院長インタビュー

中西讃の“最後の砦”として地域医療の中核を担う香川労災病院

中西讃の“最後の砦”として地域医療の中核を担う香川労災病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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香川県丸亀市にある香川労災病院は、香川県中西讃地域の基幹的な病院です。ICUとHCUを備えた高度な医療体制を整え、救急医療やがん診療の充実、地域医療連携の強化など、時代のニーズに応じて機能を拡充してきました。地域がん診療連携拠点病院や地域医療支援病院など、多くの指定を受ける地域医療の中核としての役割や今後について、院長である吉野 公博(よしの きみひろ)医師に伺いました。

当院は1956年(昭和31年)に内科、外科、整形外科の3診療科と病床数40床をもって開院し、現在は、19診療科、病床数404床(ICU8床、HCU8床)の規模にまで発展し、急性期・救急医療、がん診療・治療、労災医療、地域医療の提供に力を注いでいます。

急性期・救急医療では、24時間365日対応できる救急医療体制を整えています。平日日中は当番制、休日・夜間は内科系、外科系、麻酔科の3名体制で対応し、ほぼ全ての重症例に対応可能です。250m2を超える救急処置室や感染症対応の陰圧診察室、ICU8床、HCU8床を備え、大規模災害にも対応できる設計となっています。

救急では、一刻を争う心臓と脳の分野に特に力を入れており、救急隊との緊密な連携によって迅速な治療が可能です。心臓に関しては、循環器内科が全力で対応し、心臓マッサージを行いながら心臓カテーテル治療を行うことも可能なほか、心臓血管外科の対応が必要な場合には、県内の病院や岡山県の病院にバックアップしていただいています。急ぎの場合には香川県立中央病院や岡山大学からのサポートを受けています。脳神経外科では脳卒中から脳腫瘍(のうしゅよう)まで幅広く対応し、一次脳卒中センター(PSC)のコア施設として、西讃地域の脳卒中治療の中核を担っています。

また当院は労災病院として勤労者医療を積極的に行っており、職業関連疾患の予防から治療、リハビリテーション、職場復帰までを総合的にサポートしています。特に当院は、労災病院全体で推し進めている“治療就労両立支援モデル事業”に参加し、がん患者さんの治療と職業生活の両立を支援しています。

さらに当院のがんサロンでは、がん認定看護師が患者さんやご家族のサポートを行うことでがん治療と仕事の両立を支援するための仕組みも整えています。このような取り組みを通じて、患者さんががんに罹患した場合でも、仕事を続けながら治療を受けられる環境を提供することに力を入れています。

地域医療への取り組みとしては、地域医療支援病院として近隣の医療機関との密接な連携のもと、“地域が1つの医療機関”として機能することを目指しながら、地域の医療従事者向けの専門研修会を開催し、地域医療のレベルアップに貢献しています。

当院は地域がん診療連携拠点病院として、手術、放射線療法、化学療法の3本柱による1人ひとりに合わせた集学的治療を行っています。さらにがんゲノム医療にも取り組んでおり、質の高いがん医療を提供しています。

手術においては、ロボット支援手術機器“ダヴィンチX”の導入などにより、精密で低侵襲な手術が可能となっています。放射線療法に関しては、2023年から新しい放射線治療装置“リニアック(Varian)”を導入したことで、高エネルギーの放射線を従来よりも精度高く照射でき、より正確かつ幅広いがん治療に対応しています。また化学療法では、外来化学療法室にて、快適なリクライニングシートで日帰りや入院での抗がん剤治療が受けられます。これらを組み合わせることで、たとえば消化器がんで術前に化学療法と放射線療法を行って腫瘍を小さくし、手術を実施するといったアプローチも取り入れています。

先方提供
外来化学療法

がんゲノム医療とは、患者さん一人ひとりのがんの特徴に合わせた個別化医療を目指す先進的なアプローチです。当院は岡山大学と連携してがんゲノム医療にも積極的に取り組んでおり、がんの治療において広い選択肢を提供しています。がんゲノム外来では、“がん遺伝子パネル検査”という方法を用いて、患者さんのがん細胞における遺伝子の異常を網羅的に調べます。この検査結果に基づいて、がんの特徴に合わせた治療法を提案することががんゲノム医療の目的です。

検査の流れとしては、まず主治医にがんゲノム外来の受診希望を相談し、検査に必要ながんの組織検体を準備します。その後、がんを専門としている医師が検査について詳しく説明し、検査を実施して結果を分析します。分析結果は、多分野の専門家からなる“エキスパートパネル”で検討され、患者さんに合った治療法が提案されます。この検査により、効果が期待できる承認済みの治療薬や、参加可能な臨床試験、治験、さらには海外で承認されている薬剤の情報など、さまざまな治療法の提案が可能になる場合があります。ただし、現時点では検査結果に基づいた治療を受けられるのは約1割程度と想定されており、まだ発展途上の分野であることをご理解ください。また、がんゲノム外来は検査外来であり、検査後の実際の治療は主治医の判断によって行われます。検査費用については、一部の条件を満たす場合に保険診療の対象となることがあります。がんゲノム医療は、個々の患者さんに合った治療法を見つけるための新しいアプローチですが、その可能性と限界を正しく理解し、主治医とよく相談しながら進めていくことが大切になります。

がんの治療の進化は日進月歩です。当院ではがん患者さんのデータを全国的に集めて研究に生かす“院内がん登録”への参加や、地域での各種研修会の実施などを通じ、地域がん診療連携拠点病院としてがん医療の向上に貢献していきたいと考えています。

当院ではがん治療で患者さんを多く集める医師が多く在籍しています。たとえば乳腺外科の村岡篤先生は豊富な手術経験で多くの患者さんから信頼を寄せられており、産婦人科部長である川田昭徳先生は、婦人科系がんの手術に、高い水準の治療を提供しており、その治療症例数も多くなっています。

また、胸部がんの治療に対応する病院が地域では当院だけになっていることもあり、意欲的に取り組んでいます。頭頸部(とうけいぶ)がんに関しては耳鼻科が主導し、形成外科医2名と連携して再建手術も対応可能です。泌尿器がんではダヴィンチを使った治療に力を入れており、多くの患者さんがいらっしゃっています。

我々は“中西讃地域の医療の最後の砦”という責任感のもと、日々全力で診療に取り組んでおります。また、新しい血管撮影装置や全身SPECT装置・高性能放射線治療装置を導入し、ほぼ全科での高度な治療、そしてがん治療に不可欠な検査の精度向上も図っています。

これらの取り組みは、地域の皆さんにより良い医療を届けたいという熱い思いから生まれています。コロナ禍における感染症法の位置づけ変更後も、当院では院内感染防止対策を継続しておりますので安心してご来院ください。

もし体調で気になることが起こった場合は、まずは近くのかかりつけの先生に診ていただき、必要であれば当院へ紹介いただくようお願いいたします。昨今の厳しい医療情勢の中にあっても、地域の先生方と手を取り合いながら中西讃地域唯一の“最後の砦”としての役割を全うし、皆さんに信頼され続ける病院として、地域の皆さんに質の高い医療を提供することを使命とし、共に歩んでいく決意です。どんな小さなことでもご相談いただければと思います。

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