心房細動による脳梗塞を未然に防ぐための抗凝固療法は、新しい抗凝固薬の登場によって選択肢が広がっています。今後、心房細動の管理や治療戦略はどのように変わっていくのでしょうか。国際医療福祉大学三田病院 予防医学センター・心臓血管センターの加藤貴雄先生に今後の展望をうかがいました。
「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」は、その後見直しがなされ、現在は下記のものが一般的に用いられています。心房細動のタイプやリスクの有無、人工弁が入っているかどうかなどによって治療方針が分かれており、年齢などの要因を加味しながら推奨のレベルが示されています。しかし、これはあくまでガイドラインであり、絶対に従わなければならないというわけではありません。目の前の患者さんはこれに合致しないというケースも多くあります。その場合には、ガイドラインを参考にしながら主治医の裁量によって薬の調整をするということになります。
新規経口抗凝固薬が出たからといって、すべてワルファリンに取って代わるというわけではありません。ワルファリン自体は決して有用性が低いわけではありませんし、これまで何十年も人の命に貢献してきたのですから、これはやはり大事な薬です。NOACと比較してみればたしかにNOACのほうがよいという面が多いのですが、それはあくまで集団としてとらえたときの話で、目の前の患者さんにはワルファリンのほうがいいかもしれないのです。どの薬剤を用いるかという判断は、患者さん一人ひとりの問題になってきます。いずれにしても、両方の薬剤がこれからも実臨床で使われていくと考えられます。
心房細動における抗凝固療法という面では、新たな薬剤が登場して急速に世の中に広がっているところです。しかし、本来は心房細動によってこういうことが起こっているわけですから、根本的には心房細動さえなくなればよいのです。心房細動を止める、あるいは予防するということに今後目を向けていかなければなりません。
これまでの長い歴史の中でさまざまな薬剤が次々と開発され、心房細動を止める、あるいは心房細動にならないよう予防するという効果を謳った抗不整脈薬は数多く出てきてはいますが、なかなか安心して長く使えるものはなく、有効率も40〜50%程度と考えられます。
ではどうするか、ということで出てきたのがアブレーション治療です。これは肺静脈の周囲を熱で焼灼(しょうしゃく)するアブレーションと呼ばれる治療によって、心房細動が起こりにくい状態を作るという方法で、大きな期待が集まっています。特に発作性の心房細動には、8〜9割という高い確率で心房細動が起きない状態を作ることができます。
心房細動が起こらなくなれば、抗凝固療法は必要なくなるわけですから、患者さんにとっても我々にとっても非常にメリットがあります。ただし、持続性・永続性の心房細動になると、アブレーションでもなかなかよくなりません。よくて7〜8割といったところで、残りの2割、3割の方は心房細動が治らないということになります。このような患者さんに対して、今後どのような治療のアプローチをしていくかということを考えなければなりません。
現在、心房細動の発生メカニズムからもう一度見直して、どのようなイオンチャネル(細胞膜に存在するタンパク質で、刺激に応じて開閉しイオンが通過する小孔を形成する)が関係しているのかなど、基礎的な検討が活発に行なわれています。研究が進み、新たな薬剤として心房細動を完全に予防できるような治療法が出てくることを期待しています。
また、その一方で心房細動を起こしたり、悪化させたりするような要因・誘因をひとつひとつ片付けていくアップストリーム・アプローチという考え方があります。心房細動発生の上位にあるものに目を向けていくということですが、これにはまだ決め手がありません。一時期、ACE阻害薬やARBなどの高血圧薬に期待が集まって大規模試験が行なわれましたが、十分な効果を示す結果は出ていません。他にはビタミンCやEが期待されたこともありましたが、しっかりとしたエビデンスがなく、今のところ決め手を欠いています。
しかし、予防医学という観点を含めて、確実に心房細動の発生を予防する薬剤の開発、あるいは食生活の改善などを含めたアップストリーム・アプローチを積極的に目指すことが、今後重要な治療戦略のひとつになるのではないかと思っています。