インタビュー

CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)の進行を防ぐために−脳梗塞の発症を予防

CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)の進行を防ぐために−脳梗塞の発症を予防
水野 敏樹 先生

京都府立医科大学 神経内科学 教授

水野 敏樹 先生

この記事の最終更新は2017年08月30日です。

CADASILはメカニズムや治療法など、未だ解明されていない点が多い疾患ですが、脳梗塞の発症を予防することで、症状の発現なく日常生活を送ることが可能であり予後も良好です。今回は記事1に引き続き、京都府立医科大学神経内科の教授である水野敏樹先生にCADASILで脳梗塞を防ぐためのリスクの除外方法や治療薬についてお話を伺いました。

※CADASILのメカニズムや症状については記事1『CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)とは?発症メカニズムや症状について』をご覧ください。

記事1『CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)とは?発症メカニズムや症状について』でもお伝えしましたが、CADASILの特徴は若年から発症する脳梗塞ですが、脳梗塞の発症を予防することができれば、それに引き続く随伴症状を防ぐこともできるので予後は決して悪くありません。

確かに、CADASILの患者さんは一般の方に比べて、脳の細い血管が脳梗塞を起こしやすい状態ではあるのですが、皆さんが若い年代で脳梗塞を発症するのかというと決してそうではありません。

私たちは70〜80歳の高齢になると、多くの方は血管の老化とともに動脈硬化が進行します。しかし、動脈硬化があるからといって、誰しもが心筋梗塞や脳梗塞を発症するわけではありません。

動脈硬化に加えて、血管が詰まったり固まりやすかったりする要因を持っていることで発症してしまうのです。その要因には以下の3つがあるといわれています。

  1. 動脈硬化などで血管壁が硬くなったり、細くなっている状態
  2. 糖尿病や凝固活性の亢進などで、血管内で血液中の成分が固まりやすい状態や固まった塞栓物が流れている状態
  3. 血圧の変化により血管内の圧力が不十分

これらが複数重なり合うことで、脳梗塞は引き起こされるのですが、CADASILの患者さんにも同じことがいえます。特に高血圧喫煙のような動脈硬化を促進する要因が重なると脳梗塞が発症しやすくなります。

実際に英国の研究データーでは、タバコの喫煙本数がCADASILの患者さんの発症に影響を及ぼしているという結果が発表されています。

ですからCADASILの患者さんもこれらの脳梗塞の発症リスクを除外して、脳梗塞発症を予防することが大切です。

薬

一般的には通常の脳梗塞の患者さんに処方されるものと同じ抗血小板薬(血小板血栓の生成を防ぎ、血をサラサラにする薬)がCADASILの患者さんの脳梗塞の発症予防にも処方されます。

代表的な抗血小板薬は以下の3種類です。

  • アスピリン
  • シロスタゾール
  • クロピドグレル

この3種類のどれがCADASILに対して最も効果的であるかはわかっていません。

しかしCADASILでは脳梗塞のみならず、まれに脳出血を発症する患者さんもいるため、出血のリスクが比較的低いといわれているシロスタゾールが処方されることが多いのではないかと考えます。

ただしシロスタゾールには、若年の方を中心に動悸や頻脈、顔の火照り(ほてり)などの副作用が出ることもあるので処方が難しい患者さんもいます。

前述の抗血小板薬ですが、ある程度脳梗塞の発症を防ぐことは可能なのですが、残念ながらその効果はあまり強くありません。

私たちが脳梗塞の発症により効果的であると考えている薬剤が、片頭痛を予防する薬として使用されている塩酸ロメリジンです。

片頭痛は血管がぎゅっと収縮したあとに、拡張してしまうことで起こる痛みです。この塩酸ロメリジンには血管を常に拡張させておく作用があり、血管の収縮と拡張による片頭痛を抑える効果があります。

また、塩酸ロメリジンは脳の血管だけを特異的に拡張させるため、全身の血管拡張による血圧低下の心配もなく、CADASILに対しても合理的で使いやすい薬剤です。

副作用も少なく、多くの片頭痛の患者さんに日常的に使用されている安全性の高い点も特徴です。

実際にこの塩酸ロメリジンを、64歳で脳梗塞を発症したCADASILの患者さんに服用していただいたところ、服用後から脳梗塞の随伴症状である運動機能障害やうつ症状が速やかに改善しました。また、その後5年以上経過しても脳梗塞を発症することなく、日常生活を送ることができたのです。

この患者さんの結果を受けて、京都府立医科大学では約20例で塩酸ロメリジンの効果について比較・検討を行っています。

水野敏樹先生

先述したような抗血小板薬や片頭痛予防薬の塩酸ロメリジンは、あくまでも脳梗塞の発症を予防するためであって、CADASILの根本的な治療ではありません。

CADASILはNOTCH3断片が蓄積することで脳にあらゆる障害をもたらす疾患です。私たち京都府立医科大学では、NOTCH3断片の蓄積を防ぐ根本治療が可能となるような治療薬の開発を目指し、日々試行錯誤をしながら研究を行っています。

私が日々の診察やCADASIL患者さんの会などで、いつもお伝えしていることは、とにかく脳の白質病変や片頭痛が起きた段階で、脳梗塞の予防をしましょうということです。CADASILは脳梗塞の予防さえすれば、体の麻痺や認知症も起こさずに日常生活を送ることが可能です。

また、CADASILと診断されたからといってあまり怖がりすぎることもありません。記事1『CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)とは?発症メカニズムや症状について』でお伝えしたように、患者さんのなかには70歳を過ぎても脳梗塞を発症することなく元気に生活をされている方もいます。

患者さん一人一人に頑張っていただく必要はありますが、先述のような脳梗塞発症リスクを除外するなどして脳梗塞の予防に努めましょう。

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