院長インタビュー

松江市立病院─高齢者のがん医療を推進する地域の中核病院

松江市立病院─高齢者のがん医療を推進する地域の中核病院
紀川 純三 先生

松江市立病院 院長

紀川 純三 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年09月25日です。

松江市立病院は、島根県松江市に位置し、地域の中核を担う病院です。27の診療科を有し、急性期病院として幅広い診療を行っています。なかでも、高齢化社会を迎える地域におけるがん医療を推進している同院は、緩和ケア病棟や放射線治療部門を有し、地域がん診療連携拠点病院に指定されています。

今回は、同院が推進するがん医療を中心に、松江市立病院の取り組みについて、病院長である紀川純三先生にお話を伺いました。

松江市立病院 航空写真(松江市立病院よりご提供)

松江市立病院は、1948年に市民病院として開院しました。当時の診療科は内科・外科・小児科・産婦人科、ベッドの数は30床という小さな病院でした。その後、病床数の拡大などを経て、2005年に現在の田和山地区に新築移転しました。現在は、病床数470床、27診療科を有し、およそ120名の医師が勤務する病院として地域の中核病院の役割を担っています(2018年6月時点)。

松江市立病院の位置する島根県は、日本の都道府県のなかでも高齢化率が高いことで知られています。また、日本人の2人に1人は生涯でがんを発症するといわれています。当院では、地域における医療、特に高齢化社会を迎えた地域における「がん医療」をひとつの指針としています。

高齢者のがん患者さんの多くは、がんのほかにもさまざまな病気を抱えていらっしゃいます。そのため、手術などの治療を行うだけにとどまらず、患者さんの診療を総合的に支えていくことが重要です。

当院は、総合病院を基盤として、放射線治療専門医、がん薬物療法専門医、緩和医療専門医など、各分野の専門家が治療にあたっています。

外来化学療法室(松江市立病院よりご提供)

厚生労働省のがん対策推進基本計画(2018年3月9日閣議決定)では、がん医療の充実・がんとの共生に関する施策として、放射線療法、緩和ケアが挙げられています。

松江市立病院でも、緩和ケア病棟の機能充実に努めており、2017年の3月には、患者さん一人ひとりの症状に応じた医療を目的としたがんの診療を始めました。キュア(治療)ではなくケア(世話や配慮)を重視したがん医療を実施できるのは、当院の強みのひとつです。

緩和ケア処置室(松江市立病院よりご提供)

 

松江市立病院が有する緩和ケア病棟では、緩和医療の知識・技術を持つ医師や、音楽療法を行うスタッフなど、多様な医療関係者が勤務して、患者さんやご家族のサポートにあたっています。

緩和ケアというと、がんなどの終末期の患者さんが過ごす場所というイメージをもたれる方は多いかもしれません。しかし、痛みを緩和したり、口腔ケアを行って食事を摂っていただいたりすることによって、在宅療養の可能な状態まで回復する患者さんがいらっしゃるように、当院では在宅における緩和ケアを支える拠点としての環境を整えています。

放射線治療を解説(松江市立病院よりご提供)

がんの患者さんでご高齢の方の場合、体への負担が大きい手術を行うことは難しいことがあります。そのため、松江市立病院では、体への負担が少ないとされる放射線治療を導入しています。当院の放射線治療部門では、IMRT(強度変調放射線治療)やサイバーナイフなどの放射線治療機器を完備し、専門の医師(日本医学放射線学会放射線治療専門医)などが治療にあたることで、患者さん一人ひとりに応じた医療を提供しています。

フィットネスルーム(松江市立病院よりご提供)

乳がん大腸がん前立腺がんなどの患者さんは、運動することで予後が改善されるとされています。当院では、こうしたがん患者さんが運動できるようなフィットネスルームを備えています。医師と理学療法士を運動指導員として養成することで、診察しながら個人にあわせたプログラムを作っていくことが可能となっています。ご高齢で胃を切除している方や、抗がん剤治療中の方などは、指導員のサポートを受けながら取り組むことが大切です。

当院では、がんの患者さんの口腔ケアに特化した診療を実施しています。口腔ケアを行うことにより、誤嚥性肺炎の発症などを予防できるといわれています。当院では、歯科の外来診療とは別に、6名の歯科医が口腔ケアにあたっています(2018年6月時点)。

誤嚥性肺炎…食べ物や唾液などが誤って気道内に入ってしまうことから発症する肺炎

講堂(松江市立病院よりご提供)

若い先生方には、ぜひ、リサーチマインドをもってほしいと思います。当院は電子ジャーナル(学術雑誌が電子化されたもの)を全面的に導入しているほか、がん遺伝子等の基礎研究を行っている研究施設があり、医師が勉強できる環境が整っています。私自身、臨床の向こうにある「幅」をもった医師を目指して海外でも学び、多くの人と知り合ってきました。人生は1回きりですから、さまざまなことを経験して人生を歩んでいってください。

がんセンター 外観(松江市立病院よりご提供)

地域の皆さまには、医療のことや病院の在り方などに、ぜひ興味を持っていただければと思っています。病気にかかったとき納得して治療を受けるためには、医師だけに任せておかず、病気のことをよく勉強することが大切です。

当院では、健康や病気に関することを職員がお話しする「出前講座」の実施や、パンフレットの配布などにより、医療情報の発信を行っています。ご自身や周囲の方が病気にかかったときでなければ、そういった医療情報に注目することは少ないかもしれませんが、医療のことなどを考えるきっかけにしてみてください。

近年の医療は、1つの病院で救命から社会復帰までを完了する「病院完結型」ではなく、地域の病院や診療所が役割分担して住民を支える「地域完結型」へと変化してきています。地域全体が患者さんを支える環境では、慢性的な病気を抱えている方が住み慣れたご自宅で過ごせるようになるなど、多くの利点があると考えられます。

このような地域完結型の医療を実現するためには、医師や看護師だけではなく、患者さんも医療の中に入ることが大切です。地域には、かかりつけ医、病院の主治医、各診療科の医師など、さまざまな医療関係者がいますが、患者さんはその中でも医療の(かなめ)の存在です。周囲の方々が患者さんを支えることができるように、このような環境の中にいるということをぜひ意識してみてください。

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