院長インタビュー

鹿児島県の医療を守る最後の砦――鹿児島大学病院の取り組み

鹿児島県の医療を守る最後の砦――鹿児島大学病院の取り組み
坂本 泰二 先生

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学講座眼科学分野 教授、鹿児島大学病...

坂本 泰二 先生

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鹿児島大学病院は1869年に設立された前身である薩摩藩医学校の時代から、およそ150年もの間、鹿児島県の地域医療に携わってきました。当時から現在まで、鹿児島県内外の多くの病院と連携しながら、常に患者さん目線で寄り添う医療を提供しています。

また、多くの外科手術に対応できるロボット手術センターを有しているほか、鹿児島県唯一の特定機能病院として先進的な医療を開発するための研究も盛んで、“鹿児島大学発の研究”を発表できるよう力を注いでいます。

今回は、鹿児島大学病院の院長である坂本 泰二(さかもと たいじ)先生にお話を伺いました。

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ご提供写真:病院航空写真

鹿児島大学病院は、長年にわたり地域に寄り添いながら高度な医療を開発・提供してきた歴史ある病院です。2005年度より「21世紀に輝くヒューマントータルケア病院」を目指し、病院再開発計画に着手し、2013年竣工の病棟(C棟)、2018年竣工の病棟(B棟)に続き、2024年に新外来診療棟・病棟(A棟)が竣工しました。

新たな棟の完成は、私たちの病院のリボーンを象徴します。新棟は救急疾患を含む難易度の高い手術や治療への取り組みをさらに強化し、患者さんへの治療品質の向上に重要な役割を果たすと期待しています。

当院が位置する鹿児島県の医療の特徴は、離島の多さゆえの密な医療連携です。島が多く、2次医療圏は9つあるため、開業医の先生や地域の病院など多くの病院と連携し、患者さんにシームレスな医療を届けています。2023年における医科全体の紹介率(地域医療機関や他院から紹介されて来院した患者さんの割合)は94.5%で、逆紹介率(急性期医療の終了後、鹿児島大学病院から地域医療機関へ紹介した患者さんの割合)は43.0%です。

当院は他院から紹介を受けたどのような患者さんも可能な限りお断りせず、責任を持って診療いたします。また大学病院として3次救急を担っており、他院では診療が困難な重症度の高い患者さんも受け入れています。患者さんの最後の砦として今後も鹿児島県の医療を守ってまいります。

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ご提供写真:ロボット手術センター設置時の集合写真

当院は県内の医療の最後の砦として、先進的な治療を積極的に取り入れています。設備の面からも、ハイブリッド手術室を設置し手術支援ロボットである“ダヴィンチ”に加えて、“ヒノトリ”を導入するなど先進の低侵襲医療に貢献しています。

ロボット手術には、ブレなどがなく精緻な手術ができるうえ、手術時の切開部が小さいために患者さんの負担が少ないという特徴があります。当院のロボット手術センターは米国製の“ダヴィンチ”や国産初の“ヒノトリ”などの新しい機器を導入し、保険適用で行えるほぼ全てのロボット手術が行える施設となっています。今後もロボット手術の技術向上に尽力し、より安全で患者さんの負担が少ない医療の提供に努めたいと考えています。

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ご提供写真:ロボット手術

当院では特に産婦人科で国内をリードするロボット治療を行っています。同科の小林 裕明(こばやし ひろあき)先生は、世界初のヒノトリ婦人科認定術者*としてヒノトリによる手術の国内普及のために活躍しており、当院でヒノトリによる世界初の種々の婦人科手術を執刀しました。今後は耳鼻咽喉科(じびいんこうか)や心臓血管外科など、保険適用手術の分野にもロボット治療を拡大する予定です。

*ヒノトリ認定技術者:株式会社メディカロイド規定のトレーニングを受け資格を取得した医師

心血管疾患の治療においてもより患者さんの負担が少なくなる治療を提供するために、心血管病低侵襲治療(しんけっかんびょうていしんしゅうちりょう)センターを設立しました。

心臓血管内科と心臓血管外科の連携のもと、低侵襲心臓外科手術(MICS)や経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)などの手術はもちろん、鹿児島県内では唯一(2023年11月時点)当院で受けられる心房中隔欠損症や卵円孔開存への特殊なカテーテル治療や、心臓が原因となる脳梗塞(のうこうそく)の予防を目的とした経皮的左心耳閉鎖術(WATCHMAN)など、低侵襲な治療を提供しています。

当院ではこれからも患者さんの健康とQOL(生活の質)を守るために、新しい医療技術の提供に努めてまいります。

鹿児島大学病院には歯科もあり、他科との連携による歯科治療や審美歯科治療の提供を行っています。

当院では、2017年から医科と歯科の連携を始め、お互い患者さんのために何ができるかを考え、連携を強めています。たとえば、医科で手術を予定している患者さんを歯科に紹介することもあります。手術になぜ歯科が関係するのかという疑問を患者さんは抱くかもしれません。しかし、術後の肺炎や合併症を防ぐには、術前の口腔(こうくう)ケアが非常に大切です。医科と歯科があるという特徴を生かさない手はありません。術後の合併症がなければ患者さんの負担も減り、在院日数が短くなります。また、化学療法を行うと感染が起こりやすくなるため、化学療法を行う患者さんにも歯科へ紹介しています。

