インタビュー

MELAS(メラス)の原因と症状-脳卒中様発作を特徴とするミトコンドリア病

MELAS(メラス)の原因と症状-脳卒中様発作を特徴とするミトコンドリア病
古賀 靖敏 先生

久留米大学医学部小児科学教室・教授

古賀 靖敏 先生

私たちが生きていくために必要なエネルギーは、細胞のなかのミトコンドリアで絶えず作られています。ミトコンドリア病のひとつであるMELAS(メラス)とは、ミトコンドリア内のDNA変異により脳卒中様発作が起こる難病です。これまで有効な治療が存在せず、予後の悪い病気として認識されてきたMELASの患者さんを救うため、久留米大学医学部小児科教授の古賀靖敏先生は世界初となるコホート研究や全国規模の疫学調査研究を実施されています。これらの研究により明らかになった小児型MELASと成人型MELASの症状や重症度の違いについて、古賀先生にご解説いただきました。

MELAS(メラス)とは?ミトコンドリア病のうち最も頻度が高い病気

ミトコンドリア病とは-エネルギー不全により多様な症状が現れる

ミトコンドリア

細胞のなかには、人間が生きていくために必要なエネルギーを作り出す小器官、ミトコンドリアが存在しています。食べ物から摂り込んだ炭水化物やタンパク質などの栄養は、腸管で消化・吸収され、最終的にミトコンドリアのなかでATPと呼ばれるエネルギーに変換されます。

ミトコンドリア病とは、細胞内のミトコンドリアが何らかの原因により正常に機能せずATP合成を行えないために起こる多様な病気の総称です。

MELASの特徴-脳卒中様発作を起こす

MELAS(メラス※)とは、ミトコンドリア病のサブタイプなかでも、最も頻度が高い病気です。全国的な調査の結果からは、全ミトコンドリア病のうち約30~40%をMELASが占めていることがわかっています。脳卒中様発作を中心的な症状とし、そのほか、全身のさまざまな臓器で、患者さんごとに異なる多様な症状を呈することを特徴としています。

※Mitochondrial myopathy, Encephalopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like episodes(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群)の略称。MELAS(メラス)

と呼ぶことが一般的。

MELASの好発年齢と予後-発症年齢により2つのカテゴリにわけられる

世界初のコホート研究から明らかになったMELASの実態

MELASの実態
コホート研究における日本人のMELASの発症年齢 資料提供:古賀靖敏先生

私たちの研究チームは、2003年から2008年の5年間にわたり、日本におけるMELASのコホート研究を実施しました。世界初となったこのコホート研究により、MELASの発症年齢には2つのピークがあることが明らかになりました。

ひとつめのピークは16~17歳、もうひとつのピークは32歳であり、それぞれに重症度も予後も異なることが判明しました。頻度の高い前者の小児型MELASは、より重症で、発症後平均6年ほどで亡くなられていました。(平均死亡年齢15.0歳)後者の成人型MELASは、小児型に比較すると軽症ではあるものの、慢性進行形の重症疾患であることには変わりなく、発症後平均10年ほどで亡くなっています。(平均死亡年齢40歳)

参照:MELAS: a nationwide prospective cohort study of 96 patients in Japan.  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21443929

このような状況を打破すべく、私たちは世界に先駆けて治療開発を進めており、現在予後改善の手応えを得るところまで到達しています。MELASの治療については、記事2『MELASは遺伝する病気?リスク因子とL-アルギニンを用いた治療の確立に向けて』をご覧ください。

MELASの代表的な原因-A3243G変異と呼ばれる遺伝子変異

MELASには複数の原因遺伝子変異がありますが、うち約8割は、ミトコンドリアDNAの3243番目の塩基がAからGに置き換わる「A3243G変異」が占めています。

国立精神・神経医療研究センターの後藤雄一博士が発見、1990年に”Nature”に報告。

なぜMELASは小児型と成人型にわかれるのか?

MELASが小児型と成人型にわかれる理由は、この原因遺伝子異常の変異率に差があるためです。私たちが行った解析では、小児型MELASのA3243Gの平均変異率は75%、成人型MELASでは約60%という結果が示され、双方の間には約15%もの変異率の差があることがわかりました。

小児型MELASの発症年齢の早さや重症度は、この変異率の高さに由来しているものと考えられます。

日本におけるMELASの患者数

全国的な調査を行い、より正確性の高い患者数が明らかに

私たちは2011年に日本で初めてとなるMELASの全国的な調査研究を行いました。約2500の小児科及び神経内科施設を対象にアンケート調査を実施したところ、日本におけるミトコンドリア病の患者数は741例、そのうちMELASの患者数は233例であることがわかりました。全233例のうち、小児型は111例、成人型は122例です。

なお、この調査で示された患者数はdisease-based population(実際に疾患を発症した人の頻度解析)により出された数値であり、世界でよく使用されているpopulation-based(遺伝的素因を持った人の全人口に占める割合/素因頻度))に基づく患者数の10分の1ほどとなっています。

