インタビュー

どれくらい腋(わき)に汗をかくなら受診すべき? 原発性腋窩多汗症の受診の目安

どれくらい腋(わき)に汗をかくなら受診すべき? 原発性腋窩多汗症の受診の目安
稲澤 美奈子 先生

小杉町クリニック 副院長

稲澤 美奈子 先生

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“汗をかく”ことは、私たちが健康的な生活を送るためになくてはならない体の機能です。しかしその汗が多量だと、生活に支障が出たり不快な思いをしたりすることもあるでしょう。

原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)は、(わき)の下に多量の汗をかく病気です。多汗を自覚して困っていても、市販の制汗剤でしのいでいる方も多いようです。では、どれくらい汗をかくなら受診すべきなのでしょうか。今回は、小杉町クリニック 副院長の稲澤 美奈子(いなざわ みなこ)先生に原発性腋窩多汗症と“汗っかき”の違い、受診の目安についてお話を伺いました。

原発性腋窩多汗症とは、内臓や神経系の病気など明らかな原因がないにもかかわらず、腋の下に日常生活に差し支える程の多量の汗をかく病気のことをいいます。

原発性腋窩多汗症の原因は不明ですが、家族内に同じような症状の方がいらっしゃる例も一部報告されており、遺伝子が発症に関連しているのではないかといわれています。専門家による調査が続けられていますが、基本的に誰でも発症する可能性があります。

原発性腋窩多汗症は、13歳以降、特に19歳くらいで自分が多汗であると自覚する方が多いことが分かっています。就職や進学をきっかけに社会生活や交友関係の範囲が広がっていく中で、「汗をたくさんかいて恥ずかしい」「ほかの人と違う」などと思い始めるのがその年齢のようです。ただし、症状は13歳頃からすでに現れているといわれています。男女比については、3対2程で男性の発症が多いことが明らかになっています。

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提供:PIXTA

手のひらや足の裏に多量の汗をかく掌蹠多汗症(しょうせきたかんしょう)と合併しているケースもみられます。当院の例をお話しすると、腋汗の症状で受診された患者さんの約3分の1が手汗の症状を合併しており、原発性腋窩多汗症の患者さんは掌蹠多汗症を合併しやすい傾向にあると思います。

原発性腋窩多汗症は、主に2つの要因で汗をかきやすくなることが分かっています。

1つ目は精神的な要因です。これは情動発汗といわれるもので、焦ったり緊張したりすると汗の量が増えます。

2つ目に気温の高さが挙げられます。1年中症状に悩まされている方が多いのですが、気温の上昇とともに症状が出やすくなります。当院では、5月頃、ゴールデンウイーク前後になると腋汗の症状で受診される方が増加する印象があります。

補足として、味覚の要因で辛い物など刺激のあるものを食べると発汗が増える味覚性発汗がありますが、こちらは主に顔面に発汗を生じます。

反対に、寝ているときは汗をかかないのが特徴です。原発性腋窩多汗症では、脳が興奮して局所の多汗を生じるといわれており、就寝中は大脳皮質が休んでいる状態なので発汗しないと考えられます。

当院にいらっしゃる患者さんの中には、院内に貼ってある原発性腋窩多汗症の治療薬のポスターを見て「治療できるんですか? ただの汗っかきだと思っていました」とおっしゃる方がいらっしゃいます。原発性腋窩多汗症と“汗っかき”の違いは判断が難しいところですが、患者さんご自身が“生活に差し支える”と捉えているかどうかがポイントになります。

診察室では必ずしも発汗量を測って判定するものではなく、症状は同じでも患者さんご自身が日常生活を送るうえで困っているのであれば病気と判断します。同じ汗の量でも「タオルで拭けば問題ないので、私は困っていません」という方は必ずしも治療の必要がないのかもしれません。

しかし、たとえば、冬でも汗が染みて大切な革ジャンやコートが駄目になってしまったり、毎日職場に着くと1回着替えなければならないくらい汗染みができたりして困っている場合には、治療の対象になるといってよいでしょう。ほかにも、腋汗が目立ってしまうので好きな色の服が着られなくて悩んでいる、といった理由で受診される方もいらっしゃいます。このように、多量の腋汗が生活に少しでも差し支えるのであれば治療の対象になります。

当院に、手足の湿疹で受診された患者さんがいらっしゃいました。「もしかして汗が多いということはありますか?」とお尋ねすると「汗っかきです」というので汗の量を伺ったところ、「滴るくらい」とのことでした。「それでしたら治療できますよ」とお伝えしたうえでいろいろと伺ってみると、手足の局所多汗症との診断がついた、というケースです。

