親知らずの腫れ::医師が考える原因と対処法|症状辞典

親知らずの腫れ

受診の目安

夜間・休日を問わず受診

急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。

  • じっとしていられない程の激しい痛みがある
  • 高熱がある

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • 腫れが続いている
  • 痛みなど他の症状がある
  • 親知らずの生え方について指摘された事がある

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 短時間でよくなり、その後繰り返さない

メディカルノート編集部 [医師監修]【監修】

親知らずは、正式には「第三大臼歯(だいさんだいきゅうし)」という歯で、上顎下顎ともに左右のもっとも奥に存在する歯のことです。人によっては萌出(ほうしゅつ)しない(できない)ことも多く、また、そもそも親知らずがない人もめずらしくはありません。一般的な永久歯と異なり、10~20代で萌出するのが特徴で、生え方の異常や痛み、腫れなどさまざまなトラブルを起こして抜歯を必要とするケースが多々あります。

  • 親知らず周囲の歯肉が腫れて痛みがある
  • 親知らずが生えて来ないものの、親知らずの部位に腫れがある
  • 親知らずの咬み合わせが悪く、歯肉に傷ができて腫れる

これらの症状がみられた場合、どのような原因が考えられるでしょうか。

親知らずは抜歯が必要になるケースが少なくありませんが、中には以下のような病気が原因で腫れがみられることがあります。

親知らずの生え方などに異常がある場合、以下のような病気が原因となって腫れを生じることがあります。

智歯周囲炎(ちししゅういえん)

親知らずの歯周ポケットや隣の歯との隙間に食べカスなどが蓄積して炎症を引き起こす病気です。親知らずは歯が生えそろった青年期以降に萌出(ほうしゅつ)するため、萌出するスペースが十分でないことが多く、斜めに生えたり、不完全に顔を出して隣の歯にめり込んだりするケースも少なくありません。このような場合に、歯周ポケットや歯の隙間が広がって食べカスなどが溜まりやすくなり、ここに細菌感染がおこり炎症を起こします。

親知らず周辺の歯肉の腫れだけでなく、強い痛みや(うみ)の流出を伴うことが多く、口臭の原因にもなります。さらに重症化すると痛みで開口が困難となったり、炎症が咽頭(いんとう)扁桃(へんとう)に波及して高熱などの全身症状がみられたりすることもあります。

智歯周囲炎
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含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)

萌出せずに顎骨内に埋没している歯の歯冠(しかん)を含んで発生する嚢胞(内部に液体を蓄えた袋状の腫瘤)です。親知らずは、顎骨(がくこつ)内に水平に埋伏(まいふく)して萌出しないことも多く、このような場合に発症している可能性があります。

通常は痛みなどを伴わず、無症状のことが多いです。しかし、嚢胞(のうほう)が大きくなったり、智歯周囲炎と同様に嚢胞周囲に細菌感染が起きると歯肉の腫れが生じることがあります。

Hofrath嚢胞(ほふらーとのうほう)

慢性的な智歯周囲炎によって生じる炎症性の嚢胞です。特に斜め方向などに不完全に放出した親知らずで多くみられ、親知らずの周囲に嚢胞を形成します。無症状のことが多いですが、嚢胞が大きくなると歯肉の腫れが生じます。

歯根嚢胞(しこんのうほう)

親知らずは萌出の仕方によって汚れが溜まりやすく、ブラッシングなども行き届かない部位であるため、親知らずや隣の第二大臼歯は虫歯になりやすい歯といえます。

虫歯が進行して歯根部にまで波及すると、歯根膜に炎症が生じ歯根部に嚢胞を形成することがあります。発症初期には痛みなどは伴いませんが、嚢胞が大きくなると歯肉の腫れとして触知することがあり、内部に感染を生じると痛みを引き起こすことも少なくありません。

親知らずの萌出異常はよくみられますが、すべての方が腫れを生じるわけではありません。以下のような全身の病気がある場合は、特に親知らずの腫れを引き起こしやすくなります。

糖尿病

重度な糖尿病は免疫力が低下しやすく、些細な原因で感染を起こしやすくなります。このため、健康な方よりも智歯周囲炎などを生じやすく、炎症も慢性化しやすいため親知らずの腫れを起こす可能性が高くなります。

糖尿病
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シェーグレン症候群

自己免疫の異常による病気のひとつで、唾液腺(だえきせん)涙腺(るいせん)が侵されることで唾液や涙の減少がみられる病気です。唾液は口腔内の自浄作用を担っており、減少することで虫歯や智歯周囲炎を起こしやすくなります。

シェーグレン症候群
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親知らずは、口腔内トラブルを起こしやすく、抜歯が必要なケースが多々あります。その中でも、親知らずの腫れはよくみられる症状であり、自然とよくなることもあります。しかし、これはあくまで落ち着いただけで、治ったわけではありません。放置すると嚢胞を形成したり、隣の大臼歯にも虫歯が波及したりすることも少なくありません。このため、親知らずの腫れは放置せずになるべく早めに病院を受診することが大切です。

特に、腫れと共に歯肉の発赤や痛みがある場合、喉の痛みなど他部位にも症状がある場合、虫歯や歯肉炎などを起こしやすい病気を患っている場合、腫れを繰り返している場合は速やかに病院を受診しましょう。

受診に適した診療科は一般的な歯科や口腔外科ですが、その原因となる病気を患っている場合はかかりつけ医で相談するのもよいでしょう。

また、受診の際には、いつから腫れが生じたのか、痛みなど他の症状はあるか、症状を繰り返していないか、糖尿病などの病気を患っていないかを詳しく医師に説明するようにしましょう。

親知らずの腫れは、日常生活上の不適切な習慣が原因の場合があります。主な原因とその対処法は以下の通りです。

口腔内が不衛生な状態が続くと智歯周囲炎を発症しやすくなり、炎症が慢性化する可能性が高くなります。

正しい口腔ケアを行うには

親知らず周囲は汚れが溜まりやすく、ブラッシングも行き届かないため不衛生になりやすい部位です。食後に歯磨きをするのはもちろん大切ですが、親知らず周囲の汚れをしっかり落とせるようにブラッシング方法を工夫しましょう。

また、歯周ポケットなどに溜まった歯垢はブラッシングだけでは除去できないため、歯科医院で定期的にクリーニングを受けるのもおすすめです。

唾液の不足は、口腔内の自浄作用を低下させ虫歯や歯周炎を生じやすくなります。

口腔内の潤いを保つには

唾液の分泌量を維持して口腔内の潤いを保つには、適度な水分補給が大切です。特に夏場は脱水になりやすいのでこまめに水分を摂るようにしましょう。また、外出先などで水分が摂りにくい場合はガムや飴を口にすると唾液の分泌量が増えるので一時的な対処法としておすすめです。

日常生活上の習慣をあらためても症状が改善しない場合や、再発を繰り返す場合は抜歯が必要であったり、糖尿病などの病気が潜んでいたりする可能性があります。親知らずの腫れはよくみられる症状ですが、放置せずに病院を受診して治療を受けるようにしましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。