東京都葛飾区にある東京慈恵会医科大学葛飾医療センターは、地域密着型の大学病院として総合診療体制に力を入れている病院です。小児の救急医療や一般診療はもちろんのこと、災害時対応についても地域の各機関と連携し体制を整えている東京慈恵会医科大学葛飾医療センターの地域での役割や今後について、病院長である飯田 誠先生に伺いました。
当センターは、東京慈恵会医科大学の4つの附属病院の1つです。2012年までは東京慈恵会医科大学附属青戸病院という名称でしたが、同年にリニューアルオープンし“葛飾医療センター”となりました。現在は“地域と共生し進化・創造し続ける病院”を掲げ、東京都の区東北部医療圏の中核を担う病院として葛飾区を中心に足立区、江戸川区のほか、千葉県松戸市や市川市、埼玉県三郷市などからも患者さんがいらっしゃる病院となっています。
リニューアルを機に定めた当センターのビジョンは、“総合診療体制・救急医療体制を強化し、同時に医療者への全人的かつ総合的な教育を提供する地域密着型の大学病院”です。今後、この地域でも高齢化が進み、持病を持った方が違う症状で来院されるというケースも多くなってくるでしょう。そのような患者さんに質の高い医療を提供するため、当センターは総合診療と救急医療を柱として地域医療に貢献したいと考えています。
また当センターは災害拠点病院に指定されており、4年に一度、行政、消防、警察、自衛隊と連携しトリアージのフローや、災害時の搬送体制、通信手順などを確認する大規模災害訓練を実施しています。今後もいざという時に地域の医療を守れるよう、関係機関との連携を図り、災害拠点病院としての役割を十分に果たせるよう、日頃から準備を怠らないよう努めてまいります。
当センターは病床数が371床と、附属の4病院のうちでは規模としては小さめの病院ではあります。しかし、その規模だからこそ各診療科の風通しがよく、医師、看護師、コメディカルのそれぞれも良好なコミュニケーションを行っており、これこそが当センターが質の高い医療を提供する際の強みだと言えるでしょう。
2008年に診療を開始した総合診療部では、総合内科専門医が臓器別の専門化医療ではない“全人的医療”の提供を行います。高齢化とともに複数の疾患をお持ちの患者さんは増えており、そのような方の病気を見逃さずに治療を行うため、今後も総合診療に注力していく所存です。
さらには救急体制も強化しており、当センターは地域の救急隊とのホットライン設置により、患者さんの受け入れを迅速化し、1階にある救急部、総合診療部、小児科が連携して迅速な救急診療を行っています。大学の附属病院の責任を果たすべく救急医療に力を入れており、2023年度には9,714人の救急患者を受け入れました。コロナ禍以降毎月患者数は増加しています。
循環器内科は、地域における循環器医療の中核を担い、狭心症の診断においては、従来の冠動脈狭窄以外にも、狭窄を伴わない狭心症や心筋梗塞(最近ではINOCA(イノカ)/MINOCA(ミノカ)と呼ばれています。詳細は当センター循環器内科ホームページをご覧ください)の診断にも力を入れております。治療においては従来のバルーン、ステント治療以外にもバルーンでは拡張できないような血管内に高度に沈着したカルシウム成分(高度石灰化病変)を削り取ったり、衝撃波で粉砕するといったように病変に合わせた最適な治療を行っております。また、不整脈の治療であるカテーテル・アブレーションでは、豊富な症例数と治療実績があります。発作性心房細動の従来治療法として、主に高周波電流を使用する方法、冷却剤を使用する方法がありますが、これに加えて、パルスフィールドアブレーションという最新の治療を開始いたしました。これにより周りの血管等の組織に障害を与えず、標的とする心筋細胞のみを組織選択的に治療することができます。
当該科は、東京都CCUネットワークに加盟し、急性心筋梗塞をはじめとする急性心血管疾患の患者さんを24時間365日受け入れております。近隣医療機関との連携体制を構築し、迅速な診断と治療を提供することで、地域の循環器医療の最前線に立っています。
当センターは、地域における小児医療の重要な拠点として24時間365日の救急体制を構築しています。地域では夜間の小児救急を受けられる医療機関が減少傾向にあるため、今後も小児の救急医療を活性化するべく、システム作りに注力しているところです。
また小児科では、初期診療から専門医療まで幅広い患者さんのニーズに柔軟に対応しています。とくに、小児特有の症状である発熱や嘔吐、下痢、腹痛などに対し、診療の場面では、ご家族と子どもさんとの対話を重視した丁寧な診療を心がけています。
さらに、当センターの特徴的な取り組みが、小児病棟に葛飾区教育委員会とともに設置した院内学級です。通称“ひまわり学級”と呼ばれるこの院内学級は、近くにある青戸小学校の分級として入院中のお子さんの学習支援をしています。このような取り組みを進めることで、地域密着型の大学病院という当センターのビジョンをもっと進めて行きたいと考えています。
当センターで特徴のある診療科の1つとして、地域の医療機関との強い連携のもと、あらゆる腎疾患に迅速に対応できる体制を整えている腎臓・高血圧内科が挙げられるでしょう。慢性腎臓病(CKD)ネットワークの中核医療機関として、腎生検での診断とCKD診療を行うだけでなく、30床ある透析病床での血液透析、腎移植管理、さまざまな透析関連手術にも対応しています。
また、腹膜透析に多くの実績を持つ医師がおり、2022年から2023年の腹膜透析患者数は100名以上と、全国的に見ても非常に多くなっています。さらに腹膜透析や透析関連手術に関しての教科書出版やセミナーを開催するなど、診療技術向上の取り組みも積極的に行っているところです。当センターはこのような取り組みを通じて、地域の腎疾患医療をけん引していきたいと考えています。
当センターでは、急性期医療における治療効果を最大限に高め、早期に地域で暮らす患者さんの最良の場所で療養生活を送れるためのPFM(ペーシェント・フロー・マネジメント)システムを導入しています。これは、入院前から患者さんの身体的、社会的、精神的背景を丁寧に把握し、全人的医療と最適な治療環境をサポートする取り組みで、患者さんの入院日数が短くなる、ご自宅への復帰率が高まるといった効果が出ています。
具体的には、入退院・医療連携センターが入院予約時から患者さんの詳細な情報収集を行い、術前指導や生活指導を実施します。また、退院後に後方病院や施設への転院が必要と思われる場合は、入院前から、医師、看護師、ソーシャルワーカー、地域医療関係者と連携しその調整やサポートを行っています。とくに、退院直前のタイミングで探し始めるのでは必要以上に待機期間ができてしまう場合もあり、患者さんやご家族のストレスにもつながります。そのため、入院前から退院後のことを患者さんやご家族と共有していくことがとても大切なのです。
我々が行っているPFMが効果を上げていることから、現在全国の病院から見学の方がいらっしゃっています。この取り組みをさらに進化させることで、地域の皆さんに貢献できるよう努めてまいります。
繰り返しとなりますが、当センターは“地域と共生し進化・創造し続ける病院”というコンセプトを掲げています。高齢化が進む現在、地域の医療ニーズが年々変化するなかで、我々は周辺医療機関との連携を深めつつ、葛飾区や足立区、荒川区、江戸川区などを中心としたエリアの中核を担う病院として、当センターの総合力を活かし、安心・安全な医療を地域全体で実現できるよう、これからも努力してまいります。
飯田 誠 先生の所属医療機関
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