口唇裂・口蓋裂は「先天性外表異常」といわれているもので、生まれつき唇などが割れたままになっている状態をさします。約500人に1人程度起こるといわれており、よく起こることではあるのですが基本的には原因は分かっていません。この口唇裂・口蓋裂にはとても長い期間の治療が必要ですが、どのような治療を行うのでしょうか。川崎医科大学形成外科学教授稲川喜一先生にお話をうかがいました。
口唇裂・口蓋裂の治療には非常に長い期間がかかります。しかし全体としての期間は長いけれども、総じてみると一回の入院期間は短いですし、しっかりと治療をすれば後遺症もほとんど残らずに治る病気です。お子さんが生まれた後、自分自身に問題があったのではないかなどとお母さんが自分を責めてしまうことがあると思います。しかしそのような必要はありません。心配せず、ナーバスになりすぎずにきちんと治療を完了させていくことを考えましょう。また、治療の費用についても国からほとんど補助金が出るため、心配はいりません。
口唇裂・口蓋裂にはさまざまな種類があり、大きく個人差があります。口唇裂だけがある方も、逆に口蓋裂だけの方もいます。そのパターンによって治療は大きく異なり、なおかつ「形成外科で最初に手術をすればそれで終わり」という病気ではありません。
口唇裂・口蓋裂は単一の診療科だけでは治すことができません。例えば、形成外科では手術をします。しかしその後に言葉をきちんと話せるように訓練をしなければならないことがあります。その時にはリハビリテーション科での言語訓練が必要となります。
歯並びに関して影響が出ることもあり、学童期以降には矯正歯科的な治療をしてもらう必要があります。また、顎裂がある時には矯正歯科で永久歯の育ち具合をレントゲンで確認して、永久歯(犬歯)が生えてくる直前に形成外科で骨の移植を行います。矯正歯科では骨の移植前に乳歯の移動を行うこともありますし、永久歯を移植骨の中に誘導して歯並びを整えます。
滲出性中耳炎のチェックも不可欠で、耳鼻咽喉科の先生との連携も欠かせません。また、次の子どもを作ったときに遺伝の影響により同様のことが起こる可能性があるのか、遺伝カウンセラーと連携をすることもあります。
もちろん一般的な部分では産科・小児科とも連携する必要があります。今では精度の良い「3Dエコー」という超音波検査機器があるため、かなり早い時期からお子さんに口唇裂・口蓋裂があるかないかという情報提供をできるようになりました。口唇裂・口蓋裂があったとしてもきちんと治療ができるということをお話した上で、安心して出産を迎えてもらうことができます。
さらに具体的な診断から治療までの流れについては、「口唇裂・口蓋裂の診断から治療までの流れ―口唇裂・口蓋裂をもつこどものために(1)」で詳しく説明します。
川崎医科大学 医学部 臨床医学 元形成外科学教授
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