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ゲノム医療を用い、新たながん治療の開発を進める-国立がん研究センター理...
医療は日進月歩のスピードで発展しており、がん治療後の生存率も数十年前とは比較にならないほど向上しました。しかし、依然としてがんは日本人の死亡原因1位を占めており、そのなかには治療法が確立されてい...
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ゲノム医療を用い、新たながん治療の開発を進める-国立がん研究センター理事長としての志

公開日 2017 年 02 月 26 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

ゲノム医療を用い、新たながん治療の開発を進める-国立がん研究センター理事長としての志
中釜 斉 先生

国立がん研究センター 理事長

中釜 斉 先生

医療は日進月歩のスピードで発展しており、がん治療後の生存率も数十年前とは比較にならないほど向上しました。しかし、依然としてがんは日本人の死亡原因1位を占めており、そのなかには治療法が確立されていないがんも存在します。昨年2016年に国立がん研究センターの理事長に就任された中釜斉先生は、ゲノム医療が、がんの新たな治療を開発するカギになるとおっしゃいます。がん患者を取り巻く様々な問題の解決手段と、日本のがん医療の質を向上させるための国立がん研究センターの先進的な取り組みについて、中釜先生にお話しいただきました。

国立がん研究センターの特徴と役割

あらゆる病気の治療が生まれるまでには、(1)まず科学的に病気の問題点が抽出され、(2)その問題点が解決され、(3)そして臨床応用されていくという一連の流れがあります。つまり、医療全体は、研究的な部分、開発的な部分、そして実際に現場で用いる部分の3つに大別することができるのです。

国立がん研究センターは研究・開発・臨床の全てを扱う

通常この3つは異なる施設で行われていますが、国立がん研究センターは研究所、各種の研究及び開発センター、病院を持っており、更にこれら全てに関する情報を発信する組織も有しています。そのため、当センターの使命は、がん医療を網羅する多岐的なものとなっています。

近年では、がんの予防と治療後のサポートにもニーズが集まるようになりました。がんが治癒した後、患者さんが社会のなかで自分らしく生きていけるよう橋渡しすることも、当センターに求められる重要な役割です。

橋渡し

日本全国で使えるがん患者支援の仕組みづくり

病気のみと向き合うのではなく、広い枠組みでがんを捉える

がんの告知を受けた患者さんは、精神的な不安や生活への影響など、様々な問題に直面します。そのため、国立がん研究センターの職員には、がんをより広い枠組みで捉え、患者さんを取り巻くあらゆる問題の対策を講じていく姿勢が求められます。

罹患する前から治療後までをひとつの流れとして考え、社会はがん患者さんに対してどのように対応していくことが最適かを検証し、全国で応用できる仕組みをつくることが、現在私たちが取り組むべき任務のひとつであると考えます。

がん医療の均てん化と政策提言

がん対策基本法が施行された10年前には、治療や情報に地域格差があり、これらの均てん化が求められていました。これから必要とされるのは、「苦痛の緩和の均てん化」「副作用の軽減の均てん化」、そして「社会復帰した後の方法論の均てん化」です。

国立がん研究センターは、がんを専門に扱う日本で唯一の国立研究開発法人です。したがって、これらを内部完結的に行うのではなく、政策に繋げられるよう提言していくことも、重要な使命であると考えています。

臓器ごとの縦割り診療から、ゲノム医療を用いた横断的な診療へ

DNAの二重らせん

前項までに述べてきた役割を全てカバーしたうえで、更に一歩進んで、ゲノム医療をがん医療に導入するための取り組みも精力的に行っていくつもりです。

これまでは、肺がんや胃がんというように、臓器ごとにがんを縦割りで捉える医療が行われていました。しかし、今後は世界中でゲノムという視点からがんを捉える横断的な医療が展開されていくことでしょう。

ゲノム医療の導入により、「このがんにはこの薬」ではなく、「この患者さんにはこの薬」というように、より効果的で副作用の少ない治療を、個別的に提供できる可能性が期待されています。

