神奈川県大和市にある大和成和病院は、循環器医療に特化した病院です。1996年に心臓病センターを開設して以来、毎年数多くの手術を行っています。緊急を要する外科手術に対しては、24時間365日対応するなど、地域の救急医療も担っている同院の役割や今後ついて、院長の倉田 篤先生に伺いました。
当院が開院したのは1983年12月です。1996年に心臓病センターを開設して以来、心臓血管外科では年間400件を超える心臓病手術を行い、循環器内科では年間600~800件*近い手術(経皮的冠動脈インターベーション**など)を実施する、循環器疾患に特化した病院へと成長してまいりました。
当院がある大和市南林間周辺には、市内最大級の定住型マンションが建設され、ファミリー層を中心に人口が増えています。日本全体でみると高齢化が進んでいますが、周辺は若年化が進んでおり、今後も医療需要が増していくと予想されています。しかし、周囲には病床数が200以下の比較的小規模な病院が多く、大学病院はありません。一番近いのが相模原市の北里大学病院で、ここから20kmは離れているでしょうか。そのため、分業制のように、互いに連携しながら急性期の患者さんを診ています。特に当院は循環器に特化した病院ですので、循環器の患者さんは近隣の病院から紹介されることが多いです。
*年間手術件数……
心臓血管外科/2021年度:511件、2022年度:481件、2023年度:476件
循環器内科/2021年度:1,241件、2022年度:1,301件、2023年度:1,222件
**経皮的冠動脈インターベーション(PCI)……脚や腕、手首などの血管からカテーテルを差し込んで、冠動脈の狭くなった部分を治療する治療法。
当院がある大和市は、2次医療圏としては県央圏域に属します。しかし、横浜地域と湘南地域、東京の南多摩地域の4つの医療圏に接しており、国道や高速道路が近くて交通の便もよいことから、相模原や厚木、町田、横浜など、周辺の医療圏から患者さんが搬送されてくることが多々あります。そのため救急連絡網も広範囲で共有しており、おかげさまで多くの救急隊員の方と顔見知りになることができました。
当院は循環器疾患の2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担っており、土日の循環器救急の患者さんは当院が受け入れています。また、心筋梗塞の緊急カテーテル治療に関する依頼は循環器内科が、心臓と大動脈疾患の手術に関する依頼は心臓血管外科が24時間対応し、心臓大動脈疾患の診療要請をいただいた場合には、原則全て受け入れられるよう態勢を整えています。このように、24時間365日、一定水準以上の心臓病手術を提供できるのが当院の特徴です。
当院は1996年に心臓病センターを発足させてから、心拍動下冠動脈バイパス手術や僧帽弁形成術、超高齢者の弁膜症手術など、さまざまな手術を行ってきました。日々多くの心臓手術をこなす心臓外科の執刀医と、それをサポートする麻酔科医*が複数常勤しており、24時間・365日患者さんを受け入れる態勢も整えています。
また、心臓にある弁の異常によって発症する心臓弁膜症では、心臓弁膜症専門外来を開設しています。近年、加齢や動脈硬化などによって引き起こされる弁膜症が増えており、日本における推定患者数は200万~300万人といわれています。弁膜症は軽度のうちはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると動悸や息切れ、疲れやすさなどの症状が現れ、重症になると失神や突然死に至るケースも報告されています。当院では積み重ねてきた執刀経験をふまえて、患者さん一人ひとりに適した治療の提供を目指しておりますので、まずは気軽にご相談ください。
*麻酔科標榜医……米谷 聡先生
患者さんの体に負担の少ない心臓手術を“低侵襲心臓手術 Minimally Invasive Cardiac Surgery”と呼びます。略すとMICS(ミックス)です。MICSは手術の質を下げずに、患者さんの体への負担を少なくした手術のアプローチ方法のことで、胸の真ん中や横を5cmほど切って、そこから心臓の手術を行います。従来の手術では胸の真ん中を20~25cm程度開き、その下の胸骨を縦に切除して行いますので、MICSのほうが早期の社会復帰が可能であり、術後の痛みや出血も少なく、傷あとが目立ちにくいなどのメリットが期待できます。
また、当院にはX線透視装置を持つハイブリッド手術室があり、僧帽弁形成手術などのMICSや大動脈疾患に対するステントグラフト内挿術も実施しています。手術室壁面に8面のハイビジョンモニターを設置し、手術中は胸腔鏡映像などの手術画像や検査所見、バイタルモニターを手術室スタッフ全員で共有するなどして、低侵襲で質の高い心臓手術の提供を心がけています。
心臓病の手術後や、狭心症や心筋梗塞を発症した患者さんは、体に大きなダメージを受けています。そのため、早期回復と早期の社会復帰、そして再発防止には、手術直後から適切に心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)に取り組むことが重要です。そこで当院では、心臓リハビリテーション科を設置し、専門の医師と理学療法士のサポートのもと、心臓リハビリを実施しています。心臓リハビリは手術の翌日にICU(集中治療室)からスタートし、寝返りや起き上がりなどの基本的動作の指導や呼吸の練習を行い、患者さん自身で身動きがとれるようにサポートします。希望者には退院後も継続して心臓リハビリを提供し、患者さんの完全な社会復帰をお手伝いします。
心臓病は患者さんとどのステージで出会うかによって、当院で対応できることや提供できる治療方法が変わります。だからこそ、“今の状態では当院では対応できない”と簡単に断るようなことはしたくありません。“今はこれしかできないけど、ここまで来たら、こういったことができる”といった具合に、長い時間軸で患者さんと付き合いながら、患者さんに寄り添っていきたいと考えています。当院で提供できない医療を必要としている患者さんには、専門的な設備を備えた病院を紹介することもできますし、専門的な知識を持つ先生を招いて治療をすることもできます。患者さんのことを常に第一に考え、心臓疾患の水先案内人のような役割を担っていきたいと考えています。
狭心症や心筋梗塞、不整脈などの心疾患は、突然発症する病気です。そのため、ふだんの食生活や運動に配慮して病気を予防することと、定期健診などによる早期発見と早期治療が重要になります。また、心疾患にかかってしまったら適切な治療を受け、その後はリハビリによる再発防止に努めることも必要となります。当院では心臓病の予防から治療、手術、リハビリまで、全てのステージにおいて適切な医療サービスを提供することが可能です。高い志を持つ心臓外科医と循環器内科医が、24時間365日体制で患者さんの治療にあたっていますので、安心して受診いただければと思います。
また、当院は病床数99床と規模は決して大きくありませんが、循環器医療に特化した病院として、専門的な知識と幅広い経験を持つスタッフが、患者さんに合わせた適切な治療と心地よい入院生活を提供できるよう尽力しています。地域の医療機関の皆さんとも“顔が見える強固な地域連携”を構築し、一丸となって地域の皆さんを守る体制も構築しています。地域の皆さんを“点ではなく面で支える”ため、当院がそのお手伝いをしていく所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
*病床数や麻酔科標榜医、提供する診療内容等についての情報は全て2024年3月時点のものです。