インタビュー

口唇口蓋裂の手術治療① 口唇裂の治療

口唇口蓋裂の手術治療① 口唇裂の治療
玉田 一敬 先生

東京都立小児総合医療センター 形成外科 部長

玉田 一敬 先生

この記事の最終更新は2016年04月13日です。

口唇裂(こうしんれつ)とは、上くちびるがきちんとくっつかずに割れ目が生じている状態で、哺乳や口唇の動きに一定の負担がかかってしまいます。口唇裂を治療するには手術が必要となります。口唇裂の手術治療について、東京都立小児総合医療センター形成外科医長の玉田一敬先生にお話しいただきました。

口唇裂の手術目的は、「唇および外鼻の形を整えることで社会生活に不利益なこと(偏見など)が生じないようにすること」、「唇の周りの筋肉を再建することで、食事や発声に際して、より生理的な筋肉の動きを獲得すること」の2点が主になると考えられます。

口唇裂の手術は生後2~3か月の時期に行う施設が多いのですが、施設によっては生後6か月時に顎裂や口蓋裂の手術と合わせて行うなど、方針が異なることもあります。いずれにせよ、その病院のコンセプトにしたがって一貫した治療を継続することが重要です。しっかりしたチーム医療を受けられる施設であれば、一つ一つの手術の時期の違いは、最終的に得られる結果にとってあまり大きな違いにはならないといえるかもしれません。

手術の方法としてはミラード法及びその変法と、小三角弁法及びその変法、最近ではUnit Approximation Technique(フィッシャー法)などもよく用いられます。

いずれの術式も口唇形成に有効な方法です。執刀医の多くは、より瘢痕(はんこん:手術による創が治った後で皮膚に残る手術の跡)が目立ちにくく、優れた形態を得られるように工夫を加えて手術を行っています。そのため、「どの術式がどの術式よりも必ず優れている」というわけではありません。

なお、東京都立小児総合医療センターでは直線法+小三角弁法を基本術式としています。

手術にあたっては顔面の立体構造を意識し、傷跡が目立たないようなラインを選んで切開します。筋肉を剥離(はくり:はがすこと)してより生理的な状態に再建したあと、傷を丁寧に縫合していきます。手術時間はもともとの裂の状態によって異なりますが、およそ1~3時間ほどを要します。

口唇裂では、口の周囲の筋肉の走行に異常が見られるため、鼻の変形も伴っていることが多いです。鼻の変形に対する治療方針は施設によって異なります。鼻の変形を残すことによる心理面への影響、手術による傷跡の可能性、鼻の成長への影響など様々な要素を考慮する必要があり、各治療施設は、長い年月をかけて行われる一連の治療の中で方針を決定しています。

なお、東京都立小児総合医療センターでは手術による鼻の成長への影響にも配慮しつつ、なるべく口唇裂手術時に鼻の左右差も整えるという方針で手術を行っています。

施設によって違いもありますが、多くは術後数日間の入院を要します。一般的に手術後1~2日は口唇が腫れていますが、次第に落ち着いていきます。口唇や鼻の形態は手術後に多少後戻りしたり、成長に伴って少しずつ変わっていったりするため、手術直後の状態でずっと維持されるわけではありません。執刀医はそういった時間経過に伴う変化も想定して手術を行うため、形の変化に関しては数カ月単位でゆっくり経過を見ていく必要があります。

口唇裂も口蓋裂も、一度完成した組織を切って分けた状態とは異なるため、単純にくっつければ治るということではありません。口唇裂にも口蓋裂にもそれぞれ特有の筋肉の走行異常があり、その筋肉の走行異常を改善することが、良い手術結果を得るためには不可欠です。

また、特に片側の口唇裂では、もともと口唇付近の組織量に左右差がありますが、程度にはかなり個人差があります。したがって口唇裂の手術で大事なことは、一見似たような変形の中に潜んでいる個人差を判断して、その背景となっている解剖学的状況を推察し、それぞれの患者さんに一番適した手術操作を行うということだと思っています。

 

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