心臓・大血管疾患、脳血管疾患の治療に強みを持つ兵庫県立姫路循環器病センター(以下、姫路循環器病センター)。これまで専門的な治療に特化してきましたが、2022年には高齢化社会のニーズに応える形で、736床、34診療科を有する総合病院として大きく生まれ変わります。今回は、同院の院長である木下 芳一先生に、病院の特徴や新病院開設に向けた思いなどについてお話しいただきました。
姫路循環器病センターは、姫路市における最初の県立病院として1981年に開設しました。主に、心臓・大血管(末梢血管を含む)や脳血管に生じる病気の診療を得意としており、循環器内科・心臓血管外科・脳神経内科・脳神経外科を中心に、日々多くの患者さんの診療にあたっています。これらの病気に対する待機的な治療はもちろん、緊急を要するような急性期治療にも尽力しています。
それでは、当院の4本柱である、循環器内科・心臓血管外科・脳神経内科・脳神経外科についてご紹介します。
循環器内科では、狭心症や急性心筋梗塞といった虚血性心疾患に対するカテーテル治療(PCI)を年間600件以上、不整脈に対するカテーテルアブレーション治療を年間350件以上実施しています(2020年10月時点、2016〜2019年度実績)。そのほか、大動脈弁狭窄症に対する“経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)”、僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療“マイトラクリップ(Mitraclip)”などの低侵襲治療にも取り組んでいます。
心臓血管外科では年間300件以上の開心術を実施しています(2020年10月時点、2017〜2019年度実績)。通常の心臓手術はもとより、複合手術や弁形成術などの難易度が高い手術も精力的に手がけています。また、ハイリスクといわれている再手術症例の手術も積極的に実施しています。さらに、胸部大動脈・腹部大動脈瘤に対する血管内治療(TEVAR、EVAR)も積極的に行い、年間100件以上の症例数を誇ります(2020年10月時点、2017〜2019年度実績)。このように、低侵襲手術から高難易度手術まで幅広い治療範囲をカバーしております。
循環器内科や心臓血管外科には、一刻一秒を争う状態の患者さんが日々搬送されてきます。スピーディな治療が求められるうえに、もともとどんな病気を持っていて、どんな薬を服用しているかまったく分からない状況も多々あります。
そのような厳しい状況のなかで迅速かつ適切に治療を進めていくためには、誰か1人の力に頼るのではなく、一人ひとりの力を結集させてグループで治療にあたる必要があります。当院には24名の循環器内科医、10名の心臓血管外科医が総力をあげて難易度の高い心臓・大血管治療にあたっています(2020年10月時点)。
脳神経内科・脳神経外科では、脳血管疾患を中心に脳に生じるさまざまな病気に対応しています。脳神経内科では、神経免疫疾患(重症筋無力症や多発性硬化症など)や神経変性疾患(パーキンソン病など)の診療も行います。
また、脳神経外科には日本脳神経血管内治療学会認定の脳血管内治療専門医が3名在籍しています(2020年10月時点)。そのため24時間365日、急性期の脳血管疾患に対する脳血管内治療(カテーテルを使って行う治療)ができる体制が整っています。
先述した4つの診療科をサポートする形で診療を行っているのが、外科(主に消化器外科)、糖尿病・内分泌内科、形成外科、放射線科、高齢者脳機能治療室、麻酔科、リハビリテーション科です。心臓・大血管疾患や脳血管疾患の治療と同時に、糖尿病や四肢の潰瘍などほかの病気に対する治療が必要な場合には、これらの診療科が介入します。
高齢者脳機能治療室では、認知症の診断・治療から、必要な介護サービスが受けられるようなサポートなどを行っています。認知症と一口にいっても、その病態は患者さんごとに大きく異なります。そこで、高齢者脳機能治療室では、地域の開業医からご紹介いただいた患者さん一人ひとりに合わせて細かい治療方針を決定します。当院での診療後は、開業医の先生の下で治療を継続していただきます。認知症診療に関する地域の司令塔のような役割を担っています。
