川崎市中原区にある川崎市立井田病院は、中原区だけでなく、近隣の高津区や横浜市港北区などから患者さんが集まる病院です。同院は、幅広い診療科を備え、救急搬送の受け入れを積極的に行うなど、地域医療の中核を担っています。
今回は、同院のがん診療への取り組みや、地域との結び付きについて、院長である伊藤 大輔先生にお話を伺いました。
当院は1949年に開院し、当時は結核療養を柱として取り組んでいました。その後、より幅広い医療を提供できるよう、増科を繰り返してきました。2015年には、建物の老朽化から病院を建て替え、新病院を全面開院。2016年には地域包括ケア病棟を開設しました。
病棟を建て替えたことで、内視鏡センター、化学療法センターなどの機能が充実しました。特に救急総合診療センターは、旧病院に比べて3倍の広さを確保し、救急車を横付けできる配置に変更しています。また、搬入後に、どの病棟に運べばよいのか判断が難しい患者さんを受け入れるため、専用の救急後方支援病床を作りました。建て替えにあたり、こうした工夫を施したことで、当院が目指している“断らない救急”をより効率化することができました。
2016年に開設した地域包括ケア病棟は、手術などの急性期治療は完了したものの、ご自宅での療養には不安が残るという方が在宅復帰に向けて入院される病棟です。安心してご自宅に戻ることができるよう、診療やリハビリテーションを行っています。また、外部の施設からの受け入れも行っています。建て替えにより効率化した部分や新しくできた病棟などを十分に生かし、地域の方々に信頼され安心していただける病院を目指して、職員一同、引き続き励んでまいります。
当院は、神奈川県災害拠点病院、さらに神奈川DMAT指定病院の指定を受けています。(2023年12月現在)災害時における地域の医療を守るため、電力や通信の確保、さらにさまざまな職種の職員が参加する実践的な訓練も行っています。
当院では、糖尿病、慢性腎臓病、高血圧症、脂質異常症、脳血管疾患、関節リウマチなどの高齢の方に多い病気の診療に積極的に取り組んでいます。また、開院当時から結核医療を提供してきたことから、この地域の結核医療を担うのは私たちであるという使命感があり、結核病棟も設けています。このように当院では、幅広い医療の提供を行っています。その中から本項では、“がん難民をつくらない”ことを目指す、当院のがん診療について詳しくご説明します。
当院は2006年に、厚生労働省より地域がん診療連携拠点病院に指定されています。検診によるがんの予防から、診断、治療、緩和ケア、在宅ケアまで対応しており、切れ目のないがん診療を提供しています。
臓器別や部位別の診療科を設けているほか、がん診療の体制をより充実させるために以下3つの機能別センターを設置しています。
化学療法センターは、リクライニングチェア、ベッド、また個室も備えており、居心地のよさに配慮したつくりとなっています。また、当院には腫瘍内科があるため、センター内で腫瘍内科医による診察を受けることも可能です。
ロボット手術センターには手術支援ロボットのダヴィンチを備えており、現在は前立腺がんや膀胱がん、骨盤臓器脱の手術を行っています(2023年12月時点)。
がんの早期発見を目指し、高解像度内視鏡や拡大内視鏡、画像強調内視鏡(NBIなど)を用いて内視鏡検査を行っています。
また、緩和ケア病棟も備えています。当院では緩和ケアの取り組みを1995年から始めており、1998年には緩和ケア病棟を開設しました。緩和ケア病棟では、がんそのものによる苦痛を和らげるだけでなく、落ち込みなどの精神的苦痛も和らげ、患者さんやご家族の生活の質を向上させるためのケアを行っています。たとえば、ボランティアの方々の協力も得て、音楽会や夏祭りなどの各種イベントを行っています。少しでもよい1日を過ごし「生きていてよかった」と思える生活を送っていただけるよう、職員一同努めています。
在宅ケアでは、がん末期の方のみならず、難病の方、人工呼吸器などを使用されている方を対象に、訪問看護師や緩和ケア内科医師による往診を行っています。