希少がん・難治性がんの研究を進める

ゲノム医療と並行して進めていくべきは、今回の改正がん対策基本法にも盛り込まれた希少がんと、効果的な治療法が確立されていない難治性がんの研究です。

これまで、肉腫や小児がんなどの希少がんは、研究を進めるための症例が集まらないといった問題があり、研究者レベルで各々の症例を持ち合い検討するという規模にとどまっていました。そのため、ニーズに応じた医療を提供することもスムーズにはなされず、薬の開発も進まないという問題が生じていました。

希少がんの薬の開発には、症例が少ない疾患ならではの難しさがあります。

薬の効果を検証するためには、通常1か所に患者さんを集め、薬剤投与群と非投与群などのグループにわけて比較試験を行わねばなりません。しかし、年間発生率が人口10万人あたり6例未満と定義される希少がんの場合は、そもそもの患者数が少ないため、全国に張り巡らされた広いネットワークを持っていなければ試験を行うことすらできないのです。

また、民間の製薬企業は収益を上げなければ生き残っていけませんが、数の少ない疾患を対象とした薬の開発には、コストを回収できないというリスクも伴います。

だからこそ、国立の施設であるが国立がん研究センターが、希少がんの治療開発を主導していかねばならないのです。

希少がん開発の困難希少がんセンターが開設されたことで、情報の集約化が可能に

希少がんの研究に関する取り組みは既に始まっており、2014年6月には希少がんセンターが開設されています。

希少がんホットラインの電話窓口には、最近では毎月500件の問い合わせが来ており、開設時からのトータル件数は約8,000件にものぼっています。

希少疾患の情報が集約され、患者さんもどの病院にいけばよいのか迷うことなく受診できるようになったという点では、希少がんセンターは既に大きな意義を果たしているといえます。

しかしながら、現時点では患者さんが来院されたとき、既に確立されている治療しか施すことができません。治療法が開発されていない疾患もあり、これは希少がん克服の大きな壁となっていました。

希少がん治療にもゲノム医療を活用できる可能性

これまで困難を極めていた希少がんの新規治療法開発にも、今後はゲノム医療が活用できるのではないかと考えています。

希少がんであれ患者数の多いがんであれ、ゲノムという切り口からみると、その疾患は個別的な取り扱いになります。また、臨床研究においても、ゲノムという視点から、治療薬が有効な群とそうでない群にわけることが可能となります。

希少がんセンターが開設され、全国的なネットワークができあがった今、国立がん研究センターは、ゲノムをキーワードとして治療開発を進めていくという、次なるステップへと歩を進めています。

次なるステップへ

がんの新規治療開発-支持療法・緩和療法にもエビデンスを

国立がん研究センターの特徴は、全国的なネットワークの「中心(ハブ)」となる役割が期待されているということです。がん医療に関わる施設を牽引する形で、新規治療法の開発などに取り組む義務があります。

現在、がんの内科的治療として様々な分子標的治療薬の開発が進められていますが、より侵襲の少ない新たな手技を開発するなど、外科的な治療(手術)の改良にも目を向けていくべきでしょう。

また、がんそのものを除去するための治療だけでなく、支持療法や緩和療法においても、どのような手法がベストなのか、科学的に証明していく必要があります。

  • 支持療法とは:抗がん剤治療など、病気の治療による副作用・合併症・後遺症を軽減させるために行われる治療。「サポーティブケア」とも呼ばれる。
  • 緩和療法とは:深刻な疾患に直面した患者さん及びその家族のQOLを向上させる治療と定義される。病気及び治療による身体的、心理的、社会的な苦痛を緩和せせるための治療。「パリアティブケア」とも呼ばれる。

患者サポート研究開発センターを病院内に開設

精神的なサポートについても、民間療法とは異なりますから、「治療Aと治療Bには有意差があり、Aのほうがよりよい」というように科学的な根拠を証明し、提唱していくことが求められます。

雑誌やインターネットなどで、「なんとなくよくなった気がする」と話題になり、推奨されている治療は多々ありますが、私たちはそのなかからエビデンスを見出し、医学的にすすめられるものを選んで推奨していかねばならないと考えています。

治療前からの介入は予後や患者満足度に影響するのか?科学的な検証が必要

退院する患者さんを見送る医師

支持療法や緩和療法の有効性を検証するため、昨年2016年9月には国立がん研究センター中央病院8階に患者サポート研究開発センターを開設し、治療開始前から介入を行っています。