ここまでお話ししてきたように、当院は長らく心臓・大血管疾患や脳血管疾患の診療に特化してきました。しかし近年、高齢の患者さんの増加に伴い、複数の病気を同時に抱えている患者さんが増えています。たとえば、心臓疾患の急性期治療を行うと同時に、糖尿病やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)といった持病の管理も行わないといけないというような状況が増えてきたのです。
そこで、近隣にある製鉄記念広畑病院と統合する形で、2022年にさまざまな診療科を有する総合病院を開設する準備を進めています。中播磨・西播磨医療圏における大病院となり、ベッド数は736床を予定しています。すでに、製鉄記念広畑病院の先生に診療に来ていただくなど人材交流を通して連携を深めており、開設直後からスムーズに医療を提供できるよう、着々と準備を進めております。
新病院の開設にあたり掲げている2つの大きなミッションが、“救急医療の充実”と“人材の育成”です。
姫路市を中心としたエリアの問題点として、総人口に対する医療人材が不足しているという問題があります。736病床の大病院となるからには、救急医療を必要とする患者さんをお断りすることなく受け入れることを目指しています。
そして、それを実現させるためには、地域で活躍できる人材を育成する必要があります。新病院には、関連施設(獨協学園医療系高等教育・研究機構や兵庫県立大学医産学連携拠点)と連携して共同研究を進められるような教育研修棟を建設予定です。さらに医学研究を深めることができる環境を整備することで、多くの医師に集まっていただけるような病院にしたいと思っています。
新病院開設に向けて準備を進めていることの1つが、“PFM(Patient Flow Management)”です。これは、患者さんの入院から退院までのマネジメントを一貫して行うことです。
PFM実現に向けて、まずは入院前から入院に至るまでのマネジメントを実施しています。
たとえば、万全の状態で入院・手術に臨んでいただくために、入院予定の患者さんに看護師がお電話をして体調を確認することで、体調不良による手術の延期、入院期間の延長を防ぐ取り組みを行っています。
今後は、退院後のマネジメントについても少しずつ強化していきます。たとえば、退院後にリハビリテーションのためにほかの病院への転院が予想される場合には、あらかじめ転院先の病院への見学・申し込みを行うサポートができる体制を整えていく予定です。
当院は、人材育成に非常に大きなエネルギーを投資しています。心臓・大血管疾患や脳血管疾患を専門とする病院であるため、難易度の高い治療が求められることも多々あります。この特性を生かしながら、専門的な臨床研究を多く実施し、また学会活動も盛んに行っています。著名な英文雑誌にも、当院から多数の論文が掲載されています。
また先述しましたが、新病院には教育研修棟が建設されるため、さらに多くの医学研究ができる環境が整うでしょう。私自身、院長に就任するまでは20年以上大学教授として教鞭をとってきました。その経験を生かしながら、これからも若手の先生方の成長を後押ししていきたいと考えています。
病院には、皆さんの命を守る使命があります。ですから、救命救急をしっかり行うことはもちろん、病気を未然に防ぐための予防医療の実践も、病院が持つ大きな役割だと考えています。
県立病院というと、もしかすると敷居が高いと感じている方も多いのではないでしょうか。しかし決してそのようなことはなく、当院は地域の皆さんが気軽に利用できる施設でありたいと思っています。もし、地域の開業医の先生に高血圧や不整脈など気になる指摘をされた場合には、ぜひ紹介状を持って当院にお越しください。その病気を専門とする医師の下で、命に関わる状態を未然に防ぐための治療や生活習慣の改善に取り組んでいただきたいと思います。地域の皆さんに寄り添った医療を提供し続けていくことが、私たちの願いです。
兵庫県立はりま姫路総合医療センター 病院長
木下 芳一 先生の所属医療機関
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