げんぱつせいえきかたかんしょう

原発性腋窩多汗症

最終更新日:
2021年01月12日
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2021/01/12
更新しました
2020/06/12
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概要

原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)とは、汗の分泌が促される病気や状況がないにもかかわらず、腋窩((わき)の下)に多くの汗をかく病気のことです。日本人の約数%が発症しているとされており、決して珍しい病気ではありません。

発症には遺伝が関与しているとの説がありますが、はっきりした原因は分かっていないのが現状です。また、腋の下は交感神経のはたらきによって汗の分泌が促される性質を持つため、精神的なストレスや緊張感が高まると発症しやすくなると考えられています。

原発性腋窩多汗症は、“腋の下に多くの汗をかく”という症状以外、皮膚にかゆみや痛みなどの不快な症状を引き起こすことはありません。しかし、腋の下には水と塩分からなる汗を分泌するエクリン腺とは別に、皮脂などが混ざった汗を分泌するアポクリン腺も分布しています。アポクリン腺の汗は悪臭を放つことがあります。また、衣類に汗のシミができるなど社会生活を送るうえで妨げになるような症状を伴いやすく、重症な場合には人前に出ることに抵抗を感じるなど社会生活に支障をきたすことがあります。

原因

現時点では、原発性腋窩多汗症の発症メカニズムは、はっきりとは解明されていません(2020年12月時点)。一方で、原発性腋窩多汗症は同じ家系の人に発症しやすいことから、遺伝との関連が指摘されています。

また、腋の下では気温や体温が上昇したときに体温調節を行うために汗の分泌が促されるほか、ストレスや緊張感などを覚えたときに自律神経のはたらきによって汗の分泌が促される傾向があることも分かっています。そのため、原発性腋窩多汗症は精神的なストレスなどを感じやすい人が発症するケースが多く、特に不安症(不安障害)や対人恐怖症などの病気に併発しやすいとの報告も少なくありません。

症状

原発性腋窩多汗症を発症すると、ストレスや緊張感を覚えるといった交感神経が過敏にはたらくときなどに、腋の下に大量の汗が分泌されるようになります。汗は左右両方の腋の下から分泌され、衣類に大きな汗のシミができることも少なくありません。

また、腋の下には皮脂などを含んだ汗を分泌するアポクリン腺が多く分布しており、皮膚や毛穴に潜んでいる細菌に分解されて強い悪臭を放つようになります。これは腋臭症ワキガ)といわれる病気であり、エクリン腺の汗で生じる多汗症とは別の病気です。また、2つの病気が併存することもあり、多汗による湿潤で細菌が増殖しやすくなると臭いが悪化する傾向があります。

そのほか、原発性腋窩多汗症は、手のひらや足の裏に多くの汗をかく“掌蹠多汗症”を併発しているケースが多く、社会生活のうえでさまざまな苦痛を伴いやすいのが特徴です。

検査・診断

原発性腋窩多汗症は通常の病気のように血液検査や画像検査などで診断を下すことはできません。多くの汗が分泌されることによる生活への支障、汗のかき方などを医師が詳しく問診したうえで診断が下されます。

なお、日本皮膚科学会が発行する“原発性局所多汗症診療ガイドライン(2015年改訂版)”の診断基準によれば、腋の下の多汗が6か月以上続いていることに加えて

  • 発症が25歳以下である
  • 左右対称の発汗が見られる
  • 睡眠中は発汗が止まっている
  • 1回/週以上の多汗のエピソードがある
  • 家族歴が見られる
  • それらにより日常生活に支障をきたす

という6つの項目のうち、2つ以上に当てはまる場合を原発性腋窩多汗症としています。

治療

原発性腋窩多汗症の治療方法は重症度によって大きく異なります。

比較的軽度な場合は、汗管を閉塞させるはたらきのある塩化アルミニウムが含まれた溶液を腋に塗る薬物療法が行われていましたが、塩化アルミニウム溶液を処方する場合は各医療機関が独自に調合する“院内製剤”の扱いになり、薬自体は健康保険適用外でした。しかし2020年11月に日本で初めて健康保険が適用される抗コリン薬外用剤が使用できるようになりました。今後はこのような外用薬による治療法が第一選択になっていくと考えられますが、外用薬物療法のみでは改善しない場合は、汗腺のはたらきを低下させるボツリヌス毒素を腋の下の皮膚に直接注射するという局所注射治療が行われることもあります。この治療も2012年より保険適用です。さらにこれらの一般的な治療で十分な効果が出ない場合は、汗腺を減らす治療が行われます。