また、治療が終わり、社会復帰される段階で生じる患者さんの様々な心配事をどのようにサポートできるか、という点にも重きを置いて患者さんと向き合っています。

このように、国立がん研究センターの病院には、患者さんが受診された初期段階から、治療終了後までを一貫して支援するための仕組みがあります。

今後は、このような取り組みが患者さんの予後や患者満足度にどう影響するのかを検証していくことも、積極的に行っていく所存です。検証により全国で用いることのできるプロトコールを作ることができれば、日本のがん医療の質を底上げできるものと考えます。

がんサバイバーシップ支援-社会全体で取り組むべき理由

がん告知後の離職率は3割にものぼる

退職届

がんサバイバーシップ支援は、国立がん研究センターだけでなく、社会全体が意識を高く持って取り組まねばない重要な課題です。

がんには重篤なものから1回の手術で治るものまで様々ありますが、たとえ最終的に死に至るほど進行したがんだとしても、多くの場合、全身状態が非常に悪くなるのは亡くなる前の短い期間のことが多いのです。

実際に、当院で治療を受けられていた患者さんの中にも、最期を迎える間近まで、精力的に社会で活躍されていらした方はたくさんおられます。

また、治療法も次々と登場し、がん治療後の5年生存率は6割にものぼっています。

ところが、「がんと診断された段階での離職率」は、日本では3割と非常に高い割合を示しています。これは患者さんにとっても、社会にとっても非常に勿体無いことです。

しかしながら、治療に協力したいという思いはあっても、数か月間入院せねばならない従業員をサポートできるだけの企業体力がない会社も多々あります。

こういった現状からもわかるように、がんサバイバーシップ支援とは、企業単位のみで解決できる問題ではありません。

全体でどの程度のコストがかかるのかを割り出し、持てる資源のなかで最良の支援とはどのようなものか、国を挙げて検証していくべき時が来ています。

日本にとどまらず世界のリーダーとしてよりよいがん医療を発信していきたい

地球儀

治療後の生存率が大きく向上したとはいえ、依然としてがんは難しい疾患です。今後も国立がん研究センターは、国民の声にしっかりと耳を傾け、予防段階から、研究開発、臨床研究、社会問題解決まで、包括的かつ総合的にがん対策を進めていきます。

また、日本にとどまらず、世界のリーダーとして、よりよいがん医療を提唱していくことも、私たちの大きな目標のひとつです。

高齢化社会にフィットするがん医療の在り方を提唱する

日本では現在急速に高齢化が進んでいますが、韓国や中国など東アジアの国々にも、我が国にやや遅れて高齢化の波が到達するといわれています。

そのため、日本は世界に先駆けて「高齢化社会において最適ながん医療提供体制」を作り上げ、提案や指導をしていくこともできるのではないかと考えます。

国民皆保険制度というメリットのある国として

また、国立がん研究センターが進めようとしているゲノム医療などは、既に欧米が先行していますが、国民皆保険制度のない国家では、新たな医療を全ての患者さんが容易に享受することはできません。

一方、国民皆保険制度という大きなメリットを持つ日本には、標準的な医療を国全体にすばやく広げられる素地があります。「国民誰しもが享受できるような医療を提供する」という点においてリーダーシップをとることができるのは日本であり、がん医療領域でその役割または先導役を果たすのは国立がん研究センターだと考えます。

もちろん、これは非常に高い目標であり、ときに批判的なご意見をいただくこともあるかと思われます。しかし、当センターの職員は皆、世界のがん医療を牽引していかんとする高い志と、医療者としての強い覚悟を持って職務にあたっており、決して実現不可能な目標ではないと考えます。

 

がん医療情報(中釜斉先生)の連載記事

日本のがん医療・がん研究を牽引する国立がん研究センターにて理事長を務める。改正がん基本法に盛り込まれた全国がん登録事業や希少がん・難治性がんの研究事業などを先陣に立って進めている。ゲノム医療を用いたがんの新規治療開発の推進に注力するほか、患者さんの精神的な不安や治療後の社会復帰に係る問題の解消などにも目を向け、総合的ながん医療の提供と向上を目指している。