インタビュー

顔や手のひら、ワキの多量の汗は「多汗症」?汗っかきとの違いと病院での治療法

顔や手のひら、ワキの多量の汗は「多汗症」?汗っかきとの違いと病院での治療法
細川 亙 先生

大阪みなと中央病院 元病院長、大阪大学 名誉教授、元日本形成外科学会 理事長

細川 亙 先生

この記事の最終更新は2016年06月27日です。

気温が高くなり汗をかく量が増えたと感じる人がいる一方で、一年を通して全身もしくは特定の部位からの多量の発汗に悩み続けている人もいます。日常生活や仕事に差し障りが出るほどに汗が出る疾患を「多汗症」といい、皮膚科や形成外科、内科などで様々な治療が行われています。時には生活の質にも多大な影響を及ぼすことのある多汗症とはどのような疾患で、どのような原因により引き起こされるのでしょうか。いわゆる「汗っかき」との違いなども織り交ぜつつ、大阪大学医学部附属病院形成外科教授の細川亙先生にお話しいただきました。

多汗症は、記事1「ワキガは病院で治療できる」でお話しした腋臭症以上に理解や診断が難しい疾患です。多汗症は汗をかく部位などにより、大きく次の2つに分類されます。

全身性多汗症:背中や足、腹部など、全身に多量の汗をかく疾患。多汗症全体の中で全身性の多汗症が占める割合は少ない。

局所性多汗症:主に手のひらや足の裏、腋下など、ある一部から多量の汗が出る疾患。手のひら・足の裏の多汗症は「掌蹠多汗症(しょうせきたかんしょう)」と呼ばれる。

このほかに、少数ですが「フライ症候群」という耳下腺の摘出手術後にみられる疾患もあります。フライ症候群は、食事のときに耳前部に発汗・発赤症状を伴う「続発性」の疾患で、唾液分泌を促す神経が、唾液腺を摘出されたことにより汗を分泌するよう指令を出してしまうために起こるものと考えられています。

このような続発性の局所多汗症であれば、まず原疾患を探すことが重要になります。生まれつきではなく、「人生のある一時期から」急に局所的に多量の汗をかくようになった場合であれば、何らかの原因疾患が潜んでいる可能性もあります。

一方、原疾患などがなく一次的に起こるものを「原発性」の多汗症といいます。

全身性の場合、多汗症と捉えるか汗っかきと考えるかは、「本人が気にしているかどうか」により変わります。局所性の場合は、多くの方が生活や仕事への悪影響を感じるため、全身性の多汗症や記事1でお話しした腋臭症などよりも深刻な問題となります。

本来汗とは体温調節のために出るものですが、手のひらや足の裏の汗に関しては、体温調節よりも「滑り止め」の役割を担っていると考えられています。しかし、この部位からの発汗が多量になると物を持つときなどに滑ってしまい、治療をせねば日常生活に差し障りが出るとお困りの方も実際に多々いらっしゃいます。

これとは逆に、汗をかきやすい体質であっても、「気にならない」「不自由に感じていない」という方であれば、いわゆる汗っかきとして捉えることができます。

手のひらや足の裏、腋下の多汗症は原発性のものと続発性のものがありますが、局所的な神経の疾患に伴って汗が出ていることもあります。また、手のひらの汗は精神的な緊張が原因となっていることもあります。たとえば、過緊張状態で作業を行っているときに、手から物が滑り落ちてしまうような汗をかく方もいらっしゃいます。

全身性の原疾患では甲状腺機能亢進症バセドウ病)など、内分泌疾患も考えられます。発汗症状がありこういった疾患が疑われるようであれば、まずは専門の科で検査を受けることとなります。

尚、多汗症と遺伝との関係は、現在のところわかっていません。

多汗症の検査では、ご本人の訴えが最も重要になります。というのも、来院されたときに汗が出ているとは限らず、確立された検査法などは存在しないからです。汗に関しては、記事1(腋臭症)で述べた自己臭症のような精神的な疾患もないため、ご本人がどの部位の発汗でどの程度困っているのかという主張をもとに治療を行うこととなります。

