千葉県こども病院は、1988年に千葉市緑区に開設されました。同県に6つある県立病院のひとつであり、2018年10月に創立30周年を迎えます。開院以来、近隣地域のみならず、千葉県全域の重症疾患をもつ子どもとそのご家族を支え続けています。
現代社会が少子高齢化という問題を抱えているなかで、どのような取り組みを行っているのか、院長である星岡 明先生にお話を伺いました。
当院は、全国に15か所ある独立型小児専門病院のひとつです。一般病院では対応困難な専門医療を行うほか、地域医療支援病院として、千葉市を中心に、県内の小児の二次・三次救急医療を担当しています。三次救急は全県対応です。二次救急については、千葉医療圏のほか小児の医療機関が少ない山武長生夷隅医療圏を補完する形で対応しています。
224床の病床と29科の診療科をそろえ、手術が必要な患者さんや重い疾患をもった患者さんを中心に診療を行っています。2015年(平成27年)には地域周産期母子医療センターの認定も受けました。分娩後すぐに治療ができる体制を整えたほか、胎児診断で妊娠中に病気がわかった場合には早めのサポートを行うようにしています。
また、小児病院のなかでは、全国でも早い段階で日本病院機能評価機構の認定を受け、医療の質の向上にも取り組んでいます。
当院には、小児科医51名を含む、総勢91名の医師が在籍しています。それぞれの診療科に専門医や指導医がおり、専門性の高い医療を受けることが可能です。
当院を受診される患者さんの多くは、重症な疾患をお持ちです。なかでも、心疾患、内分泌疾患、小児がんなどが多くみられます。在宅での酸素療法、気管内吸引や人工呼吸器管理、経管栄養や自己注射などを行っている方もたくさんいらっしゃいます。
乳幼児の手術に対応できる病院は多くありません。当院には麻酔科医8名が在籍し、年間2000件ほどの小児の手術を行っています。
当院の特徴の1つが先天性心疾患の診療です。心臓血管外科と循環器科が、協力して新生児期から治療にあたっています。また、小児がんの診療も当院の特徴の1つです。血液のがんや固形腫瘍に対して、血液・腫瘍科の医師が主体となり造血幹細胞移植を含め高度な治療を行なっています。
口唇口蓋裂の手術件数は、DPC対象病院の手術集計で国内2位の数であり、年間100件以上にのぼります。治療は形成外科が主体となり、耳鼻咽喉科や県内の歯科大学、矯正治療を行っているクリニックなどと連携して行っています。また、言語聴覚士が早期から、言語指導も行っています。
当院の代謝科は、ミトコンドリア病の診断と治療において全国の拠点となっています。また、大学病院などの研究機関とともに原因遺伝子を発見するなど、研究面でも大きな成果をあげています。
小児医療では、ご家族の支援も重要です。当院では、入院中の生活環境の整備や、在宅療養の支援に力を入れています。
当院では、こども・家族支援センターという窓口を設け、通院中や入院中の子どもたちとご家族のサポートを行っています。担当するスタッフは、医師や看護師、医療ソーシャルワーカー、チャイルドライフスペシャリストなど多職種にわたります。入院前の問い合わせ対応から、かかりつけ医との連携、入院生活や在宅療養における相談・生活支援、ボランティアの窓口なども行っています。
2016年(平成28年)には、早期から支援に介入するシステムを構築しました。これは、患者さん一人ひとりの状況をいろいろな背景から把握し、入院前から退院まで適切な支援を行うためのシステムです。
入院前から看護師が情報収集を行い、必要な場合には関係職種と連携して早い段階で支援体制をつくります。また、入院中や在宅療養で必要な医療ケアの相談を受けたり、必要時には指導なども行います。
当院では、13歳未満のごきょうだいの面会はご遠慮いただいています。そのため、ご家族が面会されているあいだの「きょうだい預かり」を行っています。
また、ごきょうだいも一緒に参加できる夏祭りなどのイベントや、メンタルヘルスサポートも行っています。
当院の患者さんには、人工呼吸管理を必要とする方も多くいらっしゃいます。そのような患者さんは、以前は退院が困難でした。しかし、近年では支援体制の整備などにより、在宅医療に移れる方も増えてきています。
人工呼吸器以外にも、在宅で医療ケアを行っている患者さんは多くいらっしゃいます。そういった患者さんやご家族に対して、地域の医療機関や訪問看護ステーションと連携しながらサポートを行っています。
訪問看護ステーションのなかには、小児看護の経験が少ないところもあります。そのようなステーションの職員に対して、重症児のケア方法について研修会を開催するなど、小児の在宅医療の環境整備にもつとめています。
当院では、看護師などの医療従事者以外にも、小児病院ならではの専門スタッフやボランティアの方々が子どもたちの療養生活を支えています。
チャイルドライフスペシャリスト(CLS)は医療環境にある子どもや家族に心理社会的支援を提供する専門家です。アメリカでの専門教育と認定試験によって認定を受けます。全国で40名ほどが勤務しています。当院では、2名のCLSが患者さんとご家族のサポートにあたっています。
