インタビュー

乳幼児肝巨大血管腫の原因と症状-心臓や呼吸、血液の問題が起こることも

乳幼児肝巨大血管腫の原因と症状-心臓や呼吸、血液の問題が起こることも
慶應義塾大学外科学(小児) 教授 診療科部長 黒田 達夫 先生

慶應義塾大学外科学(小児) 教授 診療科部長

黒田 達夫 先生

目次
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生まれたばかりの赤ちゃんや幼い子どもの肝臓内に、血管の塊ができる乳幼児肝巨大血管腫。症状は患者さんにより異なりますが、時に血が止まりにくくなる凝固障害や呼吸障害、心不全など、重い問題が引き起こされることもあります。なぜ肝臓に血管腫が形成されることで、血液や呼吸、心臓の問題が生じるのでしょうか。

指定難病のひとつである乳幼児肝巨大血管腫の原因と症状について、慶應義塾大学病院小児外科教授の黒田達夫先生にお伺いしました。

乳幼児肝巨大血管腫とは

赤ちゃんの肝臓に血管の塊ができる難病

肝臓

乳幼児肝巨大血管腫(にゅうようじかんきょだいけっかんしゅ)とは、新生児や幼い子どもの肝臓内に、「血管腫」という血管の塊が形成される病気です。血管腫には、以下2つのタイプがあります。

  1. 血管の細胞が増殖してできたもの(血管内皮細胞の腫瘍性増殖)
  2. 血管の形成異常によるもの

どちらも血管が絡まった毛糸玉のような形状をしていますが、それぞれ治療の効き目などが異なります。

血管腫は肝臓内にたくさん生じることもあれば、大きな病変(血管腫)が1つだけ生じることもあります。

乳幼児肝巨大血管腫は生まれつきの病気?

出生前の検査で乳幼児肝巨大血管腫と診断がつく場合や、出生直後に状態をみて診断がつく場合は、生まれつきの病気と断言することができます。また、このような生まれつきの乳幼児肝巨大血管腫は、血管の形成異常によりできたタイプと見極めることもできます。

一方、出生後ある程度の期間が経過してからできる血管腫の場合、現時点では原因が分かっていないことから、生まれつきの病気か後天的な病気かを断言することはできません(2018年8月時点)。

乳幼児肝巨大血管腫の3大症状・徴候

乳幼児肝巨大血管腫では、以下3つの大きな問題が生じることがあります。

  • 血が止まりにくくなる凝固障害(ぎょうこしょうがい)
  • 呼吸を効率的に行えなくなる呼吸障害
  • 心臓に負荷がかかることによる高拍出性心不全

これらの症状・徴候をきたす乳幼児肝巨大血管腫は、特にリスクが高いとされます。

もちろん、すべての患者さんにこれらの重い症状・徴候が現れるわけではありません。しかしながら、特に巨大な血管腫が形成されている症例などでは、治療に反応せず死に至ることもあるため、依然として難しい病気であるといえます。

小さな血管腫は分けて捉える

なお、肝臓のなかに小さな血管腫があるものの、症状がまったく現れず、別の検査を受けた機会に偶然発見されるというケースもよくあります。このような無症状で治療を必要としない血管腫は、乳幼児肝巨大血管腫とは異なるものと捉えられています。

乳幼児肝巨大血管腫の患者数

全国的にみても非常に少ない

乳幼児肝巨大血管腫の患者さんは非常に少なく、全国での正確な統計データは出されていません。

厚生労働省難治性疾患克服研究事業の調査によると、新たにこの病気を発症する患者さんの数は、日本全国で年間5~10人程度と推定されています。ただし、死産例や原因不明の新生児死亡例を含めると、実際には推定値よりも多い可能性があります。

なお、発症頻度に男女差はみられません。

※乳幼児肝巨大血管腫に該当しない無症状の小さな血管腫は、比較的高い頻度でみられます。

乳幼児肝巨大血管腫の原因・リスク因子

乳幼児肝巨大血管腫の原因やリスク因子は、現在のところ完全にはわかっていません。

冒頭でも述べたように、血管腫の形成には(1)血管細胞の腫瘍性増殖、(2)血管の形成異常の2タイプがあると明らかになっています。しかし、なぜ一部の子どもに血管細胞の増殖や血管形成異常が起こるのかは解明されていないのが現状です。(2018年8月時点)

乳幼児肝巨大血管腫は遺伝性の病気?

