ミトコンドリア病の原因はDNAの変化による遺伝子変異であることがわかっています。その治療は現在、それぞれの症状に対する対症療法が中心となっていますが、原因治療のための研究も進んでいます。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター メディカル・ゲノムセンター長の後藤雄一先生にミトコンドリア病の最新トピックスについてお話をうかがいました。
記事1「ミトコンドリア病とは-ミトコンドリアの機能低下がさまざまな症状を引き起こす」でもご説明したように、ミトコンドリア病の原因はDNAが変化することによる遺伝子変異です。これにはミトコンドリアDNAの変化が原因である場合と、核DNAの変化が原因である場合の2通りがあります。
その多くはミトコンドリアDNAの変化が原因で発症します。ミトコンドリアDNAは母系(母性)遺伝といって母親から子どもに受け継がれ、父親のミトコンドリアは通常、子どもに受け継がれることはありません。母から受け継がれたミトコンドリアDNAの変化が体の中のどこの細胞にどれくらいの割合で存在するかによって、子どもの症状の有無や程度は異なります。 少量しか受け継がれなければ、何も症状をおこさないことになります。
また、ミトコンドリアDNAの変化は母親から受け継ぐ以外にも、突然変異によって生じる可能性があります。ミトコンドリアDNAに変異を持って生まれる新生児は少なくとも200人に1人以上であり、突然変異が生じる確率はおよそ1,000人弱に1人といわれています。
核DNAはミトコンドリアDNAの母系遺伝とは異なり、両親から子どもに受け継がれます。遺伝形式には常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)やX連鎖劣性遺伝(エックスれんされっせいいでん)などがあります。ただし、ミトコンドリア病全体のうち核DNAの変化が原因で起こるものは一部に限られています。
ミトコンドリア病の母系遺伝に対する予防的なアプローチとして、受精卵の段階で操作をしようという新しい治療法が出てきています。これは健康な女性が提供した卵子から核を取り除き、ミトコンドリア病を持つ母親の卵子の核に入れ替えるというものです。
イギリスでは2015年、変化したミトコンドリアDNAでおきるミトコンドリア病を持つ母親が妊娠を希望する場合に限り「卵子核移植」を認める法案を上院で可決・成立させています。しかしこの場合、ミトコンドリアと核にはそれぞれ異なる個人に由来する遺伝子があるため「2人の母」もしくは「3人の親」と呼ばれる問題が生じます。
イギリスでは一定の条件の下でこのような治療研究が認められていますが、それ以外のヨーロッパの国はすべて反対しています。核移植で本当にミトコンドリア病が防げるのかどうかはまだよくわかっていない状況ですし、臨床応用は時期尚早という意見が大半です。
実は生殖医療の技術に関しては、日本は世界でもトップクラスのテクニックを持っています。もしイギリスで成功したということになれば、未解決の問題について議論されないまま、なし崩しに実施される可能性もないとはいえません。我々の研究班としても、どのような問題があるのかということを広く周知するする必要があると考えています。
その一方で、母系遺伝ではなく突然変異だと考えられるミトコンドリア病の症例もたくさん見つかってきています。必ずしも母親が元々持っていたわけではなく、たまたま卵子のどこかに突然変異が起きて、それが伝わっていったのだろうと考えられる症例もあります。ですから、「ミトコンドリアの病気=母系遺伝」というわけではないということも大事なメッセージとして伝えていかなければならないと考えています。
国立精神・神経医療研究センター病院の遺伝カウンセリング室ではミトコンドリア病だけでなく、さまざまな病気に関する相談にそれぞれの専門スタッフが対応しています。ミトコンドリア病に関する相談はけっして多いわけではありませんが、一度話を聞きたいということで遠方からわざわざ来られる方もいらっしゃいます。
ミトコンドリアDNAの変化でおきる病気の遺伝カウンセリングではまず、遺伝したからといって病気になるとは限らないということをご説明しています。お母さんから伝わったとしても、少ししか伝わらなければ病気にはならないということも大事なメッセージですし、臨床症状が出るか出ないか、どこで出るかということも予想がつかないのだということもお話ししています。
ご両親がいくら悩んだとしても、将来お子さんに現れる症状はご自身や家系の中で病気が見つかった方の症状とはまったく違う臨床症状かもしれません。ですから、どれだけ情報を集めて考えても、将来を予測することは難しいのだということを理解していただく必要があります。
遺伝カウンセリングに来る前はまったく知識がなくて「わからない」という状態で来られるわけですが、帰っていただくときには知識をある程度得た上で、考えてもわからないことはあえて「考えすぎない」というところに落ち着いていただくことになるのではないかと思っています。
「ミトコンドリア病患者・家族の会」では毎年、東京と大阪で勉強会を開催していて、我々もそこで話をさせていただくことがあります。そういった場では総論的なことしかお話しできませんが、それを聞いてご自分の子どものこと、ご自身のことを訊きたいといって我々のカウンセリング室まで来られる方もいらっしゃいます。
また、厚生労働省の研究班でも、広報活動の一環として全国各地で市民公開講座などを実施しています。2015年は福井、2016年は札幌で実施しました。そのような形で並行してミトコンドリア病についての啓発活動を行っています。
EPI-743は、天然にも存在するビタミンE群の分子で、ミトコンドリアの機能低下によって発生した活性酸素を除去することで効果を発揮するとされ、ミトコンドリア病の治療薬として期待されています。Leigh(リー)脳症という病気に関しては製薬メーカーが企業治験を実施していますし、MELAS(メラス)に対しては私のところで主導して治験ではなく臨床研究として行なっているという状況です。
