骨盤が痛い:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
筑波大学 医学医療系整形外科 准教授
國府田 正雄 先生【監修】
骨盤と聞くと大きな骨をイメージするのではないでしょうか。そのため骨盤の痛みは骨や関節が原因だと思いがちです。しかし、骨盤の周辺には筋肉、内側には直腸や膀胱、子宮(女性の場合)などさまざまな臓器があるため、骨盤の痛みは骨や関節だけでなく、臓器の病気が原因になっている場合もあります。
このような症状がみられたとき、考えられる原因とはどのようなものがあるでしょうか。
骨盤の痛みは主に骨や関節、筋肉の病気によるものですが、骨盤内の臓器の病気も原因として考えられます。
骨盤に痛みが現れる病気のうち、骨や関節、筋肉などが関係している病気には主に以下のようなものがあります。
変形性股関節症は、股関節を構成する骨の変形や関節軟骨がすり減るなどして、股関節に痛みが生じたり可動域(動かせる範囲)が狭くなったりする病気です。
初期には足の付け根やお尻、膝の上あたりにこわばりや重い感じを自覚し、立ち上がりや歩き始めといった動作のときに足の付け根や骨盤あたりに痛みを感じます。
症状の進行に伴って痛みが強くなっていくのが一般的で、場合によっては動作に関わらず常に痛みが現れることもあります。
太ももにある大きな骨が大腿骨です。大腿骨は股関節から膝関節まで伸びる長い骨ですが、このうちの股関節付近の部分のことを大腿骨近位部といいます。
この部位に骨折が生じたものが大腿骨近位部骨折で、骨折を発症すると折れた部位付近に強い痛みが現れます。痛みのほかに、腫れや骨の変形、出血に伴ってあざがみられる場合もあります。
中でも大腿骨頚部骨折といわれる骨折は高齢者に多く、少し転んだだけで折れることもあるため注意が必要です。
大腿骨の股関節の部分には、球状の大腿骨頭と呼ばれる骨があります。この骨の一部に血が通わなくなったり、骨の組織が死んでしまった状態(壊死)を大腿骨骨頭壊死といいます。アルコールの飲みすぎやステロイド剤の内服に伴うもの、自然と発症するものなどがあります。
壊死が生じた段階では、一般的に自覚症状がありません。壊死が生じて大腿骨に負荷がかかり、大腿骨骨頭が潰れることで痛みが現れるようになります。痛みは股関節を内側にひねるときに強くなるのが特徴です。股関節だけでなく、腰や膝、おしりなど他の部位に痛みが現れることもあります。
骨盤の後ろ側左右にある大きな関節が仙腸関節で、この関節に炎症が起こるとお尻や下肢に痛みが出ます。この関節の炎症をおこしやすい「脊椎関節炎」という疾患が最近注目されています。体のあちこちの関節に炎症を起こすことのある病気です。数か月以上痛みが続く場合には注意が必要です。
交通事故や転倒などによって、骨盤に外から力が加わって骨折したり、骨盤の骨や骨盤まわりを打撲した場合にも痛みが生じます。
骨折・打撲ともに発症部位に痛みが現れますが、骨折した場合には激痛を伴うことが多く、自力で体を動かせない、座れないなどの症状が現れます。
また、骨折によって骨盤内の血管や臓器が傷ついて出血すると、血尿や血便などの症状が現れることもあります。大量出血の場合にはショック状態になることもあります。
骨に発生するがんには、骨肉腫や軟骨肉腫、ユーイング肉腫などの種類があります。このうち、骨盤に発生することが多いのが軟骨肉腫とユーイング肉腫です。
骨盤にがんが発生すると、骨盤の痛みのほかに、軟骨肉腫であれば腫れやしこり、ユーイング肉腫であれば腫れやしこり、発熱などが生じることもあります。
骨盤の深いところにがんが発生した場合には、表面から腫れやしこりを自覚することが難しく、病状が進行してから発見されることが少なくありません。
上で挙げた骨盤付近の骨や関節、筋肉によるものだけでなく、骨盤内臓器の感染症や悪性腫瘍(がん)の転移などによっても、骨盤に痛みの症状が現れることがあります。
女性の骨盤内には、子宮頸部や子宮、卵管、卵巣などの臓器があります。このような臓器がウイルスや細菌に感染して炎症が生じた場合にも、骨盤に痛みが生じることが少なくありません。
いずれも主な症状が下腹部痛と発熱などで、時には吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状を伴うこともあります。また、膀胱など他の骨盤内臓器の感染症でも骨盤に痛みが現れる場合があります。
体のどこかにできた悪性腫瘍は、他の部位の骨や臓器に転移することがよくありますが、骨盤の骨や骨盤内の臓器(子宮や膀胱など)に転移することも珍しくありません。骨盤の骨に転移するものとしては、前立腺がんが多いとされています。
骨盤や骨盤内の臓器に転移すると、転移元となるがんの症状に加えて、骨盤痛や腰骨付近の痛み、下腹部痛など転移した部位に痛みが現れることがあります。
激しい痛みはもちろん、痛みが弱くても長く続いている場合には、病気を特定するためにも一度整形外科への受診を考えてみましょう。また、痛みのきっかけとなった出来事に心当たりがある場合や、歩く動作に支障が出ているような場合には早めの受診がよいでしょう。
受診の際には、骨盤のどの部分が痛いのか、いつから痛むようになったのか、どういった動作で痛いのか、痛みのほかに症状があるかなどを医師に伝えましょう。
病気によるほか、日常生活が原因となって骨盤に痛みが現れることも多く、特に妊娠中や産後によく起こります。
妊娠中には、リラキシンと呼ばれるホルモンが分泌されます。リラキシンには、骨盤の仙腸骨の靭帯や恥骨の接合部を緩める作用があり、この作用による影響で骨盤が不安定になることで、骨盤痛が起きるとされています。
産後における骨盤痛も、リラキシンの影響で骨盤が不安定になることが原因の一つと考えられていますが、ほかにも胎児が産道を通る過程で骨盤底筋が傷つくことや、分娩時の姿勢なども産後の骨盤痛に関係しているといわれています。
骨盤が不安定になることによる痛みであれば、骨盤ベルトなどを使用して骨盤を支えることが痛みの緩和に有効だといわれています。また、骨盤ベルトと組み合わせて運動を行うことも、痛みの軽減に効果があるとされています。
骨盤ベルトの適切な位置や装着方法、運動の方法を医師や助産師から指導を受けて、積極的に取り組むとよいでしょう。
骨盤ベルトや運動を試しても痛みが続く場合には、思わぬ原因が潜んでいる場合もあります。よくならない場合には一度医療機関で相談してみましょう。