肺に袋状の変化が生じる病気の総称である「嚢胞性肺疾患」は、胎児期に発症する先天性のものと、生後何らかの原因で発症する後天性のものがあります。
嚢胞性肺疾患は、治療をせずに放置しておくと成長するにしたがってほとんどの症例で肺炎などの症状を起こしたり、また少ないながらがん化したりするリスクもあるため、手術による摘出が必要です。
今回は名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科教授である内田広夫先生に、胎児期に発症する先天性の嚢胞性肺疾患を中心にお話を伺いました。
嚢胞性肺疾患とは、肺に嚢胞という袋状の病変が生じる病気の総称です。生まれつき発症する先天性のものと、生後何らかの原因(肺炎や寄生虫、腫瘍など)で発症する後天性のものがあります。これらのうち、本記事では先天性嚢胞性肺疾患を中心に解説します。
先天的に発症する嚢胞性肺疾患には、主に3つの種類があります。
<主な先天性嚢胞性肺疾患>
などがあります。
(※肺分画症については、記事2『肺分画症とは?肺葉内か肺葉外かで症状や治療法が異なる』で詳しく解説しています。)
先天性嚢胞性肺疾患は胎児診断(赤ちゃんがお母さんのお腹にいるときに病気が診断されること)も多く、その場合には生後3〜6か月頃を目安に手術を行います。そして、それまでは無症状で経過することがほとんどです。
胎児診断されない場合には、少し成長したあとに繰り返す肺炎をきっかけに診断されることが多いです。このとき肺炎の症状として、発熱や咳、痰などがみられます。
肺にできた嚢胞は細菌に感染しやすい特徴があり、肺炎を繰り返すお子さんに対して、CT検査(エックス線を使って体の断面を撮影する検査)をしたら、実は嚢胞性肺疾患が隠れていたというケースが多くあります。
先ほどもお話ししましたが、先天性嚢胞性肺疾患は妊婦健診で行う超音波検査(エコー)で胎児診断ができることがあります。
そして、超音波検査で先天性嚢胞性肺疾患と診断された場合には、必要に応じてMRI検査(磁気を使い、体の断面を写す検査)を行います。これはMRI検査を行うことで、重症度や生後すぐに緊急手術が必要であるかどうかが予測できるためです。
嚢胞は、生後呼吸の開始と共に一気に大きく膨らんでしまうことがあります。大きくなってしまった嚢胞は心臓や肺を圧迫し、真ん中にある縦隔は片側へ偏移されてしまいます。すると、呼吸状態が非常に不安定になり、緊急手術が必要となります。このような生後に起こり得ることを、MRI検査で予測します。1)
また、胎児期に先天性嚢胞性肺疾患と診断されたとしても、必ずしも治療が必要になるわけではありません。なぜなら、胎児期に発生した嚢胞は、妊娠25週目くらいの時期に一時的に大きくなるのですが、その後は徐々に収縮していくことがほとんどであるためです。
しかし、出産まで経過を追っていく中で、嚢胞が大きくなったり、胎児水腫*などを発症したりする場合もあります。このような状況になると、胎児死亡の恐れもあることから、嚢胞に針を刺して内容物を抜く胎児治療を検討することもあります。しかし、経過観察や治療によって重症な時期を乗り越えることができれば、状態が改善していくことが多いです。
胎児水腫…お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんの全身がむくんでしまっている状態
胎児診断されている赤ちゃんは、生後に胸部レントゲン検査と超音波検査(エコー)を行います。また当院にはとても重症な赤ちゃんも多いため、手術を行うことを前提にCT検査も行い、できるだけ詳しく検査を行うようにしています。
嚢胞性肺疾患は、放置することで肺炎を起こしたり、少ないながらもがん化する可能性もあります。そのため、原則手術で嚢胞を摘出します。
病状が安定している場合、当院では生後3〜6か月頃に手術治療を行うようにしています。
この理由は、生後6か月以上経過してしまうと、嚢胞が細菌に感染して肺炎を発症するリスクが高くなり、肺炎を起こすと嚢胞に癒着が起きて手術が難しくなるためです。
また、体がある程度大きく成長した頃のほうが、麻酔や手術を行いやすいという理由からも、手術の時期は生後6か月を目安にしています。
生まれた直後から呼吸が安定しない場合には、生まれてすぐ手術を行わなければならないこともあります。
嚢胞性肺疾患の手術方法には、主に開胸手術と胸腔鏡手術があります。当院では、血圧が不安定だったり、体の酸素化が保てない場合を除いては、基本的にほぼすべての症例に対して胸腔鏡手術で行っています。
胸腔鏡手術では、胸に1cm程度の穴を3〜4か所開けて、そこから手術の器具を挿入します。そして、胸に開けた穴から挿入した胸腔鏡という細いカメラを用いて、モニターに映し出される肺を確認しながら手術を行います。
手術では、嚢胞を含む肺葉または肺区域を切除して、嚢胞を摘出します。
原則的にはすべての嚢胞を切除することを目指します。しかし、切除したい嚢胞の範囲が明瞭でないとき、嚢胞をすべて切除すると残った肺が小さくなりすぎるときなどは、無理に嚢胞をすべて切除するのではなく、一部を残す形で切除し、時期をみて再度手術を行うこともありますし、そのまま経過をみることもあります。
当院の場合、通常の肺葉切除であれば手術時間は約2時間です。しかし先述のように、肺が綺麗に分離していなかったり(分葉異常)、嚢胞が多発しているときなどは手術時間が長くなることもあります。
手術終了後は、胸腔内に空気が溜まることを防ぐために、ドレーンとよばれる管を挿入します。肺からの空気漏れがないことが確認できれば、数日後にドレーンを抜去し、術後数日で退院となります。
嚢胞を切除したあとは、肺に本来あるべきスペースが確保されます。また、先ほどお話ししたような嚢胞が心臓や肺、縦隔を圧迫している場合には、これが改善されて呼吸循環状態も安定します。しかし、患者さんの中には術後しばらくの間は人工呼吸が必要となることもあります。
引き続き記事2『肺分画症とは?肺葉内か肺葉外かで症状や治療法が異なる』では嚢胞性肺疾患のひとつである「肺分画症」について解説します。
【参考】
1)Shirota C,et al.BMC Pediatrics. 2018;18:105.
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名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学教授
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