がんは、日本人のおよそ2人に1人がかかるといわれている病気です。がんを発症する原因には加齢、生活習慣、ウイルス感染、放射線や紫外線あるいは発がん物質への暴露などが挙げられ、これらが複雑に絡み合うことによって発症すると考えられています。しかし、ごく限られた割合で遺伝によりがんを発症する人がいることも分かっています。
本記事では、がんの発症における遺伝やそれ以外の要因の関与について詳しく解説します。
がんは加齢、喫煙や飲酒、食事の乱れ、運動不足などの生活習慣やウイルス感染など、さまざまな環境要因の影響を受けて発症するといわれています。しかし、なかには家族にがんを発症した人が複数人いると、子どもや孫に遺伝するのではと心配する人もいます。
実際に遺伝によりがんを発症する人の割合は、がん患者全体の5~10%で、残りの90%程度の人からは明らかな遺伝要因は見つかりません。
がんの5~10%を占める遺伝的な要因により発症するがんのことを“遺伝性腫瘍”といいます。
人の体には約2万種類の遺伝子がありますが、遺伝性腫瘍の場合はその中の“がん化に関係する遺伝子(がん関連遺伝子)”の異常(変化)を生まれながらに持っています。そして、その遺伝子の変化は親から子どもへと伝わります。しかし、それだけでがんを発症するわけではありません。その後の生活スタイルなどさまざまな環境因子により、さらなる遺伝子変化が誘発され蓄積することで、正常な細胞の性質が変化していきがん細胞になるとされています。
遺伝性腫瘍の場合は生まれたときからすでに1つ目の遺伝子変化を持っているため、遺伝子の変化を持っていない人に比べ、がんを発症するまでに必要な遺伝子変化の蓄積が早く達成されます。そのため、若くしてがんになる、一人で複数のがんを発症するなどの特徴を持ちます。
前述のとおり、遺伝的な要因でがんを発症する人はがん患者の5~10%です。そのため、家族にがんを発症した人がいても通常は遺伝性腫瘍ではありません。しかし、家族は食生活や生活環境などを共にしていることが多いため、がんを発症しやすい環境が存在していれば家族内でがんを発症する確率が高くなる可能性があります。
上記のように、家族の中にがんを発症する人が多い理由には遺伝によるものと環境によるものがあり、これらを合わせて“家族性腫瘍”と呼ぶこともあります。しかし、遺伝性かそうでないかを識別するのは、以下のような特徴的な所見がない限り簡単ではありません。
遺伝性腫瘍の場合、原因遺伝子により発症しやすいがんの種類がある程度決まっています。たとえば、APC遺伝子の場合は大腸がん、BRCA1遺伝子の場合は乳がんや卵巣がん、RET遺伝子の場合は甲状腺がんが発症しやすくなるといわれています。
さらに、遺伝しやすいがんの場合は発症年齢が若い、同じ臓器に何度もがんを発症する、複数の臓器にがんを発症するなどの傾向があります。そのため、正確な診断を受け、遺伝性腫瘍が疑われる場合は専門の医師の指示に従って定期的に検診することが大切です。
これまで述べたように、若くしてがんになった、一人で複数のがんを発症している、がんを発症している血縁者が多いなどの特徴がある場合は遺伝性腫瘍を疑います。
しかし、その判断は難しく、遺伝性腫瘍に関する情報も少なく入手困難であるため、遺伝によるがんの発症を不安に思う場合は、遺伝カウンセリングを受けることを検討してください。遺伝カウンセリングでは、遺伝性腫瘍の可能性についての評価や病気に関する情報提供、遺伝子検査を用いた遺伝性腫瘍の診断や家族に関する相談、健康管理のための検診、予防、治療、精神的・社会的サポートなど多岐にわたっての支援を受けることができます。
たとえ遺伝性腫瘍の体質を持っていても、それだけでがんを発症するわけではありません。偏った食生活や喫煙、運動不足などその後の生活スタイルや環境因子が加わることでがんの発症が促進されます。そのため、遺伝性腫瘍の有無にかかわらず、生活習慣を整え、喫煙や食生活の乱れなど、がん発症の原因になりうることを改善するよう意識することが大切です。
遺伝によるがんの発症について気になる人は、がん予防や遺伝に関する情報を提供する遺伝カウンセリングを活用してみるとよいでしょう。
埼玉県立がんセンター がんゲノム医療センター センター長、埼玉県立がんセンター 腫瘍診断・予防科(がんゲノム・臨床遺伝)科長兼部長
埼玉県立がんセンター がんゲノム医療センター センター長、埼玉県立がんセンター 腫瘍診断・予防科(がんゲノム・臨床遺伝)科長兼部長
日本遺伝性腫瘍学会 遺伝性腫瘍専門医・暫定遺伝性腫瘍指導医・理事日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医・臨床遺伝指導医・評議員日本臨床検査医学会 臨床検査管理医日本癌学会 評議員日本遺伝カウンセリング学会 評議員
がんゲノム医療を専門とした診療を提供
埼玉県立がんセンターがんゲノム医療センター長として、がんゲノム情報からがんの性質を推測し、どのような治療が有効かを日々検討している。また、遺伝性腫瘍の遺伝子診断、遺伝カウンセリングなど遺伝医療を提供している。特に、リンチ症候群に関しては、遺伝子解析技術を駆使して、確定診断を行ってきた。専門的な内容を分かりやすく解説し、さまざまな専門職と連携しながらチーム医療として患者さんをサポートしている。
赤木 究 先生の所属医療機関
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