また、にきびなどほかの症状で来院された方が「腋にすごく汗をかくんです。治療できますか?」といったように、腋汗について相談されるケースもあります。このような場合も、お話を詳しく伺ったうえで治療を行うか判断します。

洋服の腋の汗染みが気になる、というのが原発性腋窩多汗症を疑い受診する1つの目安といえます。自覚症状がなくても、衣類をクリーニング店に渡した際に腋の汗染みを指摘され「染み抜きをしますか?」と尋ねられて、初めて腋汗の量が多いことに気付くというのはよくある例だと思います。

また、汗が垂れてくるのが不快で腋汗パットや制汗剤を頻繁に使うような方もいらっしゃいます。腋汗パットや制汗剤を継続して買っているという方には、ぜひ受診していただきたいと思います。

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腋汗が気になる場合、一番よいのは皮膚科を受診することです。また、形成外科でも診断される可能性が高いようです。精神科や内科でも診断されるケースはあります。

原発性腋窩多汗症では、診断の際に使用される以下の6項目が定められています。

1)最初に症状がでるのが 25 歳以下であること
2)対称性に発汗がみられること
3)睡眠中は発汗が止まっていること
4)1 週間に 1 回以上多汗のエピソードがあること
5)家族歴がみられること
6)それらによって日常生活に支障をきたすこと

原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版より引用】

この6項目のうち2項目以上があてはまる状況が半年以上認められ、かつ原因となる病気がないときに原発性腋窩多汗症であると診断されます。問診さえできれば基本的に診断が可能ですので、受診当日に診断がつくケースがほとんどです。

診断時に区別すべき多汗の原因となる病気には、がん甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)などのホルモン異常、糖尿病、その他神経疾患などがあります。また、精神科で処方される薬やカフェインの取り過ぎも多汗の原因になることがありますので、原発性腋窩多汗症を診断するうえで区別すべき対象となります。

汗の出方が右の腋だけ多いといったように、左右で汗のかき方に差がある場合は典型的とはいえませんので血液検査や画像診断を行うこともあります。また、まれではありますが部分的な無汗症があり、それ以外の部位は多汗症という例もあります。25歳を過ぎている場合や、寝汗が多い場合、体重が減っている場合には、悪性疾患などほかの病気の可能性を考慮して総合病院に紹介して検査を受けてもらうケースもあります。

原発性腋窩多汗症の治療の目的は、QOL(生活の質)を下げないことです。原発性腋窩多汗症の患者さんは腋汗パットや制汗剤を購入する頻度が高いため、生活用品の費用がかかってしまうことがあります。また、多量の汗をかいてしまうことにより仕事がはかどらず、生産性においても損失があるといわれています。できれば汗をかかない、それが難しくても生活に差し支えないレベルまで汗を出さないようにするというのが1つの目標になります。

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治癒に近づけるためには、手術(交感神経遮断術)やマイクロ波メスによる焼灼術を行うのが根治療法になります。それ以外の治療法は基本的に汗の量を抑えるものになりますので、効果を保つためには基本的には生涯治療を継続する必要があります。

患者さんがお困りでなければ、経過観察になるケースもあります。以下のHDSS(Hyperhidrosis disease severity scale:多汗症疾患重症度評価度)という重症度分類に照らして、重症ではなく患者さんご本人も発汗が気にならない場合には、治療しないと判断するケースもあります。

自覚症状により

①発汗は全く気にならず,日常生活に全く支障がない.
②発汗は我慢できるが,日常生活に時々支障がある.
③発汗はほとんど我慢できず,日常生活に頻繁に支障がある.
④発汗は我慢できず,日常生活に常に支障がある.

の重症度に分類し,③,④を重症の指標にしている.
原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版より引用】

原発性腋窩多汗症の治療法には、主に以下の選択肢があります。

塩化アルミニウム溶液による治療

塩化アルミニウム溶液を患部に塗る方法です。汗を分泌する汗管に作用して、汗の出口を塞ぐはたらきがあります。自費診療となり、1回につき診察代を含めて1,000〜1,500円(税込)程の費用がかかります。

多くの方に効果が期待できる治療法ですが、皮膚炎が起こりやすいというデメリットがあります。皮膚炎が現れた場合には1日おきに塗布する、薄めて使用するなど工夫しながら継続して治療を行います。

抗コリン薬による治療

2020年と2022年に発売された2種類の抗コリン薬の塗り薬は、交感神経をブロックすることで汗を抑える効果があります。1日1回塗るだけで長期間使用できる点が特徴です。

