結節性硬化症は、特定の遺伝子に変異が起こることにより、乳幼児期から成人期にかけて、全身に多様な症状が起こる病気です。
国の難病にも指定されている結節性硬化症の概要や今後の展望について、九州大学医学部 小児科成長発達医学分野 准教授である酒井 康成先生にお話しいただきました。
結節性硬化症は、難病として国に指定されている遺伝性の病気です。皮膚・神経系、腎臓、肺など、体のさまざまな場所に、良性の腫瘍や過誤組織と呼ばれる先天性の病変ができます。
また、患者さんの成長(体が大きくなること)や発達(神経系を含む機能的な成熟)とともに、症状が変化していきます。症状の種類や現れる時期は後述のとおり多岐にわたるため、そうした全身の変化を注意深く観察し、患者さんの成長と発達を見守りながら、病気と長く付き合っていく必要があります。
結節性硬化症の原因は染色体の機能喪失変異とされ、TSC1とTSC2という2つのがん抑制遺伝子のどちらかに異常が認められることが明らかになっています。
ただし、原因遺伝子が親御さんから遺伝している割合は少ないとされます。患者さんの3分の2は、ご両親の遺伝子に同じ異変が見つからず、精子または卵子の段階で突然変異が起こり、結節性硬化症を発症するといわれています。
結節性硬化症では、全身に多様な症状が現れます。症状の重症度や発症のタイミングには個人差が大きいといわれますが、大まかには年齢とともに変化していきます。
結節性硬化症を発症している赤ちゃんの約半数に、心横絞筋腫という心臓の異常が起こります。ただし、その多くは成長とともに消失します。妊婦健診や乳児健診の際に不整脈などの形で発見され、自覚症状がないことがほとんどです。
白斑という白いあざのような皮膚症状もこの頃に現れます。形状は、木の葉のような楕円形をしていたり、紙吹雪や金平糖のような形をしていたりとさまざまです。肌の色などによってはあまり目立たないため、後から発見されることもあります。
乳児期後半からは、発達の遅れやてんかんなど、神経系の症状が現れます。
てんかんは、結節性硬化症患者さんの84%にみられるとされる症状で、うなずくように頭を前に曲げる点頭てんかんや、意識がなくなって手足の一部がけいれんするてんかん(複雑部分発作)などのタイプがあります。
発達については、言葉が遅れたり、対人的なコミュニケーションがうまくいかなかったりすることがあります。このことで親御さんが異変に気付き、受診される場合もあります。
学童期以降は、顔面血管線維腫やシャグリンパッチといった皮膚症状、脳の病変である上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)や網膜過誤腫という目の症状などが起こります。
思春期以降で特に問題となるのが、腎血管筋脂肪腫(renal angiomyolipoma:腎AML)に代表される腎臓の症状です。重篤な場合には、腎機能が低下したり、腫瘍が破裂して大量出血が起こったりするリスクがあります。
成人期になると、肺リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:肺LAM)に伴う、咳や血痰などの呼吸器症状が現れます。特に女性に多いといわれます。
患者さんの症状が『結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン(日本皮膚科学会)』の基準に当てはまる場合、結節性硬化症と診断し、治療を始めます。
診断の基本となるのは、患者さんの全身を注意深く診察することです。
たとえば、診断基準の1つでもある白斑は、肌が白い方では目立ちにくいため、脱色素斑という特徴的な脱色が複数起こっていないか、全身くまなく観察する必要があります。
そのほか、顔面血管線維腫や爪線維腫、シャグリンパッチといった皮膚症状も、患者さんをよく診察して見逃さないように努めています。
診断基準の中には、大脳皮質結節、上衣下結節、上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)などといった脳に生じる病変も含まれています。これは、MRIを用いた画像診断によって見つけることが可能です。
心横紋筋腫の有無については、心臓のエコーと心電図で検査を行い調べます。
学童期以降には、腎病変を見逃さないために、腎臓のエコー検査やMRIを定期的に行うことが推奨されています。
10歳を超えた患者さんの場合、主な死因は腎病変であり、結節性硬化症で生じる症状の中でも腎病変は特に注意を要します。なかには、治療経過中に現れた腎臓の血管腫が突然破裂し、亡くなってしまう方もいらっしゃいます。
そのため、定期的な診察や検査を通して経過観察を行い、腎病変を発見した場合は早期に破裂予防の治療を行うことが大切です。
結節性硬化症の原因遺伝子そのものに対する根治療法は、まだ確立されていないのが現状です(2020年2月現在)。そのため結節性硬化症の治療では、対症療法が基本となります。
近年では、結節性硬化症に対する薬物療法が発展を続けています。
エベロリムスは、これまで腎血管筋脂肪腫(腎AML)と上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)の治療に用いられてきた薬剤であり、2019年8月、結節性硬化症全体に適応が拡大されました。これにより、症状別でなく疾患全体に対する新しい治療薬としての効果が期待されます。
ただし、エベロリムスは腫瘍の増大を防いで症状を軽減するための薬であり、原因をなくす治療ではありません。対症療法の一種であることに変わりはないため、根治を目指す治療法のさらなる発展が望まれています。
結節性硬化症の症状を抑えるためには、長期間にわたりエベロリムスを飲み続ける必要があります。しかし、エベロリムスには免疫を抑制する副作用があり、服用中は感染しやすい状態になります。特に、口内炎や肺炎といった副作用が現れやすいことが報告されており、副作用がある場合は医師による服用量の調整が必要となるため、注意が必要です。
服用中は特に、歯みがきとうがいを十分に行って清潔を保ちながら、口の中に異変がないか注意深く観察しましょう。口内炎、咳、発熱などが現れたときは感染を疑い、すぐに医師に相談してください。
幼い頃に診断されることが多い結節性硬化症では、患者さんご本人に結節性硬化症のことをいつ伝えるかという問題が挙げられます。
私の場合、個人差や男女差もありますが、進学や就職ができており、自分で薬の管理が可能で、なおかつ状態が落ち着いている患者さんについては、中学生から高校生になる頃に病気のことをお話ししています。けいれんなどの症状を抑えるために、薬の重要性について理解してもらう必要があるからです。
一方、知的なハンディキャップがある方に対しては、説明が難しい場合もあります。ご本人への告知については、患者さんの発達状態に合わせて、個別に考えていく必要があります。
九州大学病院 小児科 副科長
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