赤ちゃんの肝臓内に大きな血管の塊ができる乳幼児肝巨大血管腫は、心不全や呼吸障害などの重い問題を引き起こすことがあります。これらの症状を抑えるために、病院ではどのような治療が行われているのでしょうか。また、指定難病となっている乳幼児肝巨大血管腫は「治す」ことができる病気なのでしょうか。
慶應義塾大学病院小児外科教授の黒田達夫先生にお伺いしました。
乳幼児肝巨大血管腫を診断するために行う主な検査には、超音波検査、CT検査、血液検査、心臓超音波検査などがあります。
画像検査を行うことで、血管腫の大きさや広がりを調べることができます。検査の順番としては、まず超音波検査と血液検査(後述)を行い、その後、薬などを用いて眠っていただいた状態でCT検査を実施します。
これらの画像検査により、血管腫内部で出血が起こっていないかどうかを確認することもできます。
超音波検査につづいて行う検査です。目に見える出血がないにもかかわらず血液検査で貧血がわかった場合、血管腫内部で出血が起きていることも考えられます。
このほか、血小板の数や血液の凝固能を調べ、血液の止血機能が十分であるかどうかを確認します。また、肝機能も調べることができます。
乳幼児肝巨大血管腫では、心臓が送り出さなければならない血液量が増えるため、心臓に過剰な負荷がかかることがあります。心臓超音波検査では、心臓にかかっている負荷の程度や心機能を調べることができます。
妊娠後期の超音波検査により、出生前に乳幼児肝巨大血管腫とわかることもあります。また、お腹の中の赤ちゃんに胎児水腫(重篤なむくみが生じること)がみられたり、深刻な出血がみられたりする場合は、帝王切開を行い、ただちに治療に移るケースもあります。
ただし、上記は特殊な例であり、多くの場合は生後に症状の有無をみたうえで診断します。
乳幼児肝巨大血管腫では、まず薬を使った治療を行います。複数の薬を使っても効果がみられない場合には、血管腫塞栓療法と呼ばれる血管への治療が選択されることが一般的です。
乳幼児肝巨大血管腫の代表的な治療薬はステロイド薬です。ステロイド薬に良い反応を示す症例では、腫瘍そのものの縮小や、それに伴う出血しやすさの改善・心不全の改善などがみられます。ただし、長期に使用すると感染症にかかりやすくなるといった副作用が現れることもあるため、治療中には副作用への注意も不可欠です。
乳幼児肝巨大血管腫の薬物治療では、まずステロイド薬から使うことが一般的ですが、近年ではプロプラノロール塩酸塩を使用するケースも出てきています。
これら2種類の治療薬に反応しない場合、インターフェロンや、抗がん剤を使用することがあります。
薬物療法では改善がみられない場合、血管腫へとつながる血管を塞ぐ血管腫塞栓療法を選択することがあります。血管腫塞栓療法の目的は、血管腫へと流れ込む血液を抑えることにより、血管腫内部で使われてしまう血小板を減らすことです。これにより、血液の凝固能を改善させることができます。
血管腫塞栓療法は、放射線科の専門的な手技を必要とする治療法であるため、放射線科の医師によって行われます。
基本的には薬物治療か血管腫塞栓療法が行われますが、一部の症例に対しては開腹手術が選択されることもあります。手術方法には、肝臓へつながる血管を縛る肝動脈結紮術があります。ただし、肝臓に流れ込む血管を縛ってしまうと、将来的に肝機能が低下するおそれも生じます。そのため、手術の適応となる症例は、乳幼児肝巨大血管腫のごく一部に限られます。
血管腫そのものを完全に消失させることは困難ですが、症状をきたさない状態を目指すことは可能です。がんとは異なり、血管腫が存在すること自体は健康上問題にならないため、症状をきたさない状態になれば「治った」とも言えると考えています。
治療により症状が落ち着いた場合は、病気のないお子さんと同じように生活することができます。ただし、次の項目で解説する慢性期の肝障害などが起こっていないかを確認するために、定期的に外来での検査を行う必要があります。定期検査は、治療後すぐの時期には1か月に1回といった頻度で行いますが、状態が落ち着いた場合は1年に1回などに減らしていくことができます。
治療により乳幼児期の症状が治まった後、数年が経過してから肝障害などが起こることがあります。肝障害は、血管腫の血管にバイパスのような血管(シャントといいます)が形成されてしまうことにより起こります。たとえば、動脈と静脈をつなぐ血管が本来あるべきではない部分にできてしまい、動脈血がその先にある臓器に栄養を供給する手前で静脈に流れ込んでしまうこともあります。乳幼児肝巨大血管腫の慢性期における肝障害は、このように肝臓に栄養などが届きにくい状態になるために起こります。
成長してから現れる肝障害の程度が重い場合、肝臓移植の適応となることもあります。
乳幼児期の症状が治まった後の肝障害には目立った症状がないため、定期検査での確認が不可欠です。
お子さんが、乳幼児肝巨大血管腫というよく知られていない病気であると診断を受けた場合、保護者の方は「わからない」ということにも不安になられると感じています。そのため、私たちは今患者さんご家族への情報提供にも力を入れていきたいと考えています。
乳幼児肝巨大血管腫の一部は治療に反応しにくく、依然として難しい病気であることは確かです。しかし、治療の効きがよい場合は、将来的にQOL(生活の質)を維持しながら、健康な人と変わりなく生活することができます。また、治療により症状が軽快した場合にも、一部は肝障害を生じることがあるため、見逃さないよう検査を受けていただくことが大切です。
このように、一括りに乳幼児肝巨大血管腫といっても、予後の悪い病気である場合とそうでない場合があるため、どちらの面も漏らさずお伝えし、患者さんご家族の「わからない」という問題を解消しながら治療を前進させていきたいと考えています。
慶應義塾大学 外科学(小児) 教授 診療科部長
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