また、当院には“ホットサロンいだ”という、がんサロンも備えています。がん患者さんやご家族の方をサポートする場所として機能しており、がん関連のいろいろなパンフレットがそろっていて、体験談や悩みを話す機会を設けるなど、支援プログラムが充実しています。こうした取り組みにも力を入れ、がん患者さんに寄り添う診療を行っています。
このほかにも、消化器センターや乳腺外科を強化しており、さまざまな治療法を組み合わせた“集学的がん治療”を行えるよう努めています。乳腺外科では、日本乳がん検診精度管理中央機構のマンモグラフィ検診施設・画像認定施設として検診にも力を入れており、3Dマンモグラフィなども取り入れています。
当院は積極的に地域医療連携に取り組んでいます。地域医療連携とは、周辺地域の病院、診療所、クリニックなどの医療機関と機能を分担し、連携して患者さんの診療にあたることです。当院と連携してくださっている診療所の医師や歯科医師たちと繰り返し集まり、話し合いを行って連携したり、症例検討会なども開催したりしています。
また、当院の地域連携部ではスムーズな連携を実現するために、周辺地域のクリニックなどの開院時間に合わせ、平日は19時まで、土曜日も午前中まで対応を行っています。さらに、緊急性の高い連絡に対応するために専用のホットラインも引いています。
当院は2019年より、在宅療養後方支援病院の施設基準を取得しています。在宅療養後方支援病院とは、在宅療養中の患者さんやご家族が安心して過ごせるよう、在宅医療を提供している医療機関と連携し、診療や受け入れを行う病院です。当院では、在宅療養中の患者さんの急変など、緊急の診療が必要となった場合に24時間体制で受け入れられるよう体制を整えています。
地域の方々が、当院のボランティアとして活躍してくださっています。院内の案内、イベントの企画、院内コンサート、園芸、将棋、絵画や写真の展示、“ホットサロンいだ”に来られた方のサポートなどを行っていただいており、ボランティアの方々の熱心な活動には大変助けられています。心から感謝しています。
当院には“チーム・アイ”と呼ばれる、技師や看護師などの若手職員によって構成されたチームがあります。これは、職員自らが井田病院に愛着を持ち、誇りを持って働ける病院とするため、当院の“強み”を発見し、院内・院外に発信していくことを目的に活動を開始したチームです。“アイ(I)”の意味ですが、皆で“会い”のアイ、英語で“自ら”のI(アイ)、“井”田のI(アイ)、“愛”するのアイ、を表します。
チーム・アイではあいさつ運動を行っており、毎月第1週の朝に、来院される患者さんや職員に向けて「おはようございます」と挨拶をしています。あいさつ運動は、チーム・アイの元気な挨拶によって患者さんや職員の笑顔を見ることができて、とてもよい取り組みだと思い、私も参加しています。
当院では地域の方々に向けて、院内や市民会館で糖尿病などについての公開講座を開催したり、地域のお祭りにブースを出して医療相談会を開いたりするなど、地域の健康のために啓発活動を行っています。当院では人間ドックや、がん検診の受診が可能ですので、こうした取り組みによって受診される方が増え、病気の早期発見につながれば、と考えています。
当院は患者さんから「温かく、優しい病院」であると言ってもらえることが多く、それを誇りに思っています。また、働きやすい環境があるということも自慢の1つです。女性医師も多く、保育所があるので育児をしながら働いている先生も少なくありません。
また、教育という面でも研修医の先生が勉強をしやすい環境であると自負しています。一人ひとりが責任を持って診療にあたっているので誰かに負担が偏ることなく、時間的な余裕を生み出せることから質問や相談もしやすい環境となっているのではないかと感じます。こうした文化をこれからも大切にし、患者さんにとって、また職員にとっても温かく優しい病院であり続けたいと思っています。
伊藤 大輔 先生の所属医療機関