多汗症を専門的にみることができる診療科は皮膚科です。記事1でご紹介した皮弁法などの腋臭症の治療は、私たちの体に備わっている2つの汗腺のうち、主に皮膚の真皮下にあるアポクリン腺を切除するものですので、外科的手術で皮膚の裏へとアプローチすることが可能でした。

しかし、手のひらや足の裏にはアポクリン腺は存在せず、局所的な発汗のほとんどはエクリン腺が絡んでいるという違いがあります。エクリン腺は、アポクリン腺よりやや浅い皮膚の真皮内に存在するため、腋臭症と同じ方法では多少よくなることはあっても「治す」というところまで改善させることはできません。

そのため、多汗症の治療は制汗剤などの塗布薬や内服薬を使用する内科的治療が主となります。これらの薬剤は、腋臭症の治療を行っている形成外科でもある程度の知識があるため処方できますが、基本的には皮膚科が行う治療法といえます。

多汗症の原疾患が先に触れた甲状腺機能亢進症(バセドウ病)であれば、診療科は内科となります。また、発汗を引き起こしている原因が過度の緊張であれば、精神安定剤や抗うつ剤、抗不安剤を投与する場合もあります。

皮膚科や形成外科で行う治療法のひとつには、水に浸した皮膚表面に電流を流してエクリン腺からの発汗を抑制する「イオントフォレーシス療法」という方法があります。イオントフォレーシス療法で用いるのは微弱な電流ですので痛みや副作用はありませんが、繰り返して治療する必要があります。また、この治療を行ってくれる施設は多くはありませんので受診する前に確認する方が良いでしょう。

このほか、手のひらにA型ボツリヌス毒素(ボツリヌス菌)を注射するという方法も行われています。しかしながら、手のひらに注射針を打つ際には、他の部位への注射以上の痛みが生じるといったデメリットもあります。

このほか、前項でも触れた通り、皮膚を切開して皮膚の裏の汗腺を目で確認しながら切除する皮弁法も、効果は腋臭症治療ほどには得られないものの、多汗症治療のひとつの選択肢として用いられることがあります。

掌蹠多汗症に対する効果が比較的しっかりと出る手術療法に、汗が出るに至るまでの神経刺激経路である「胸部交感神経」をブロックする「交感神経遮断術」があります。交感神経遮断術は胸部外科や麻酔科で行われており、他の治療法に比べて効果があるだけでなく、保険適応になるというメリットがあります。

しかし、交感神経遮断術には重大な合併症「代償性発汗」があるため、施術を受ける前に医師からの説明をしっかりと聞いて決断をする必要があります。代償性発汗とは、手のひらから汗が出なくなる代わりに、背中など別の部位から多量の汗が出るようになるというもので、重大な副作用として訴訟にもなったことがあるほどの合併症です。

しかしながら、仕事などで手を使われる患者さんの中には、「他の部位からの発汗を我慢してでも、手のひらからの多量の発汗を抑えたい」という方がいらっしゃるのも現実です。

このように、多汗症とはQOL(生活の質)に大きくかかわってくる問題ですので、ご自身が何に最も困っておりどの程度治したいのか、治療法にはどのような副作用があるのか、十分に認識し考えたうえで治療法を選択することをおすすめします。

医療者の中には、認知行動療法が多汗症対策に有用であると主張されている方もいます。しかしながら、これには必ずしも十分な科学的な根拠がなく、効果の程度は不明瞭です。というのも、そもそも汗を抑える治療の効果は、治療前・治療後に患者さんご本人に「主観」によって効果を評価してもらうことしかできないからです。

認知行動療法に限らず多汗症の治療効果とは、客観的評価がほとんど不可能に近い性質のものなのです。またそれゆえに、どの治療者や施設の主張を信頼してよいのか、患者さんもわからなくなってしまうという難しさがあります。

日常生活中でできる多汗症の予防法には、制汗剤の使用があります。

また、もしも何らかの作業中のみ対象物がびしょびしょになるほど汗をかくようであれば、緊張を解いてご自身をリラックス状態に導けるような訓練をするのもよいかもしれません。

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