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インタビュー

児童精神科からの提言-子どもの心を地域力で守る

児童精神科からの提言-子どもの心を地域力で守る
竹内 直樹 先生

横浜市立大学附属病院 元児童精神科診療部長/准教授、開花館クリニック 副院長

竹内 直樹 先生

子どもの不登校やメンタルヘルス、発達障害などの問題が注目を集めている一方で、児童精神科医の数は不足した状態に留まり、児童精神科医がいない地域も存在しています。本記事では、学校へ行けない子どもが将来自立できるよう、地域として取り組むべき提案や、それぞれの地域の医療ニーズに応えるためになされるべき工夫について、元横浜市立大学附属病院児童精神科診療部長の竹内直樹先生のお考えを伺いました。

先に述べたように、年間30日以上欠席の不登校生徒は、特に中学生になると増え、文部科学省(平成27年度)によれば、不登校の割合は中学生の36人に1人、3%弱にまでのぼります。通学を渋る生徒など、いわゆる暗数を勘案すれば、不登校現象はわが国では地域差はありません。

児童精神科を受診する症状では、「不登校・通学しぶり」がトップですが、不登校だけの症状による受診は稀です。

不登校は絶対悪ではありません。不登校は「氷山の一角」とも呼べる状態であり、さまざまな心理的要因、子どもの貧困や被虐待などが背景にあります。そのためにも不登校以外の生活の様々な事象に目を向けることが重要です。

義務教育時代は人生のごくわずかな期間です。しかし、渦中の子どもや親は予期不安にかられ、不登校児童はすべて社会人になってもひきこもりに発展すると思いこみ、不登校を「社会的自殺」のように深刻に考えがちです。

毎朝、通学刺激にさらされて、身体は休んでいても心は休めずに、不快で落ち着かない状態に陥り、結果として長期欠席が続いてしまう子どももいます。

学校側からみれば、いずれも「不登校」としか映りませんが、その背景を考えたいものです。登校すれば元気な子どもとくくられやすいのですが、背景はさまざまです。地域の学習塾やフリースクールに通える場合もありますし、家庭の貧困や被虐待(ネグレクトなど)による養育困難のために、学校を欠席している場合もあります。

逆に、学校を休み静養をはかるように勧めても、子ども自身が病気を否定する症例もあり、とくに拒食症で重篤なやせに陥っても、強硬に通学や体育に参加し続けて学校が困惑する悲劇もあります。このように不登校問題は氷山の一角で、子どもの生活の問題を周囲にアピールしているともいえます。不登校は生活の支障を訴えるSOSであり、非特異的問題が長期欠席の現象ともいえます。

不登校対策として、長年の支援の方策が教育行政には蓄積されています。不登校のための適応指導教室、さまざまな「子どもの居場所」、フリースペース、フリースクール、横浜市には独自の「ハートフルフレンド」という大学生家庭訪問支援事業もあります。地域との交流や、家庭外に居場所ができることは、子どものメンタルヘルスの支援のために重要です。また、学校側が地域から提供された情報を発信して、当事者たちが選択することも大切です。学校の教育力とは、制度だけではなく、運用する人間の総合力です。たとえば、PTAが不登校支援に参与している場合があります。それぞれの学校力を点検したいものです。

人生の大事な時期にこそ、通学によって家族と過ごす時間を減らすのではなく、家庭で過ごすべきであるという「ホームエデュケ―ション」という思想もあります。学校は貧民の子どもが利用し、貴族の子弟は家庭教師などから個人教育を受け、学校を利用しなかった歴史の現代版ともいえます。インフルエンザ流行時期の休校の自宅学習の指導と同じように、不登校も「学校へ行く⇔休む」の二項対立から離れ、より広い視野での教育保証を当事者が選択できる社会作りが望まれます。

社会で自立して生きていけるような配慮から進路指導を行わなければいけませんし、その生徒のその後の長期経過に関心を寄せることも重要です。不登校と関連が深い高校中退の転帰には悲しいものがあります。そのため、高校中退をなくすのではなく、中退後の進路指導にこそ学校は真摯に対応をしていただきたいと考えます。そこには学校教育制度や進路指導が反省すべき問題の萌芽がひそんでいます。通学刺激、あるいは中退阻止のみに強迫的に立ち向かうことが学校の役割とはいえません。

不登校問題が顕在化したことで、子どもと出会い、さらに社会と出会うことこそが求められます。くり返しますが、不登校の治療ではなく、不登校を抱えた子どもや親に関心を払うことが重要です。

保育園や学校での相談や校医、あるいは小児科医や児童精神科医も、地域の子ども問題のメンタルヘルスのモニターになるように、仕組み作りを作る必要があります。それぞれの関係先の連携、小中連携などが重要ですが、現在その運用はいまひとつといった段階です。

その意味で虐待防止ネットワークの要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)が掲げる、①早期発見・早期対応、②地域連携、③担当者の意識変化は、どの分野でも参考になるかと考えます。