寝る前の汗をかいていない状態の時に塗っていただくと、汗で流れないので効果が長持ちします。個人差はありますが、24時間効果が継続するというのは大きなメリットだと思います。ただし、閉塞隅角緑内障(へいそくぐうかくりょくないしょう)*と前立腺肥大*がある患者さんには使用できないというデメリットがあります。また、軽いかゆみを伴う湿疹が出ることもありますが、通常は継続可能な範囲であることが多いです。なお、塗り薬で効果が不十分な方には、飲み薬の抗コリン薬をおすすめすることもありますが眠気、口渇(口の渇き)、便秘、複視といった副作用が出やすいため注意が必要です。

*閉塞隅角緑内障:目の周りの隅角が狭くなり、眼圧が上昇して起こる緑内障
*前立腺肥大:中高齢男性にみられる進行性の病気で、前立腺腫大によって尿路機能障害などを伴う。

マイクロ波メスによる治療

電子レンジにも使用されている電磁波(マイクロ波)で、汗を分泌する器官であるエクリン腺とアポクリン腺の両方を破壊する治療法です。自費診療なので20〜30万円(税込)程の費用がかかりますが、傷をつけずに汗腺のみを半永久的に破壊することができるので長期間の効果が期待できます。しかし、時に汗腺が再生し追加治療が必要になることがあります。

治療の副作用として、腋の下の腫れ・赤みや痛み、腋や腕の一時的な感覚の変化(数か月持続することがある)や内出血、治療箇所の皮膚の凹凸感、毛嚢炎(もうのうえん)などの感染症などが報告されています。また、極めてまれですが神経障害の報告もあります。

A型ボツリヌス毒素製剤の局所注射

A型ボツリヌス毒素製剤を局所注射し、神経から汗腺への指示が伝わるのを阻害する治療法で腋窩では約4〜6か月ほど効果を保つことができます。

前述の重症度を判定するHDSSで3以上の重症度であれば保険診療で治療できますが、3割負担で約25,000円の費用がかかります。重症度が2以下の場合は自由診療になりますが、医療機関によって費用はさまざまです。保険診療と同様かより安価な場合もありますし、10万円以上かかるケースもあるのが実情です。

1回注射すれば効果が切れる4〜6か月後まで治療の必要がないことが大きなメリットといえるでしょう。このメリットを生かして、発汗の量が増える夏ごとに受診される患者さんもいますし、1年中快適に過ごすために年に2回受診される患者さんもいます。どちらにせよ頻繁に受診する必要はありません。ただし個人差もありますので、効果が切れてきたときに抗コリン薬の塗り薬を併用するケースもあります。

注射後、まれに注射部位の痛みや赤み、腫れ、上半身のだるさ、腋以外の部位で汗が増えたなどの副作用が現れることがあります。多くは一時的なものですが、程度が強いなど気になる場合には医師に相談してください。

治療中の受診の頻度

当院では、治療の効果を確認するために初診から2週間後に1度受診をおすすめしています。抗コリン薬の塗り薬は1か月毎日塗り続けたほうが効果が上がるというデータがありますので、初回は約1か月以内、安定したら1〜2か月ごとに受診していただくという流れです。

治療中に患者さんが注意すべきこと

抗コリン薬は、塗り薬・飲み薬ともに“抗コリン作用”による副作用が発現する恐れがありますので注意してほしいと思います。飲み薬だけでなく、ごくまれに塗り薬でも、物が二重に見えてしまう複視や、口渇(口の渇き)、便秘、眠気といった副作用が現れる患者さんもいらっしゃいます。塗り薬を使用した後は目に入らないように、しっかり手を洗うことが重要です。また抗コリン薬の塗り薬を使用する場合、剃毛直後や傷があるときなどは湿疹が起こりやすくなりますので、腋の毛を剃った日や傷がある部位には塗らないようにしてください。

最近は治療の選択肢がさらに増えました。これをきっかけに、よりいっそう原発性腋窩多汗症の啓発が進み「汗っかきだと思っていたけど病気だった」と気付く方が増えればいいなと思っています。

腋に多量の汗をかく場合、「ただの汗っかきだから」と諦めずに病院を受診していただくと、自分が思っている以上に快適に過ごせる可能性があります。洋服の汗染みが気になる場合や、腋汗パットや制汗剤を頻繁に購入している場合には、病院で相談していただくと楽になる可能性もありますし、費用も抑えられるのではないかなと感じることがあります。少しでも腋汗に関するお悩みがあれば、ぜひ受診していただきたいと思います。腋汗で悩んでいる皆さんの生活の質が少しでも改善されるようお手伝いできたらと考えていますので、気軽に受診してください。

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