今後も患者さんの治療の合併症を減らしていくために、さまざまな科で、医科と歯科の連携を深めていきたいと思います。

当院の歯科はさまざまな専門外来を充実させており、審美歯科の分野にも力を注いでいます。意外かもしれませんが、インプラント治療*も積極的に実施しており、この分野での進歩に努めています。インプラントに関しては、歯科口腔外科や口腔顎顔面外科などとも連携を取り、患者さん個々の状態に合わせた治療の提案も可能です。

当院では単に歯の治療だけでなく、さまざまな診療科との連携を通じて患者さんのQOLを支えられるような歯科診療の提供に努めています。

*インプラント治療は、治療に必要な全ての処置(薬、X線撮影、入院費を含む)が自費診療となります。

治療の内容:人工歯根(インプラント)に支えられる義歯で失った歯を補う治療法です。

費用:入院せずに外来通院のみの場合、インプラント1本当たり、検査費用:約5万円、手術費用:約20万円、上部構造代:約13万円。静脈内鎮静を併用希望の場合は約3.3万円加算、骨造成が必要な場合は約3~15万円加算されます。また歯の数が増えると検査費用や手術費用が割安になります。

治療期間/治療回数:1か月~半年*/3~5回

*治療完了後も3か月~1年ごとに定期的な検査が必要となります。メンテナンス費用:毎回約4,000円~7,000円

リスク・副作用:金属アレルギーの方は、アレルギー症状が出る可能性があります。また、術後のお手入れが悪い場合にはインプラント周囲炎を起こしやすくなります。

私たちは、ただ地域医療に従事すればよいわけではありません。大学病院であることから研究にも力を入れ、よりよい医療を開発するための研究も盛んに行っています。鹿児島大学病院では各科で、“鹿児島大学発の研究”を発表できるよう日々研究に励んでいます。ここでは現在行われている治験についてご紹介いたします。

現在、がん治療の分野で注目を集めているのは、悪性骨腫瘍(あくせいこつしゅよう)に対する新たな治療法の開発です。当院の探索的医療開発センター センター長、小戝 健一郎(こさい けんいちろう)先生が開発した“Surv.m-CRA-1”という腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞のみを選択的に殺傷する遺伝子組換えウイルスで、次世代のがん遺伝子治療薬としての可能性を秘めています。

鹿児島大学で実施された悪性骨軟部腫瘍に対する治験の第I相試験では、この治療法の高い安全性と有効性が示唆されました。この結果を踏まえ、久留米大学、国立がん研究センター中央病院と共に、2022年2月より多施設共同の治験第II相を開始しています。悪性骨腫瘍は有効な治療法がほとんどない希少がんであり、難治性がんの1つです。しかし、“Surv.m-CRA-1”の開発によりこれらのがん患者さんに新たな希望が見いだされており、当院の取り組みはがん治療の未来を切り開くものと確信しています。

鹿児島県には1,200以上の島があることから、へき地医療も重要な課題です。当院は2018年度に文部科学省の“大学の世界展開力強化事業”に採択され、医学部保健学科が“島嶼(とうしょ)へき地医療コース”を担当することになりました。この事業はグローバルな視点を持つ地域人材や、地域の視点を持つグローカル人材の育成を目指し、2011年度から文部科学省が推進しているプロジェクトです。当院はこの枠組みを活用し、2020年度は米国および韓国の学生と共にCOVID-19に関する国際的な健康戦略をテーマにしたオンライン国際協働学習を実施しました。

また、2021年度には、離島に住む高齢者宅へのバーチャル家庭訪問を教材にしたチーム医療実習を米国および韓国の学生と共に行いました。そして2022年度には事業の最終年度を迎え、“島嶼へき地医療コース”のクロージングフォーラムを開催。米国・ベレアカレッジや韓国・中央大学校の講師や卒業生が参加しました。これらを通じて当院は、離島での医療に関わる人材の育成に多大な知見を得ることができました。

鹿児島県では、農業地域で過疎化が進む大隅半島や、どうしても大きな病院へのアクセスが難しい島嶼部があります。当院は、今後もこれらの地域への医療を担い、責任を果たし続けることを強く意識しています。

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ご提供写真:坂本 泰二先生(新規採用者へ向けた病院長講話の際の様子)

当院ではただ単に医学の技術を教えるだけでなく、若い医師が患者さんと共に成長し、人間としての深みを増すような教育環境を目指しています。医師という職業は社会にとって不可欠であり、大きなやりがいを感じる仕事です。しかし、医師だけで社会が成り立つわけではありません。周囲の状況や社会全体を考慮しながら、包括的に成長していくことを期待しています。

また私は、患者さんに寄り添い、笑顔と明るい雰囲気を大切にすることで、よりよい医療環境が作り出されると考えています。そのため、当院での学びの中では心理的安全性への配慮も重視し、若い医師たちが患者さんのための医療を学び、実践するうえで円滑なコミュニケーションができるような環境を作っています。

“大学病院への受診はハードルが高い”と思われがちですが、私たちは地域住民の皆さんや地域の医療者の方々が安心して頼れる病院を目指し日々努力していますので、気軽に頼っていただければ幸いです。

当院が存在することで地域の皆さんが安心できるような環境を提供することが、私たちの使命です。難しい病気に直面したとき、鹿児島大学病院は“最後の砦”として皆さんを支えたいと考えています。

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