹き出物ができることがあります。吹き出物は自然に治るものもありますが、内部に膿がたまると固い有痛性のしこりになることがあります。
胸部を清潔に保つには、入浴時の洗浄だけでなく通気性のよい衣類や下着を身につけ、ムレが起こりにくいようにしましょう。また、吹き出物は放置せずに薬を使用するなどして悪化する前に治すことが大切です。
出産後は乳腺が発達して乳汁が盛んに分泌されるようになります。乳汁は育児にとって非常に重要ですが、乳児の哺乳量を超えて乳汁が産生されると、乳腺や乳管内に乳汁がうっ滞し、詰まってしこりを生じることがあります。
授乳回数を増やしたり、授乳後に搾乳して余分な乳汁を排出させたりすることで乳汁のうっ滞を予防することができます。
日常生活上の習慣を改善してもしこりが消えない場合や大きくなる場合には、何らかの病気が原因と考えてよいでしょう。中には、がんなどの病気が潜んでいることもあるため、早めにそれぞれの症状に適した診療科を受診して適切な治療を受けるようにしましょう。
胸のしこりは大きく分けると、乳房のしこり、皮膚や筋肉にできるしこり、肋骨や胸骨にできるしこりの3種類があり、以下のような病気が原因のことがあります。
乳房は女性で発達している器官であり、豊富な脂肪組織の中に乳汁分泌を担う乳腺が含まれています。乳房には以下のような病気によってしこりが生じることがあり、まれに乳腺が発達していない男性でも発症することもあります。
40代以降の女性に起きやすいがんです。早期の段階では乳房内にしこりが生じるのみで自覚症状もなく、発見が遅れるケースも少なくありません。がんが進行するとしこりが大きくなって皮膚に潰瘍を形成したり、血性の乳汁分泌や脇の下のリンパ節への転移などがみられたりするようになります。乳がんのしこりは固く可動性が少ないことが特徴で、初期には痛みは伴いません。
乳汁が乳腺や乳管内に詰まり、そこに細菌感染を生じることで炎症を引き起こす病気です。授乳中の女性によくみられ、炎症を起こした乳腺がしこりとして触れ、発赤や熱感、強い痛みを伴います。また、高熱や悪寒などの全身症状がみられることもあり、重症化すると乳房内に膿が溜まるケースもあります。
女性ホルモンの分泌によって乳腺が過度に発達し、しこりや痛み、乳汁分泌などを引き起こす病気です。月経前から症状がひどくなることが特徴で、閉経すると自然によくなることがほとんどです。
乳房に発生する良性腫瘍には、葉状腫瘍や乳腺線維腺腫など、さまざまなものがあります。これらの良性腫瘍は、乳房内にしこりとして触れる以外に症状はありません。腫瘍が大きくなる場合には手術が必要になることもありますが、多くは定期的な検査を行って経過観察されます。良性腫瘍のしこりは、弾力性と可動性があることが特徴です。
以下のような病気によって胸部の皮膚や筋肉にしこりができることがあります。
皮膚の表層部分が皮下に落ちくぼんで袋を形成し、その中に皮脂や垢などが溜まって大きくなる病気です。柔らかいしこりとして触れ、通常は痛みやかゆみなどの症状を伴いません。しかし、内部に細菌感染を生じると強い痛みが生じると共に、しこりが急激に大きくなったり、しこり周辺の皮膚に発赤がみられることがあります。
皮下の軟部組織(真皮や脂肪、筋肉などの組織)から発生する良性腫瘍で、40代以降によく起こります。柔らかいしこりとして触れますが、通常は痛みなどの症状は伴いません。しこりの大きさはそれぞれ異なり、数mm程のものもあれば10cm以上に及ぶものもあります。悪性化することはなく、しこりが極端に大きい場合などを除いては治療の必要がないことがほとんどです。
以下のような病気によって肋骨や胸骨にしこりができることがあります。
骨にできるがんの中でも最も多いものですが、肋骨や胸骨にできることがあります。まれな病気ですが、若年者に多く発症するがんのひとつです。
早期の段階では自覚症状はほとんどありませんが、進行すると体の表面からしこりを触れるようになり、骨が脆くなることで骨折を生じやすくなります。
肋骨は他部位の骨よりも脆弱であり、些細な外力が加わるだけで骨折することも少なくありません。肋骨骨折はギプスなどによる固定ができないため、骨折部位がずれたまま骨が癒合して、しこりとして触れることがあります。
無症状のことが多いですが、しこりが衣類などに擦れて痛みの原因となることもあります。
胸のしこりは、がんなどの非常に重い病気が潜んでいる可能性を考えるべき症状のひとつです。そのため、痛みなどの症状がないからといって放置せず、なるべく早めに病院を受診することが望ましいです。
授乳中でないにもかかわらず乳房内にしこりがある、痛みのある乳房のしこりに加えて発熱などの全身症状がみられる、胸部の皮膚のしこりが徐々に大きくなるなど、これらのような場合は特に早めの受診を検討しましょう。
受診に適した診療科は、どの部位にしこりができたのかによって異なります。乳腺にできた場合には乳腺外科、皮膚や筋肉にできた場合には皮膚科や形成外科、肋骨や胸骨にできた場合には整形外科がよいでしょう。しかし、どの部位にできているかはっきりわからない場合は、一般的な内科やかかりつけの医師に相談することもひとつの方法です。
受診の際は、しこりに気づいた時期や受診までの時間、しこりに伴う症状、しこり以外の全身症状などを詳しく説明するようにしましょう。また、乳房のしこりがある場合には乳がんの家族歴や妊娠出産歴、生理周期なども伝えておくとよいでしょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。