兵庫県明石市にある兵庫県立がんセンターは、兵庫県の都道府県がん診療連携拠点病院やがんゲノム医療拠点病院に指定されている、県内のがん診療の中核を担う存在です。
ほぼ全てのがんの治療に対応し、先進的な治療の提供も積極的に行っている同院の役割や今後について、病院長である富永 正寛先生に伺いました。
当センターは、1962年に神戸市生田区(現在は中央区)に設立された“兵庫県がんセンター”を前身としています。その後、兵庫県立成人病センターとして1984年に明石海峡大橋や淡路島から程近い明石市に移転しました。2007年には兵庫県立がんセンターと再度名称変更し、国から都道府県がん診療連携拠点病院、2019年にはがんゲノム医療拠点病院の指定を受け、現在は360床、23診療科を擁する兵庫県のがん診療の中核的な病院となっています。
当センターの役割としてまず挙げられるのは、高い質と安全性を保ちながらがん医療を提供することです。2021年における全国集計データによると、当センターのがん登録患者数は、がん診療連携拠点病院を中心とする全国870施設のうち31位、西日本では7位で、全国的にもがんを診る代表的な病院となっています。また、頭頸部のがんや血液のがんなどを含むほぼ全てのがんの治療が可能で、希少がん、難治性のがんにも対応しています。加えて臨床試験・治験をはじめ先進医療にも積極的に取り組んでいます。
また、多くの診療科が揃い多職種によるチーム医療を行っていることで、他臓器転移が起きた場合や精神的・肉体的サポートが必要になった時など、さまざまな状況に対し院内ですばやく対応できることも特長です。さらに、病状が進んだ場合に院内の緩和ケア病床やスムーズな連携体制をとっている周囲の医療機関で緩和ケアを継続していただくこともでき、初診時検査から退院後のケアまで一貫した診療体制を整えることが可能なことも当院ならではの特長といえるでしょう。
当センターでは各診療科の指導医・専門医・技術認定医等を含むエキスパートが、手術・化学療法・放射線治療というがん治療の3本柱による集学的治療を支えています。手術では低侵襲(体に負担が少ない)であることを基本とし、鏡視下手術を中心にロボット手術も導入して治療を行っています。外科手術はどの臓器でも盛んに行われていますが、とくに子宮頸がんや卵巣がん、子宮体がんの手術件数は全国でも有数の施設です。さらに脳神経外科では悪性・良性の腫瘍に対する手術を積極的に始めています。
また内科系の診療科では、従来の入院化学療法から外来化学療法へシフトして治療を行っています。加えて臓器横断的ながんゲノム医療にも積極的に取り組んでおり、遺伝子パネル検査を受けていただいた後、治療効果が期待できる遺伝子異常がある場合は当院でも治療を受けていただくことができます。
さらに放射線治療も充実しており、IMRT(強度変調放射線治療)・SBRT/SRS(体幹部/脳定位放射線治療)のような“高精度放射線療法”を行っているほか、比較的新しい治療として神経内分泌腫瘍(NET)に対し体内から放射線を照射する核医学治療(ルタテラ療法)なども行っています。粒子線外来ではたつの市にある兵庫県立粒子線医療センターと連携しているので、粒子線が有効な方には煩雑な手続きなしでスムースに治療を受けていただくこともできます。
当センターの強みは、チーム医療によるがん診療を推進していることです。がんはさまざまな治療法があり、またさまざまな合併症や病態を呈すること、そして診断から終末期まで治療期間・サポート期間が長いことなどから、1人の医師による治療ではなく多職種によるシームレスなチーム医療が求められます。治療後のリハビリテーションや各種の患者サポートも院内での密接なコミュニケーションをもとに実施しています。院内には“緩和ケアチーム”“NST(栄養サポートチーム)”“摂食嚥下支援チーム”など、15以上の専門チームがあり、個々の患者さんに合った最良の医療を提供すべくさまざまな場面で患者さんを支えています。
当センターでは、治験や臨床試験への取り組みも重視しています。院内にゲノム医療・臨床試験センターを設立し、各種分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を用いる多くの治験に参加しています。また希少がんの治療(2023.11.希少がんセンターを設立)や難易度が高い手術にも対応し、先進医療・先端医療を牽引すべく積極的に取り組んでいます。
一方、患者さんから許可を頂いて採取した生体試料(検体)を保存するバイオバンクも設置しており、集めた試料は国内外のさまざまな機関と連携して新しい治療法の開発などに生かしています。
これらの取り組みを通じて将来のがん医療の発展に寄与する企画や人材育成も当センターの役割であると考えていますが、これはなかなか難しく今後の課題になっています。
当センターでは近隣の医療機関との勉強会・交流会の他に、県民の方々を対象に、がんに関する知識の普及・啓発を目的とした院外活動として、がんフォーラム(毎年2月)や地域公開講座(毎年1-2回)を開催しています。最近では、2023年7月に「第3回地域公開講座in 播磨」(がんセンターにおける最新の外科治療 2023)を加古川市総合福祉会館にて、2024年2月には「第21回がんフォーラム」(女性のがんを学ぼう in 2024 ~乳がん・卵巣がん・子宮がん治療の最前線~)をアスピア明石北館子午線ホールにて開催しました。
また院内では毎年患者さんの“心の癒し”を掲げて、職員・医療従事者によるロビーコンサートも開催しています。2023年12月のロビーコンサートでは、ピアノやフルートなどの演奏を披露して約60名の入院や外来患者さんにご参加いただき、笑顔で歌を口ずさむ様子が見られました。これからも患者さんの気持ちが少しでも明るくなるようなコンサートを企画していきたいと思います。
当センターのがん相談支援センターでは主にがんの予防、症状や治療、療養生活、就労、患者会や家族会、がんゲノム医療や遺伝などについて、相談をお受けしています。がんに関することならどんなことでもお聞きいただいてよく、ご相談には専門の先生の意見もお伝えさせていただきます。ご相談は無料ですし、ご本人は勿論、身内の方をはじめどなたでもご相談いただけますので是非ご活用ください。
現在、当センターは老朽化も著しいため新築建替整備を行っており、コロナや戦争の影響を大きくうけて遅延していますが、2027年度中の開院を目標としています。新病院開院に向け、上記にあげた1.がん診療の質と安全性の確保、2.がんに関わる多職種連携チーム医療、3.臨床研究を含む先進医療の推進、の3つを主な役割として念頭に置き、診療機能とともに社会的支援や研究機能を兼ね備えた病院を視野に入れています。
当センターは、がん治療における“最後の砦”となることはもちろんのこと、がんの疑い、或いは腫瘍マーカー高値だけでも精査のために受診していただけます。
がん患者さんにとってより幅広く、利用しやすい病院を目指していますので、よろしくお願いいたします。