院長インタビュー

2024年に開院し、地域の救急と急性期医療に励む済生会新潟県央基幹病院

2024年に開院し、地域の救急と急性期医療に励む済生会新潟県央基幹病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]院長インタビュー

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新潟県三条市にある社会福祉法人恩賜財団 済生会新潟県央基幹病院(以下、済生会新潟県央基幹病院)は、三条総合病院と県立燕労災病院の統合により、計400床の急性期病院として2024年3月に開院しました。県央地域全体のひっ迫した救急医療の改革や、高齢化に対応した医療体制の構築などを進めています。そんな同院の特徴と思いについて、院長の遠藤 直人(えんどう なおと)先生にお話を伺いました。

*病床数や診療科、医師、提供する医療の内容に関する情報は、2024年9月時点のものです。

先方提供
済生会新潟県央基幹病院ご提供

当院の建つ三条市は東西に五十嵐川が流れ、市西部では日本最長の大河である信濃川の分水路を望むことができます。新潟県のほぼ中央に位置するため交通網が発達しており、新潟県随一の金属加工技術の集積地としても知られる活気ある一大工業都市です。

その一方で、三条市を含む県央地域は、ひっ迫した救急医療や医師の不足に長年悩まされてきました。たとえば圏域における約8,000件にのぼる救急搬送のうち、4人に1人は新潟市や長岡市など圏域外の都市に搬送されており、長引く搬送時間が課題です(2024年時点)。また、小規模から中規模の病院が多数存在することによって医師が分散し、各病院の受け入れ体制が縮小していることも問題視されていました。

このような状況を打破するため、当院は“県央地域の患者さんは、県央で診る”を使命として2024年3月に診療をスタートしました。まだ開院して間もない当院ですが、地域を支える中核的な病院として職員一同で医療活動に励んでいます。

当院はER型救急の体制を整備しています。ER型救急とは病気の種類や重症度、年齢の区別なく救急搬送を受け入れ、救急医が初期治療を行う北米型の救急医療モデルを指し、救急患者さんに対する迅速な初期診療が可能です。当院は処置室5床、経過観察室5床、診察室4室を備え、たとえ複数の救急搬送が重なったとしても患者さんを並行して診療できる体制を整えています。

県央地域の約8,000件の救急搬送のうち、圏域内でカバーしている割合は約75%に止まりますが、近隣の医療機関と連携して95%まで引き上げることを目指しています。そのなかで、当院は救急医療の“最後の砦”として年間6,000件ほどの救急搬送に対応できるよう、受け入れ体制の構築に努めています。

県央地域の医療再編により、一般的な診療は地域の県立病院などに集約しました。それに伴い、当院の外来は原則として完全紹介予約制となり、重症の患者さんや専門的な診療を要する急性期医療に特化しています。今回の医療再編の目的は、第一に圏域外への救急搬送を避けることですが、同時にそれぞれの医療機関の強みを活かし、地域医療レベル全体の底上げも狙っています。

当院は、医療再編の対象となった新潟県立吉田病院、新潟県立加茂病院、新潟県済生会三条病院の急性期機能を集約しており、400床の病院規模を活かした総合病院です。特に専門性の高い一部の治療については、新潟・中越圏域の救命救急センターと連携し、全方位に対応できるような医療体制を構築しています。

県央地域の総人口は21万7,000人で、うち約3万7,000人、約17%が75歳以上です(2020年時点)。全国的に総人口に占める高齢人口の割合は今後も増加するといわれており、当地域も同様です。これからますます、後期高齢者の方の医療や介護を支えていく必要があるでしょう。

高齢の患者さんは複数の病気を抱えているケースも多くあります。そのため病気だけを診るのではなく、患者さんの心と体を1つとして診る“全人的な診療”が重要です。このような観点で、当院は専門的な30の診療科とは別に、部門を横断した総合診療科を開設し、包括的な診療を提供しています。

また、年を重ねるごとに認知機能は少しずつ落ちていくものです。しかしながら加齢によるもの忘れと認知症に伴うもの忘れには、いくつかの違いがあります。短時間の診察だけでは判断できないこともありますが、我々は薬の飲み残しや会話の変化に注目し、積極的にコミュニケーションをとることで病状の把握に努めています。患者さんが訴えている症状だけにとらわれず、全身の状態を考慮した総合的な診療がこれからの時代に求められるでしょう。

当院は、ものづくりの町である地域の特性を生かして、新潟薬科大学や地域の製造業者と連携し、医療機器の開発や人材育成に取り組む計画を進行中です。医療機器と人材育成は一見関係のないように思われるかもしれませんが、医療設備のリニューアルを通じてより高度な医療に挑戦することは、医療従事者の成長機会が生まれ、ひいては医療の質の向上にもつながるのです。

この土地独自の試みとして構想するのは、たとえば近隣の製造業の方々に病院を訪問してもらい、医療現場や患者さんの声を聞きながら、ものづくりの視点で「こんな製品があったら便利ではないか」「この製品はもっとここを工夫できるかもしれない」というような会話ができたら、そこから新たに生まれるものがあるかもしれません。ものづくりと医療が物理的に近いこの立地だからこその可能性を、今後さらに模索したいと思います。

3月の開設以来、すでにたくさんの患者さんに来院いただき、ありがたい限りです。しかし当初の見込み以上の救急患者さんが来院しており、医療再編の狙いであった、当院の使命である専門的な急性期医療に注力しきれていない現状も明らかになってきました。このようななかで、地域の皆さんにおかれましては、まずはかかりつけの病院で診察を受けていただき、専門的な医療が必要な場合は紹介状を持って当院にお越しいただければ幸いです。

病院とは、地域の皆さんと一緒に作っていくものだと思います。決して一方通行ではなく、地域のニーズを敏感に察知し、病院も常に変化していかなければなりません。このたびの大がかりな医療再編においては不安を感じる地域の方々もいらっしゃいましたが、おかげさまで順調なスタートを切ることができました。職員一同、あらためて気持ちを引き締め、県央地域の救急医療と急性期医療の担い手として全力で取り組んで参ります。

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