麻疹(はしか)の症状は大きく3段階に分かれます。3つの症状には回復期も含まれますが、初期症状から回復期まで、どのような経過をたどるのでしょうか。
子どもの麻疹の症状や合併症について、前回に引き続き東京都立小児医療センターの福岡かほる先生に解説していただきます。
麻疹は、麻疹ウイルスに感染してから一般に8~12日の潜伏期間を経てから発症します。麻疹は大きくわけて3つの段階を経て回復します。合併症を併発しなければ、一般的には10日前後で回復するといわれています。
カタル期では、38度前後の発熱が2-4日程度続きます。また、咳・鼻水やくしゃみなど、風邪に似た症状があらわれることもあります。その他、結膜充血・眼脂(がんし:一般的にめやに)などの結膜炎症状がみられます。
またこの段階で、口の中の頬粘膜に1mm程度の小さな白色の斑点が現れることが多いです。これをコプリック斑と呼びますが、これは麻疹に特徴的な症状で、コプリック斑を見つけると初期の段階で麻疹だと診断することが可能です。
この時期の感染力が一番強いといわれており、周りの人にうつさないようにしたいところです。
カタル期が過ぎると一時、体温が1度くらい下がり、その後再び39度から40度台の高熱が出るともに、発疹がでます。まず、耳の裏・首・額などにあらわれ、2日程度の時間をかけて発疹は徐々に上から下へと全身に拡がるようになります。この間、高熱が続きます。
発疹があらわれてから3-4日ほどで熱が下がり、体調も徐々に快方に向かいます。発疹は次第に色が薄くなり、黒ずんだ色になっていきます。発疹あと自体はしばらく残ってしまいます。
また、この後もしばらくは免疫力が低下しており、他の感染症にかかると重症化しやすいので注意が必要です。
このように麻疹は発熱の期間が長く、回復までに時間がかかる病気です。
麻疹(はしか)の患者さんの30%程度が合併症にかかるといわれています。主な合併症は中耳炎と肺炎です。頻度はまれですが脳炎を合併することもあります。麻疹による死亡原因の多くは肺炎と脳炎であり、特に注意が必要です。
麻疹を原因とする肺炎には下記の3種類があります。
巨細胞性肺炎は、主に免疫不全状態の時にみられ、麻疹ウイルスが肺で持続感染することによって起こる重篤な合併症であり、予後不良といわれています。
細菌が中耳に二次感染してしまうと、中耳炎を合併します。合併症の頻度としては最も多く、麻疹の合併症は肺炎と中耳炎で大半を占めます。子どもは症状を訴えにくいので、中耳からの膿性耳漏により発見されるケースもあります。
喉頭の周りが腫れ、空気の通り道が狭くなってしまい呼吸が苦しくなります。「ケンケン」と犬が吠えるような乾いた咳がでることが特徴的です。乾いた咳以外には声のかすれがみられます。数日でよくなることがほとんどですが、悪化した場合には進行がはやく、呼吸困難になってしまうこともあります。
脳がダメージを受けて、発熱や嘔吐、頭痛などの症状がみられます。悪化すると発熱のときよりもぐったりしている、意識障害、けいれんなどの症状がみられます。
麻疹(はしか)の合併症に亜急性硬化性全脳炎という重篤な症状をきたす合併症があります。麻疹発症後、4~8年という長い潜伏期間を経て発症するとされています。
発症する頻度は麻疹患者の10万人に1人と極めて低いですが、SSPEを合併するリスクは2歳未満で麻疹(はしか)にかかった子どもに高くなるといわれています。
SSPEを発症すると、知能障害や運動障害があらわれ、最悪の場合では命の危険もあります。麻疹(はしか)から回復した数年後に脳に障害を抱えることになります。繰り返しになりますが、このような事態を避けるためにも、1歳の誕生日を迎えたらすぐに予防ワクチンを接種させるようにしましょう。
麻疹(はしか)の原因はウイルスです。ウイルス性の病気には「これを飲めば治る」といった特効薬は存在しないことが多く、有効な治療方法はありません。症状にあわせて対症療法を行うことが基本になります。水分をとって安静に過ごすようにしてください。倦怠感を伴う発熱がみられる場合には、解熱剤を使用することもあります。
二次性の細菌感染を合併した場合には、抗菌薬投与による治療が必要となります。
麻疹の流行地域へ渡航した後や周囲に麻疹の発症者がいるなど、麻疹患者と接触した可能性があり、かつ麻疹を疑う症状(発熱・発疹など)があれば、一度医療機関への受診をお願いします。学校や幼稚園、保育園に「診断証明書」を提出しなくてはならない場合が多いです。麻疹は感染力が非常に強い病気ですので、周りにうつさないための対策を講じる必要があります。受診前には、必ず医療機関へ連絡するようにしてください。
沖縄県立中部病院 小児科
福岡 かほる 先生の所属医療機関
WHO Western Pacific Region Office, Field Epidemiologist、東京都立小児総合医療センター 感染症科 非常勤
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児感染症学会 暫定指導医米国感染症学会 会員欧州小児感染症学会 会員米国小児感染症学会 会員米国病院疫学学会 会員米国微生物学会 会員
小児患児に感染症が多いにも関わらず、それぞれの診療科が独自に感染症診療を行うという小児医療の現状を変えるべく、2008年トロント大学トロント小児病院感染症科に赴任。感染症症例が一挙に集約される世界屈指の現場において多くの臨床経験を積むとともに、感染症専門科による他診療科へのコンサルテーションシステム(診断・助言・指導を行う仕組み)を学ぶ。2010年帰国後、東京都立小児総合センターに小児感染症科設立。立ち上げ当初、年間200件~300件だったコンサルタント件数は現在1200件を超える。圧倒的臨床経験数を誇る小児感染症の専門家がコンサルタントを行うシステムは、より適正で質の高い小児診療を可能にしている。現在は後進育成にも力を注ぐ。
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