制度は常に運用が大事であり、モニタリングは欠かせません。問題を反映させる運用と、真摯な専門家同士の議論が両輪となります。同じ地域にいる互いが顔のみえる支援になることが前提ですが、逆に知人同士では同調圧力に傾くときもあります。これでは「閉じられた会」になり形のみの会になりかねません。個人情報の制約もありますが、専門職種だけではなく、PTA、自助グループなど、知人同士ではない者同士が連携する「開かれた会」へ発展させていく過程こそが地域力になります。

現状では、地域の医療ニーズに応えられるだけの児童精神科医や児童精神科を持つ施設が不足しています。園医、学校医などの活用はもちろん、小児科医や福祉保健センター(保健所)などの既存の受け皿のなかで、メンタルヘルスを担っていただかざるを得ない現状があります。

医者の卒後教育も重要です。総合診療医もありますが、専門医の制度などで、狭義の医療枠に留まりがちな卒後教育がなされています。研修医の後は同業種が主に連携し、同じ病院内であってもパラメディカルの心理士やソーシャルワーカーなどとなじみが薄いことがあります。顔や名前のわかるつきあいを心がけたいものです。

地域では、教育委員会、福祉関連、警察などとも連携を求めていく必要があります。他の諸機関の支援への点検というオンブズパーソンの役割を果たすことも重要であり、アウトリーチへの経済や人材の確保が病院経営においても望まれます。

子どものメンタルヘルスを守るためには、子どもへの関心が最重要で、生活圏に根ざした解決策を発信していくことが重要です。私自身の経験では、地域のボランティアグループに参加することで、臨床が開かれた経験があります。研修の知識よりも社会に生きる人々と出会うことが大切だと考えます。

カウンセリングが流行とはいえ、極端なやせ、自傷や自殺企図が反復する場合には、医療や心理の入口は狭くなりがちです。ここでは摂食障害を例に挙げます。

前思春期の摂食障害は、極端なやせにより死に至ることがあります。ただし、子どもでは比較的素直な受診もあります。前思春期例は、可塑性が高く、主症状は食欲不振と脱水であり、対症療法だけで回復過程に入る症例も多く、モニタリングだけで回復する例もあります。体調の改善が心理的余裕を回復させるのです。

主症状の背景の精神病理や家族力動に固執しなくても、体調の回復により、家族機能も回復することがあるため、対処できるものから手順を追っていけばよいのです。そのためにも受診を早めることが治療の第一義です。

しかし、摂食障害は「心理的な問題による難しい病気」という先入観で、診療科が狭まっているのが実情です。中学以降では、肥満恐怖のために、精神科への受診抵抗が子どもに生じ、受診に至らない例もあります。子どもの医療抵抗や、緊迫した食卓状況で家族は疲弊することがあり、また、15歳以降では過食や自己誘発性嘔吐などが併発し、イライラ、自傷などの行動化が伴いやすく、同じ摂食障害の診断でも病理は異なります。

女子高校生は間違った原因論、母親との問題、偏った精神病理(成熟拒否、女性性嫌悪、慢性自殺)などで苦しむことがあります。

また、過量服薬、解離様症状の健忘などを反復したり、自責や他責、あるいは孤立化など、随伴する症状で悩む場合もあります。受診のむずかしい群は児童精神科や精神科に、そして素直な場合は身体の科で関わっていただきたいと考えます。

このとき、医療関係者が「心の問題」ということで診療をためらいがちになることを怖れます。自分自身が小児科と児童精神科を経験したために、その思考方法の違いは痛感していますが、時代とともに医療ニーズも変わり、様々な障害を抱える子どもの受け皿となる診療科やクリニックが増えることを期待し、地域でのプライマリー医がワンストップサービスになることを希望します。

当事者の視点から私たちは学ぶ経験が必須と思われます。

教員、教育関係者や心理士、福祉関係の専門職種に対し、啓蒙・啓発活動をして、さらに「言い合える仲」に醸成していく地域力の伝承が重要です。地域によっては職種の不在やアクセスの不便さなどの問題もあり、相性のよい関係ができる立場の人が集まって、とりあえず子どもを支えているのが実際です。当事者に媚びるポピュリズムではなく真摯に向き合いたいものです。全国にスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどが制度化されてきていますが、児童精神科医はこのような方々と緊密に連携し、お互いに切磋琢磨して、それぞれの責任と専門性を明確化していかなければなりません。

医療、教育、福祉は、それぞれ伝統と専門性の歴史の上に成り立っています。医師として培ってきた臨床経験による専門性を、さまざまな立場の職種と共有していくことが大切です。この連携の過程こそが地域の連帯力となり、地域に応じたメンタルヘルスの制度を作りだしていくと考えます。

今後も専門性を活かしながら、専門に閉じこもるのではなく、子どものメンタルヘルスをコーディネートしつつ、オンブズパーソンとして「子どもの権利」を支援していきたいと考えます。