まだ薬として患者さんに広く使っていただけるという段階ではありません。ひとたび報道されると治験や臨床研究について十分理解されないまま情報がひとり歩きして、すぐに「私も使用したい」と言ってこられる方がいたり、自分が診ている患者に使いたいといって医師から電話がかかってきたりすることがあります。同様に、学会などで少しでも効きそうだという治療に関する報告があると、すぐに使いたいと考える人もいます。
実際は、薬が効いた効かないの判断や安全性の評価はできるだけ科学的に行えるように臨床試験が計画され実施されます。それを終えないと結論的なことは言えないということをご理解いただく必要があります。
ひと口に治療薬といっても、何に対する薬かということだけでもいくつかの方向性が考えられます。ミトコンドリアの機能を全般的に高めるような薬もそのひとつです。また、変異の場所によっておそらくある酵素の変化が起こりますので、特定の酵素活性が低下している場合には、それに応じて使える薬がいいのかもしれません。
もしもミトコンドリアの機能全般を高めることができれば、ミトコンドリア病の症状を多少なりとも軽減することができるかもしれませんし、同時に老化を防ぐ薬になりうる可能性もあります。ミトコンドリア病の患者数はそれほど多くなく、症状も多岐にわたるため、製薬会社も初めは見向きもしなかったのですが、現在はミトコンドリアに対する関心が高まってきています。
ミトコンドリア病の症状には糖尿病や心筋症など主要な臓器の症状も含まれていて、いわゆる生活習慣病とも関係することがわかっています。そういった幅広い疾患に対する治療薬、もしくは予防薬として期待される部分もあります。
最後に、我々がかかわっている最新研究をご紹介します。これは理化学研究所との共同研究による最新の研究成果のひとつで、詳細は2016年4月28日付のプレスリリースで公開されています。
「ミトコンドリアゲノムの初期化機構を発見-変異したミトコンドリアDNAはどうやって“リセット”されるのか-」
ミトコンドリアの中にたくさんのDNAのコピーが入っていて、ひとつの細胞につき数千のコピーがあります。そのうちの一部に変異が入っていて(変異型といいます)、それ以外は健常なDNA(野生型といいます)の状態をヘテロプラスミーといいますが、その比率がミトコンドリア病の発症に大きく関わってきます。
これに対して、ほとんどが野生型もしくは変異型で占められる状態をホモプラスミーといいます。野生型に対する変異型の比率が変動してゼロに近づく、つまり野生型のホモプラスミーの状態になることを「初期化」あるいは「リセット」と表現しているのですが、今回の研究でそのようなリセット状態を人工的に引き起こすことに成功しました。
研究の結果、ある濃度の過酸化水素を加えると、中途半端な比率だったものが0%か100%に大きく動くということがわかりました。0%に近づくということは野生型だけになるということです。いったんそうなれば、その後で出てくるのはすべて正常なものなので、元々あった変異がなくなるということになります。
現在のところ、0%になるか100%になるかを我々がコントロールすることはできません。そこをうまくコントロールできるようになれば新しい治療法につながる可能性はあります。もしくは少し比率を下げれば病気にならないかもしれません。そのことを継続して研究しているという状況です。これはある意味、ミトコンドリアの遺伝子治療に近いものといえるでしょう。
ミトコンドリア遺伝子へのアプローチでは、クリスパー・キャス(CRISPR/Cas:遺伝子配列の任意の場所を編集できる新しい遺伝子改変技術)と呼ばれる手法でミトコンドリアDNAの変異型だけを変化させようという試みもあります。クリスパー・キャスでは任意の変異だけを変えられますので、ミトコンドリアにそれを応用して、ノーマルはノーマルのままで変異型だけを変化させてノーマルにしてしまえばいいという考え方です。
これらはあくまでも研究段階の話であり、まだ臨床応用への道のりは遠いのですが、将来的に新しい治療法につながるということを期待して研究を続けています。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター NCBN中央バイオバンク上級研究員、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター メディカル・ゲノムセンター特任研究部長、東邦大学 客員教授、東京大学医学部 非常勤講師、横浜市立大学医学部 非常勤講師
日本小児科学会 小児科専門医日本小児神経学会 小児神経専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医・臨床遺伝指導医
北海道大学医学部に学び、1988年からミトコンドリア病の研究を始める。1990年にミトコンドリア病の中でもっとも頻度の高いMELASの遺伝子変異を発見し、Nature誌に報告した。厚生労働省「ミトコンドリア病の診断と治療に関する調査研究班」の研究代表者を長年勤めた(令和4年度まで)。
後藤 雄一 先生の所属医療機関
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頚椎神経根症はっしょうしてから、睡眠に、入る時や、入ってから、体があっちこっちと。びくつきます。 一分間にひどい時は20回。その日は、1時間しか、睡眠が取れなかったのですが、最近は、びくつきの時、前よりびくつきが、小さいために、熟睡していないように、感じますか、このままほっておいて大丈夫なのか、心配です。また、側頭葉てんかん医師に相談したところ、てんかんからではないと言われました。
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