乳幼児肝巨大血管腫は、遺伝性の病気ではないと考えられています。

妊娠中の服薬や過ごし方は関与していない

保護者の方から「妊娠初期にかぜ薬を服用してしまったことが関わっているのではないか」と質問を受けることがありますが、妊娠中の服薬と乳幼児肝巨大血管腫の発症とは関連していないことがわかっています。

このほか、お母さんの妊娠中の生活習慣も、赤ちゃんの乳幼児肝巨大血管腫の発症とは関係していないことがわかっています。

乳幼児肝巨大血管腫の症状

乳幼児肝巨大血管腫の代表的な症状・徴候には、血液の凝固障害、呼吸障害、心不全、肝腫大、腹部膨満などがあります。

血が止まりにくくなる(凝固障害)

血管内

血液中には、出血したときに血液を凝固させて止血する血小板が存在します。しかし、大きな血管腫があると、血管腫の内部で血小板が使われてしまい、全身の血液中から血小板が不足した状態になってしまいます。そのため、出血しやすくなったり(出血傾向)、出血時に血液が止まりにくくなったりします(凝固障害)。

※血管腫とは長い血管が絡んだ良性の腫瘍です。この長い血管内では非常に小さな血栓が形成されており、血栓形成に血小板が使われています。

血液の凝固障害が重い場合には、治療に反応せず死亡することもあります。

呼吸を効率的に行えなくなる

肝臓そのものが大きく腫れる「肝腫大(かんしゅだい)」という症状が生じます。肝腫大により、肝臓の上部にある横隔膜(おうかくまく)が押し上げられ、スムーズな筋肉運動を行うことができなくなります。

乳幼児期の子どもの呼吸は、主に横隔膜の上下運動によって行われているため、肝腫大により運動が阻害されることで呼吸障害を生じることがあります。

※大人の呼吸運動には、上下に動く横隔膜だけでなく、肋骨を広げる肋間筋も大きく関わっています。

ただし、呼吸障害に対しては人工呼吸管理などの医療的なサポートを行うことができるため、血液の凝固障害や心不全のように、命に関わる問題ではなくなりつつあります。

心不全

心臓とその周囲の血管

血管腫とは、長い血管が絡み合った病変です。血管が長いと、心臓はそれだけたくさんの血液を押し出さなければならなくなるため、心臓の仕事量が増え、負担も増加します。そのため、心機能が低下してしまい、心不全をきたすことがあります。(高拍出性心不全)

お腹のふくらみ(腹部膨満)

肝臓が腫れることから、お腹が大きく膨らんだ状態になります。腹部膨満は出生前の超音波検査(エコー検査)でも確認できることがあります。

腹壁はむくんで硬い感触になり、皮膚表面はテカテカとした状態を呈する例が多いと感じています。

頭蓋内(ずがいない)出血や腹腔内出血

血小板が減少して出血しやすくなるため、二次的に頭蓋内出血やお腹の中で起こる腹腔内出血、血管腫内部での出血など、深刻な出血が起こることがあります。また、皮下出血により皮膚に青あざが現れることもあります。

お腹の中の胎児に出血がみられるときには、状況に応じて帝王切開を行い、ただちに止血措置を実施する場合もあります。

その他の症状

このほかに、甲状腺機能低下症、発育障害、腎不全、貧血、肝機能障害、高ガラクトース血症、高アンモニア血症などがみられることもあります。

どのような症状がみられたら病院へ行くべき?

以上の症状は、見た目や検査からも気づける症状ですが、赤ちゃんや小さな子どもは、自分が感じている症状を訴えることはできません。そのため、目に見える異常や異変がない場合でも、いつもと違って元気がないようであれば、病院を受診することが大切です。これは、乳幼児肝巨大血管腫に限らず、すべての子どもの病気に共通していえることです。

次の記事『乳幼児肝巨大血管腫の検査と治療-完治する病気?』では、乳幼児肝巨大血管腫の検査と治療についてご解説します。