特殊な方法としては、腋に汗を分泌するよう指令を伝えている胸部の交感神経を切断する手術があります。

腋臭症の場合は、手術治療で皮下に存在するアポクリン腺をほとんど取ることができ、十分な治療効果が得られます。しかし、エクリン腺は主に皮内の真皮に存在するので、手術でその部位まで到達することは難しく、皮膚へのリスクも伴います。このことから、原発性腋窩多汗症に対して同じような手術をしても効果が上がりません。

また、腋窩多汗症では、マイクロ波やラジオ波(いずれも電磁波の1種)を使って汗腺を減らすのが効果的です。ラジオ波を用いる場合は、腋窩の皮内~皮下にごく細い針を刺し、皮膚の内側から照射することで汗腺を破壊します。一方、マイクロ波を用いる場合は皮膚の表面からマイクロ波を照射することによって真皮深層~皮下組織に熱を発生させ、汗腺を焼却・凝固します。電磁波治療では、熱の発生部位が皮下のみならず真皮まで到達するため、エクリン汗腺への効果も期待できると考えられています。

なお電磁波治療は自費診療であり、費用は各医療機関の設定金額によって異なります。

また、精神的な要因が発症に大きく関与しているケースでは、それらを落ち着かせるための抗不安薬などによる内服薬物療法やカウンセリングなどを行う精神療法が効果的とされています。

最新トピックス

塩化アルミニウム溶液が保険適用外であることに加え、昔から保険適用が認められていた原発性腋窩多汗症の治療法はいずれも一般の皮膚科で気軽に導入できるものではなく、皮膚科医にとって原発性腋窩多汗症は手を出しにくい領域だったと思います。しかし2010年ごろから2020年現在にかけてボツリヌス菌毒素製剤の局所注射や抗コリン薬外用剤など、原発性腋窩多汗症に対するさまざまな治療が保険下で行えるようになってきました。このことは大きな変化です。

特に、2020年に保険適用下で使える外用薬が出たことは非常に画期的な変化であり、多くの皮膚科医が関心を抱いています。今後は標準的な治療の流れも変わっていくのではないかと思います。

同じ保険適用下の治療でも、外用薬の塗布と両腋への注射では、医療機関の負担も患者さんにかかる負担もまったく違います。これまで全国どこの医療機関でも原発性腋窩多汗症の治療が受けられるわけではありませんでしたが、今後は原発性腋窩多汗症の治療を積極的に行う保険医療機関が加速度的に増加するでしょう。

また、本邦における原発性腋窩多汗症の有病率は人口の約5.7%と考えられている一方、原発性多汗症患者さん全体の医療機関への受診率は6.3%であり、約48%が市販のデオドラント剤を使って対処していることが分かっています。つまり、未受診・未治療である潜在的な患者さんはとても多いという計算になります。保険下で治療が受けられるとなれば受診へのハードルが下がりますから、今後はさらに多くの患者さんが医療機関を受診することが予測されます。

そういった点では、原発性腋窩多汗症の診療のあり方自体が大きく変わる可能性があるといえるでしょう。今回の変化により、より多くの腋の多汗に悩む患者さんに治療が届けられるようになることが期待されます。

予防

原発性腋窩多汗症は明確な発症メカニズムが解明されていないため、完全な予防策はないのが現状です。

一方で、腋の下の汗は精神的な興奮の高ぶりによって分泌が促されやすいため、緊張感の強い場面を避ける、ストレスをためない生活を心掛けるといった対策を講じることで症状を和らげることができることもあります。

また、汗のシミなどが気になって社会生活に苦痛を感じるような場合は、腋の下用のパッドを使用するなどの対策も有用です。

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