院長インタビュー

「ここで治療を受けてよかった」と思ってもらえる病院づくりを目指す、京都市立病院の取り組み

「ここで治療を受けてよかった」と思ってもらえる病院づくりを目指す、京都市立病院の取り組み
黒田 啓史 先生

京都市立病院 院長

黒田 啓史 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

京都市中京区に位置し、地域の高度急性期医療を担う京都市立病院。1965年に2病院が統合する形で開設され、2020年で設立55年を迎えます。今回は京都市立病院の院長である黒田 啓史(くろだ ひろし)先生に、病院の特徴や取り組みについてお伺いしました。

京都市立病院 外観
京都市立病院 外観

当院は、1882年に設立された上京公立避病院という伝染病院を前身としています。現在の京都市立病院となったのは1965年のことですが、上京公立避病院の開設から数えると130年以上の古い歴史を持つ病院です。

2020年10月現在、診療科数は37科、病床数は548病床で運営しており、幅広い病気に対応して、地域の高度急性期医療を担っています。同時に、伝染病院を前身とする歴史的な背景から、第2種感染症指定医療機関として感染症の診療にも積極的に取り組んでいます。

当院では、前立腺がん膀胱がん腎臓がん胃がん直腸がん肺がんを対象に、ロボット支援手術を積極的に行っています。初めて導入したのは2013年で、京都市内では2つの大学病院に次いで3番目の導入となっています。

ロボット支援手術は、体に複数の小さな穴を開けて行う低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)で、術者は3D映像を見ながらロボットを遠隔操作して手術を行います。ロボットは、人間の複雑な手の動きを再現できるだけではなく、人間の手では届かない場所にアプローチできたり、アーム部分(人間の手首の関節にあたる部分)が360度回転できたりと、高い操作性を持ちます。

2020年4月には機種をバージョンアップし、より複雑で難易度の高い症例にも対応することが可能となりました。

ロボット手術の様子
ロボット手術の様子

当院では、血液疾患全般の診療を行っており、小児(小児科)から成人(血液内科)まで全年齢層に対応しています。

血液疾患の中でも、とりわけ“血液のがん”と呼ばれる造血器悪性腫瘍(白血病骨髄腫悪性リンパ腫など)では特殊な治療を必要とするケースが多く、そのようなケースにも年齢にかかわらず対応できるよう体制を整えています。

たとえば、造血器悪性腫瘍に対する造血細胞移植において、血縁者間での移植に加えて、非血縁者間の骨髄移植や臍帯血移植(さいたいけついしょく)も実施していることは大きな特徴です。非血縁者間での移植、さらに子どもから大人までの全ての年齢層に対応できる病院は限られており、京都府内において数少ない病院の1つです(2020年11月時点)。

造血細胞移植:化学療法や放射線治療で骨髄にあるがん細胞を正常細胞もろとも破壊した後、血液細胞(赤血球・白血球・血小板)の元となる“造血幹細胞”を体内に移植する治療。末梢血・骨髄・臍帯血のいずれかから採取した造血幹細胞を移植に使用する。

多職種によるカンファレンスの様子(小児科)
多職種によるカンファレンスの様子(小児科)

病気そのものに対する治療はもちろん大切ですが、病気によって患者さんが感じている身体的・精神的苦痛を取り除くことも、治療と同じくらい大切なことだと考えています。そのため当院では、緩和ケア外来・緩和ケア病棟を設置し、緩和ケア診療にも注力しています。

緩和ケア診療には、医師、看護師、栄養士、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士などからなる緩和ケアチームが介入し、患者さんの感じているつらさを和らげるケアを行っています。緩和ケアというと“病気の末期”というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、病気の進行の程度にかかわらず、何らかの苦痛がある場合には診療の初期からでも緩和ケアの対象となります。また、ご家族に対する精神的なケアも緩和ケア診療の一環として実施しています。

多職種が連携してカンファレンスを行う
多職種が連携してカンファレンスを行う

患者さんが満足感を得られる病院とは何かを考えたとき、まずは病院で働いている職員が「毎日充実しているな」、「ここで働いてよかったな」と思える病院であることが重要と考えています。

職員の気持ちは患者さんやご家族に簡単に伝わります。ピリピリした雰囲気は、患者さんやご家族をとても不安な気持ちにさせてしまいますが、反対に職員が笑顔で仕事をしていれば、皆さんも安心して病院を利用できることでしょう。

そこで数年前から、有志が集まり、職員満足度を向上させるための取り組みを行っています。その中で生まれたアイデアの1つが“ハッピースマイルカード”です。これは、やってもらって嬉しかったこと、助かったことなどを書いて、相手に日頃の感謝の気持ちを伝えるカードです。

ありきたりなことかもしれませんが、お互いに感謝の気持ちを伝え合う文化を醸成することは、病院にとって非常に大切なことだと考えています。また、これはトップダウンによるものではなく、職員同士のアイデアで生まれたボトムアップによる取り組みであるということが、意味のあることだと思っています。

私はいつも職員に、「この病院で働いていることに誇りと責任を持って、自分自身がこの病院で何ができるのかを考えて欲しい」と伝えています。一人ひとりの職員が、自分は病院を支えているのだという当事者意識を持って働ける場所にすることが、職員満足度の向上、ひいては患者さん満足度の向上につながると考えています。

ハッピースマイルカード
ハッピースマイルカード

当院では、地域の医療機関と密に連携しながら、“2人主治医制”を推進しています。2人主治医制とは、患者さん1人に対して、地域の医療機関のかかりつけの医師と当院の医師の2人が主治医として連携しながら、患者さんの検査・治療を継続的に行っていくことです。普段の診療はかかりつけの医師の下で行っていただき、高度な検査や治療が必要となった場合には当院に受診をしていただきます。

地域の中で各医療機関がしっかりと役割分担を進めていくことで、患者さんが必要なときに必要な医療が受けられる体制を構築していきたいと考えています。

医師の中には、医師が患者さんの病気を治していると考える方がいますが、私はそうではないと思っています。私が日頃から若い先生方に伝えているのは、「患者さんの病気は、患者さんが自身の力で治すのであって、医師はそれを支えているに過ぎない」ということです。

また、患者さんはある意味、私たち医師にとっての“先生”であるとも考えています。なぜなら、医師は患者さんを診療することで学び、成長することができるからです。

ですから、若い医師の先生には、常に謙虚な姿勢を持ち、一人ひとりの患者さんに寄り添っていただきたいと思います。その中で、“どう支えていくのか”について熟慮しながら、一人ひとりの患者さんに適した医療を提供していただきたいと思います。

当院は、以下の3つの理念を掲げています。

  • 市民のいのちと健康を守ります
  • 患者中心の最適な医療を提供します
  • 地域と一体となって健康長寿のまちづくりに貢献します

この理念にあるように、当院はこれからも地域の医療機関をはじめとするさまざまな機関と連携を図りながら、患者さんの気持ちに寄り添った医療を提供していきたいと考えています。病院を利用される患者さんやご家族の方々に、「この病院で治療を受けてよかったな」と思っていただけるような病院づくりを目指していきます。

受診について相談する
「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

「受診について相談する」とは?

まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

  • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
  • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。