CLSは、子どもたちに安心感を与え、子どもたちがさまざまな医療体験を主体的に臨めるように支援します。検査、処置や治療への心の準備や、子どもの年令や発達に合わせた説明、また遊びを通しての感情表出など、医療体験を少しでも前向きに乗り越えられるようサポートしています。
患者さん本人への支援のほか、ごきょうだいへの心理的・社会的な支援も行っています。グリーフケアや、ターミナル期のサポートも行っています。
ご自身の症状やお子さんの症状について、遺伝に関する心配やお悩みを持つ患者さんやご家族に対して、情報提供や整理、今後の方針を決めるサポートをするのが、認定遺伝カウンセラーです。大学院で専門の研修を受けており、各科の医師と協力しながらご相談に対応しています。
認定遺伝カウンセラーは、ご両親が次のお子さんを考えるときや、患者さん本人が自分の体質を理解していくお手伝い、遺伝子検査や染色体検査に関する相談などに応じています。
お子さんの診断に際して行われる遺伝子検査や染色体検査は、ご家族によって目的や期待するもの、その結果が意味するものも大きく変わってきます。検査だけではなく、遺伝が関わる心配やお悩みについて、色々な情報を整理しながら、どんな思いを持って進んでいくのか、ご本人やご家族の意志決定を支えていきます。
当院では、さまざまなボランティアの方々が患者さんとご家族のサポートを行っています。
「かるがもボランティアーズ」というボランティア団体には、院内での移動図書館の実施、花壇の整備、患者さんとご家族が宿泊する施設「かるがもはうす」の掃除などさまざまなサポートをしていただいています。
また、定期的にクリニクラウンやアニマルセラピーの訪問もしていただいています。クリニクラウンは、病院を訪れる道化師(ピエロ)のことであり、入院中の子どもたちのもとを定期的に訪問し、遊びやコミュニケーションを通して成長をサポートします。
アニマルセラピーは、定期的にセラピードッグが訪問し、一緒に散歩をしたり歯磨きをさせてくれたりします。長期入院の子どもたちは、とても楽しみにしています。
当院には、専門医・指導医が多数在籍しており、29の診療科がありますので、小児すべての領域の疾患について研修することができます。小児科専門医だけでなく、感染症や内分泌、循環器、アレルギーといったサブスペシャリティ専門医を取得するための教育環境も整っています。サブスペシャリティ専門医を目指す方も大歓迎です。
また、国内だけでなく海外研修の支援も積極的に行っており、海外で学会発表などを行う医師も多くいます。研修期間のなかで、こども病院以外でも勉強したいという希望があれば、それも可能です。
職員がレベルアップすることにより、病院全体の診療レベルが上昇します。そのための教育環境がしっかり整っているのも、当院の特徴です。
課題のひとつは、医師の診療科偏在です。医師不足により産科では、現在、分娩を一時的に中断しております。精神科などでは初診までに時間を要しているのが実情です。
もうひとつは、地域の小児科医の不足です。今後、子どもの人口は減少していきますが、これまで地域医療を支えてこられた小児科医の高齢化や身近な医療機関の減少も課題となるでしょう。当院への期待はますます大きくなると思います。
一方で少子化により医療機関の拠点化・集約化がさらに進むなか、地域の医療機関などとの協力関係を一層強化し、役割分担をしていくとともに、当院が担う医療の範囲を見直すことも必要と考えています。
当院は、小児医療において県内の拠点となる病院です。開院以来、他の医療機関で診療が難しい病気については、当院が最後の砦として対応してきました。専門医療、高度医療については、これからもこども病院が担うべき医療の中心です。
今後も県内の小児医療の中心であり続けるために、スタッフ一同で切磋琢磨しながら、医療のレベル、医療の質をさらに向上させてまいります。
当院は完全紹介型の病院のため、地域のみなさまからみると縁遠い病院に感じられるかもしれません。
しかし、当院にはさまざまなスタッフがおり、みんなで小児医療をしっかり行っているということを知っておいていただければと思います。なにか心配なことが起きたときや、困ったときなど、かかりつけ医の先生に相談のうえ、ご来院いただけたならば、しっかりと診療・サポートいたします。
また、千葉県内だけでなく、県外からも患者さんの受け入れは行っています。紹介状などをお出しいただければスムーズに診察できますので、お気軽にご相談ください。
当院は、ご家族からの期待、患者さんをご紹介してくださる先生方からの期待がとても高い病院です。若手の医師には、こども病院の医師として、質の高い医療を提供できるよう、高みを目指して学び、限りなくレベルアップしてほしいと思います。
また、当院は理念として、「その子らしく、その子のために」という言葉を掲げています。目の前の子どものために、自分たちは何をするべきかを常に考えて行動してください。
子どもを一人の人間として捉え、子どもの人権を尊重し、小児医療のプロとして子どもたちに向き合ってもらいたいと思います。
千葉県こども病院 前病院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。