仙台市立病院は、仙台医療圏の中核的病院・高度急性期病院のひとつとして、その役割を担うべく、特に救急医療をはじめとした政策的医療に尽力しています。また、市民の生命と健康を守るため、仙台市立病院は職員一丸になってチーム医療を行っています。救急医療を中心に地域医療に貢献する同院の取り組みについて、仙台市立病院 院長 渡辺 徹雄先生にお話を伺いました。
当院は救命救急センターを設置し、仙台市内の救急患者さんの受け入れに尽力しています。中でも二次救急や三次救急の迅速な処置を要する患者さんを多く受け入れています。
当院は救命救急センターを設置し、仙台市内の救急患者さんの受け入れに尽力しています。中でも二次救急や三次救急の迅速な処置を要する患者さんを多く受け入れています。2022年救急車の年間受け入れ台数は7,679台で、東北では非常に多い数になっています。また当院には施設内に仙台市の救急ステーションがあり、ここを拠点に2005年から仙台市消防局と連携してドクターカー(高度処置救急隊)を運用しています。さらにはドクターヘリの運行への協力も行っており、地域の救急医療を支えています。
また、当院は同じ敷地に仙台市夜間休日こども急病診療所を併設し、ここと連携しながら初期から三次まで総合的な小児救急を提供しており、2024年現在、24時間365日体制で小児科医を配置し小児救急を行う市内唯一の医療機関です。
なお、仙台市は今後人口が減っていきますが、救急搬送は減らず、救急搬送困難事例(受け入れ先が決まらないために現場での滞在時間が30分以上かかってしまう事例)についてはむしろ増加していくと予測されています。
さらに、入院される患者さんは独居や経済的な面も含めた社会的背景を持つ方が多く、高齢化のために複数の疾患を抱えた方が多くなっています。
このような状況に対応する病院の体制づくりをするために、既存の「診療科」だけでの対応でなく、病院全体の総力で対応していく様々な体制づくりを進めています。
精神科では総合的な救急医療提供の一環として、単科の精神科病院では対応が難しい、身体疾患と精神疾患を併せ持った救急患者に対し、院内の各診療科と連携しながら医療を提供しています。
たとえば、救急搬送された患者さんがもともと何らかの精神疾患を持っている場合は、総合病院という利点を生かし、体の外傷や病気の治療だけでなく同時に精神科での治療を行います。
そのほかにも、身体疾患で入院治療をしている患者さんが、精神的な治療やケアが必要になった場合に、精神科が中心となってリエゾンチームが対応に当たっています。また、他の精神科病院で精神疾患の治療中に身体疾患が見つかることも少なくありません。その場合にも、当院で体の病気の治療を行いながら精神疾患の治療も行います。
当院は仙台市立の病院として、ここにお住まいのさまざまな方に対し、質の高い医療をきちんと提供する使命があります。例えば前述した救急患者さんの受け入れはもちろんのこと、新型コロナウイルス感染症の流行期には当院は県内でも最初期に患者さんを受け入れてコロナ対策を牽引しました。
救急患者さんの受け入れをはじめ、周産期医療や各診療科での診療にも力を入れています。診療科同士で密接に連携して、診療を支えています。救急患者さんを多く受け入れている当院だからこそ、育むことができるチームワークだと思っています。
その中でもいくつかの診療科で提供している治療についてご紹介します。
心筋梗塞や心不全は救急患者さんとして搬送されることが非常に多い疾患です。循環器内科では、救命救急センターと密接な連携を取り、PCI(手首の血管からカテーテルを入れて狭くなった冠血管を広げたり、ステントを入れる治療)など、循環器内科での治療が必要とされる患者さんへの迅速な対応をしています。
また、循環器科では不整脈に対するカテーテルアブレーション治療を得意としています。カテーテルアブレーション治療は、患者さんの太ももの静脈からカテーテルを挿入し、不整脈の原因となっている部分を焼灼して心臓の正常な動きを取り戻す治療方法です。ほとんどの頻脈性不整脈に対して行っており、根治的な治療法です。
カテーテルアブレーションの新しい治療法として、2016年から取り入れたクライオアブレーションは、通常の高周波アブレーションと比較して、より短時間で済み、痛みもないことから、患者さんの体に負担の少ない治療方法です。重篤な合併症が少なく、高齢者や心不全も患者さんにも安全におこなうことができます。
