疾患啓発(スポンサード)

腎血管筋脂肪腫(腎AML)における凍結療法

腎血管筋脂肪腫(腎AML)における凍結療法
江藤 正俊 先生

九州大学大学院 医学研究院 泌尿器科学分野 教授

江藤 正俊 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

ここまで3つのページにわたり、結節性硬化症と代表的症状である腎血管筋脂肪腫(renal angiomyolipoma:腎AML)の概要、そしてその治療方法について、お二人の先生からお話を伺ってきました。シリーズ最後となる今回は、腎血管筋脂肪腫治療に対する凍結療法について、九州大学大学院医学研究院 泌尿器科学分野 教授である江藤 正俊(えとう まさとし)先生に、引き続きご解説いただきました。

私たちは2020年1月現在、“結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対する凍結療法の安全性と有効性の検討”と題して、腎血管筋脂肪腫(腎AML)における凍結療法の研究を進めています。また、この研究は、日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)に採択されています。

前のページでご紹介したとおり、腎血管筋脂肪腫(腎AML)に対して現在行われている治療法に、エベロリムスの内服治療が挙げられます。腎血管筋脂肪腫(腎AML)治療の新たな選択肢として、その効果を期待されている一方で、症状を抑え続けるために、長期にわたり服用を続ける必要があります。このため、薬による副作用の問題が懸念されるだけでなく、期間が延びるにつれ医療経済的な影響も大きくなるという課題が指摘されていました。

そこで私たちは、凍結により腫瘍(しゅよう)を壊死させる凍結療法をエベロリムスの内服などと組み合わせることで、より安全で効果的な腎血管筋脂肪腫(腎AML)治療が実現できることを期待し、現在研究を重ねています。

凍結療法は、小径腎悪性腫瘍に保険適用されている治療法の1つで、患者さんへの身体的負担が少ない方法です。この方法をエベロリムス内服などほかの治療と上手に組み合わせることで、腎血管筋脂肪腫(腎AML)にかかる医療経済的負担を抑えることが、本研究の目標の1つです。

大まかな試算ですが、国内で適応可能な患者さんの数を年間200人と想定し、エベロリムスを単独で服用し続ける場合と、凍結療法を用いてエベロリムスを休止した場合とでは、1年間でおよそ13億円の医療費を抑えられる可能性があります。

私たちが現在検討している治療法は、エベロリムスを内服して小さくなった腫瘍を、凍結療法により小さいまま壊死させるという方法です。

エベロリムスの内服治療により小さくなった腫瘍は、内服を止めると再び大きくなることが報告されています。腫瘍の増大を抑え続けるためには、長期にわたり内服を続ける必要があり、その期間中は副作用の可能性を考慮しなくてはなりません。

これに対して凍結療法は腫瘍を壊死させることで、腫瘍の増大を止め、根治を目指せる可能性があります。

凍結療法を組み合わせることで、エベロリムスの内服期間を短縮すると同時に、腫瘍の増大を抑えることにより腎機能の温存を図れるのではないかと考えています。

凍結療法では、皮膚に針を刺し、アルゴンガスという気体を使って針の先端を急速冷凍することで、腫瘍を壊死させます。

CTやMRIで観察しながら凍結療法を行うと、低温で凍結した部分は、アイスボールと呼ばれる氷の塊として確認できる状態となるため、治療が届いている範囲をきちんと確認できるという利点があります。

凍結療法を行うのに必要な入院日数は、施設にもよりますが、当院の場合は3泊4日程度を想定しています。

また、1回の治療に必要な処置の時間は、通常2~3時間程度を見込んでいます。

2020年1月現在、腎血管筋脂肪腫(腎AML)に対する凍結療法は保険適用されていませんが、この研究で実施する凍結療法は先進医療で行われるため、全て研究費により支払われます。また、研究に規定されている、外来通院で発生する費用、凍結療法以外の入院期間に発生する費用は通常の健康保険を用いた保険診療となりますが、自己負担分は研究費で支払われます。そのため、本研究で規定されている検査および治療において、患者さんが負担する費用はありません。

ただし、研究参加期間中に、研究以外での受診や研究に規定されていない採血、尿検査などの検査を受けられた場合は、通常の診療を受ける場合と同じように、健康保険(国民健康保険など)を用いて自己負担分をお支払いいただくことになります。

なお、本研究にご参加いただいたことに対する謝礼金などの支払いはありません。

凍結療法を行う場合、基本的には動脈塞栓術(どうみゃくそくせんじゅつ)を併用します。この理由は、温かい血が腫瘍に流れていると凍結しにくいため、血流を遮断する必要があるからです。その際は可能な限り腎機能に影響が及ばないよう塞栓の範囲を狭くすることに努めますが、動脈塞栓術は再発率が60%という問題もあるため、繰り返し行うことに伴う腎機能への影響には注意が必要だと考えます。

また、4cmを超える腫瘍には、凍結療法を適応できません。

凍結療法は、処置による傷が小さい、腎機能を温存できる可能性が高い、局所麻酔で行うことができるといった利点があります。患者さんの体への負担が少ないため、全身麻酔での手術と違い、繰り返し行うこともできます。

現在、腎腫瘍に対する凍結療法の治療適応は、小径腎悪性腫瘍にとどまっています。今回の私たちの研究でよい結果が得られれば、凍結療法の腎血管筋脂肪腫(腎AML)への適応拡大に一歩近づくことができ、より多くの患者さんの治療に役立てられると考えます。

江藤先生

前のページ酒井 康成(さかい やすなり)先生がおっしゃるように、幼少期に目立つ結節性硬化症の症状は、発達遅延やてんかんなどの精神神経症状が中心で、腎血管筋脂肪腫(腎AML)に代表される腎病変は10歳を超えると現れやすいとされます。このことから、結節性硬化症の患者さんは10歳を超えたら、できるだけ早く泌尿器科を受診していただきたいと考えます。

これからも、今回ご紹介した凍結療法など、腎血管筋脂肪腫(腎AML)に対する新しい標準治療の確立を目指して研究を続けていきます。そして、患者さんの腎機能の保持、さらには、結節性硬化症全体の生命予後の改善につなげていきたいと考えています。

    「結節性硬化症」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。

    なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。

    実績のある医師をチェック

    結節性硬化症

    Icon unfold more