741例という本調査による数値は、disease-basedによって示された患者数であるため、より正確な数値と考えられます。

MELASに男女差や人種差はない

上記は日本における患者数ですが、MELASには人種差はありません。A3243G変異などの原因遺伝子異常は、人種を問わず人間が存在するところでは、ある一定の頻度で起こる変異です。また、同様に男女差もありません。

MELASの自然歴-脳卒中様発作が現れるまでの経過

MELASの症状の現れ方は、小児型と成人型で異なります。以下は小児型MELASの自然歴(推移)のイメージです。

必ずしも下記イメージと同じ経過を辿るわけではありません。

【3歳】

軽度運動発達遅滞

やせ

吐きやすい

【8歳】

学業成績の低下

低身長

不登校

片頭痛

【12歳】

反復性半身けいれん

反復性嘔吐

閃輝暗点

片頭痛

MELAS 自然歴
MELASの自然歴 資料提供:古賀靖敏先生

MELASと診断がつくのは脳卒中様発作が現れてから

ただし、上記のような症状が現れていてもMELASと診断されるわけではありません。上述のイメージのように、症状は徐々に重症化していき、12歳頃になるとMELASの中心症状である脳卒中様発作を起こすようになります。

仮に3歳から嘔吐などの症状があったとしても、MELASとして診断がつけられるのは、この場合初回の脳卒中様発作が現れた12歳となります。

ただし、ご家族のなかにMELASと診断されている患者さんがいる場合は、早期に診断をつけられることもあります。

小児型MELASの症状-低身長や発育・発達障害など

小児型MELASのなかでも非常に頻度が高い症状は、低身長や発育・発達障害です。

また、患者さんのうち5人に1人ほどの割合で精神発達遅滞がみられますが、多くの小児患者さんは症状が軽いうちは通常学級に通い、症状の進行に応じて特別支援学級などに転籍されています。

なお、成人型に多い難聴や糖尿病は、小児型ではあまりみられません。

成人型MELASの症状-聴力障害や糖尿病など

耳が聞こえにくそう、違和感を感じている成人

一方、成人型MELASでは聴力障害や糖尿病といった症状が高頻度でみられます。初発の時点で聴力障害や糖尿病を発症されている患者さんも多く、やがて視野異常や視力障害が加わるパターンが典型的といえます。後から視野障害が加わる理由は、脳卒中様発作を繰り返すことで神経が障害されるためと考えられます。

なお、小児型に多い低身長は成人型ではあまりみられません。私自身も、平均身長を超えている成人型MELASの患者さんを沢山みています。

MELASの診断基準-A3243G変異があってもMELASではない場合も

臨床所見の有無を確認して診断をつける

2002年に私たち研究班が作成した以下の診断基準は、現在もアップデートを加えながら、世界で用いられ続けています。冒頭でも述べた通り、MELASとはミトコンドリアの異常によって起こる病気のうち、脳卒中様発作を起こすことを主徴とする病気を指します。

そのため、MELASと診断するためには、次項に記す「A.卒中様の臨床所見」と「B.ミトコンドリア異常の根拠」に挙げられた項目のいずれかに該当しており、認定基準を満たしている必要があります。

A3243Gの変異率と臨床症状の関係-変異率により病型も異なる

 

臨床せぺクトル
A3243G変異の臨床スペクトル 資料提供:古賀靖敏先生

MELASの代表的な原因遺伝子異常であるA3243G変異を持っていても、ミトコンドリア糖尿病やLeigh脳症など、異なる病気ということもあります。上のスライドに示しますように、A3243G変異を持つ人の臨床症状は、その変異が分配された臓器の変異率の多い・少ないにより、さまざまな症状を来すことが知られています。これをA3243Gが持つ臨床的多様性と表現できます。具体的には、A3243Gの変異が高度(92%以上)に集積する場合、より重いLeigh脳症という病型をとります。

そのため、遺伝子解析によりMELASの診断をつけることはできず、臨床所見の有無を確認する必要があるのです。

また、「MELAS自然歴」の項目で脳卒中様発作を起こすまでMELASと診断することはできないと述べたのもこのためです。

A.卒中様の臨床所見

1.頭痛/嘔吐

2.痙攣(けいれん)

3.片麻痺

4.同名半盲または皮質盲

5.脳画像上脳の急性局所異常所見

B.ミトコンドリア異常の根拠

1.血中又は髄液の乳酸値がくり返し高いか、またはミトコンドリア関連酵素の欠損

2.筋生検でミトコンドリアの形態異常

3.(MELAS関連の)既知の遺伝子変異

MELASと診断がつくのはどのような場合か?

【認定基準】確実にMELASと診断できる例

「A.卒中様の臨床所見」の2項目を満たし、かつ「B.ミトコンドリア異常の根拠」の2項目をみたすもの(計4項目以上必要)

【認定基準】MELASを疑う例

「A.卒中様の臨床所見」の1項目を満たし、かつ「B.ミトコンドリア異常の根拠」の2項目をみたすもの(計3項目以上必要)

引用元:「ミトコンドリア病診療マニュアル2017」診断と治療社、日本ミトコンドリア学会編集

次の記事『MELASは遺伝する病気?リスク因子とL-アルギニンを用いた治療の確立に向けて』では、MELASの遺伝形式やリスク因子、治療の現状についてお話しします。