また、リードレスペースメーカや皮下植込み型除細動器など、従来よりも負担の少ないデバイス治療も積極的に取り入れています。
救急外来では、転倒や交通事故による外傷、骨折なども多く受け入れており、それらの緊急手術を積極的に行っています。脳外科では頭部外傷や急性硬膜下血腫の手術が多いのが特徴です。脳外科、神経内科が協力し、脳梗塞急性期治療である「血栓回収療法」を行っています。当院は2024年現在、日本脳卒中協会から一次脳卒中センター(PSC)に認定されており、脳卒中発症後の一刻を争う患者さんの治療に24時間365時間対応可能です。
救急以外の外科的治療としては、外科では消化器外科や乳腺外科のほか、伝統的に甲状腺の外科治療を得意としており、血管外科、整形外科領域などの非常に多くの手術を手掛けています。
また、形成外科では宮城県内で唯一、漏斗胸手術ができます(2024年2月現在)。産婦人科ではお腹に手術用の孔を開けずに膣からアプローチして子宮全摘を行う新しい腹腔鏡手術“vNOTES”を実施しています。
2012年8月に「赤ちゃんにやさしい病院(BHF:Baby Friendly Hospital)」の認定を受けました。WHO(世界保健機関)とユニセフは、適切な新生児ケアの推進のために「母乳育児成功のための10か条」を提唱しています。赤ちゃんにやさしい病院は、この母乳育児成功のための10か条に基づく母乳育児を長期間にわたって取り組み、ユニセフから認定を受けた施設を指します。
BFHとしての活動はYoutubeでも紹介しているのでぜひご覧ください。
地域住民の高齢化に伴い、たくさんの病気を抱える患者さんが増え、複数の疾患を同時に、連携しながら治療しなければならないことも多くなりました。こうした状況に対応するために、当院では、救命救急センターを中心に各診療科間の連携を強めています。また、ICT(感染対策チーム)やRST(呼吸器サポートチーム)、NST(栄養サポートチーム)など、様々な職種横断的なチームが活躍しています。
院長として目指すのは、研修医もレジデントもハッピー、すべての職種がハッピーな病院です。風通しのよい当院で、ぜひたくさん学んで頂きたいと考えています。
若手医師には、積極的に患者さんとコミュニケーションを取ってほしいと思います。患者さんの近くにいることで分かることはたくさんあります。まずは患者さんのベッドサイドで話をしっかり聞いて、視診・聴診・触診などの身体所見をおろそかにせず、病状を把握するためにさまざまな努力をしてください。たとえば病状が安定しないときは、何度でも回診し、刻々変化する病状を把握してください。診断や治療方針に迷ったときは、先輩医師に聞き、過去の論文を検索するのもよいでしょう。一人ひとりの患者さんの診療に真摯に向きあうことによって大変多くのものが得られるはずです。
当院には救急外来をはじめ、重症を数多くの様々な患者さんが集まってきます。これらの診療は決して楽ではないと思いますが、当院での研修を経験することにより、医師としての基礎的知識・技能の習得ができると確信しています。また今後は総合診療的教育も導入し、さまざまな症例で勉強できる環境をより一層充実させていきます。
当院ではニューメキシコ州唯一のレベルI外傷センターを有するニューメキシコ大学と提携し、毎年医師を招聘して初期研修医等に対する指導を行ってもらうほか、初期研修医や専攻医を同大学の救急部門へ派遣するなど、相互交流事業を行っています。医療レベル向上のために、この機会をぜひ活用してください。若手医師それぞれが、自ら研鑽の機会を積極的にとらえて、患者さんに親しまれる立派な医師になることを期待しています。
仙台市立病院は地域の中核的な病院として患者さん中心の安全・安心な医療を提供することで、患者さんに頼りにされ、選んでもらえる病院でありたいと思います。そのために、全スタッフが常に研鑽を怠らずチーム医療を行い、病院としての総合力をフルに発揮してよりよい治療、満足していただけるケアを行っていきます。
また、地域の医療機関の皆様にも信頼され、患者さんを任せていただけるように、顔の見える関係や連携の強化に力を入れてまいります。
渡辺 徹雄 先生の所属医療機関