関節の痛みや腫れを引き起こす関節リウマチは、放置すると関節の変形が進み、日常生活に支障をきたす病気です。海里マリン病院 副院長 谷口 義典先生は、患者さんが治療に対して主体的に取り組めるよう、病気のことや治療の重要性に関する丁寧な説明を大切にされています。今回は谷口先生に、関節リウマチの概要や治療についてお話を伺いました。
私たちの体には、ウイルスや細菌などの外敵やがん細胞から自分の体を守るための防御システムである“免疫機能”が備わっています。関節リウマチは免疫機能に異常が生じることで誤って自分自身を攻撃してしまい、関節の内面を覆っている滑膜に炎症が起こる病気です。
関節リウマチについて患者さんに説明する際、私は火事に例えてお話しをしています。火事と同様に、関節に起こった炎症も放置したり、もともとの火の勢いが強かったりすると滑膜で起こっている“火事(炎症)”はどんどん燃え広がり、関節の中にある軟骨や骨が破壊されていきます。そうなると関節は変形をきたし、日常生活で機能的な支障が生じてしまいます。そのため、関節リウマチの治療ではできるだけ早期に“火事(炎症)”を鎮めることが重要なのです。
発症には遺伝的要因と環境的要因が関わっていると考えられています。遺伝的要因に関しては、親から子ども、孫の世代まで関節リウマチが遺伝するわけではなく、あくまでも“関節リウマチになりやすい体質”が遺伝するとされています。そこに喫煙、歯周病、肥満などの環境因子が影響することで発症につながると考えられています。
主な症状は、手や足の関節の腫れや痛み、こわばりです。関節リウマチという名称から、症状は関節に限ったものと思われる方もいるかもしれませんが、“火事(炎症)”の勢いが続くと火の粉(炎症物質)が全身に広がり、肺や目、血管、皮膚などに機能障害をきたすこともあります。代表的な合併症としては、間質性肺疾患、目の強膜炎、血管炎、肘や膝にみられる皮下のしこり(リウマトイド結節)などが挙げられます。
また、炎症の勢いが続いている関節リウマチの患者さんは、健康な方に比べて心筋梗塞や脳梗塞などの血管障害、悪性リンパ腫、肺がんの発症リスクがやや高まるという報告もあります。
関節リウマチでは発症から約1~2年で急速に関節の破壊が進行することが分かっているため、診断後はできるだけ早い段階でしっかりと適切な治療を行うことが重要です。治療には基礎療法、薬物療法、リハビリテーション、手術療法があります。
関節リウマチと診断されたら、まずは患者さんご自身が病気について正しく理解し、生活の改善を図るための基礎療法を行うことが重要です。
患者さんが長期にわたり主体的に治療に取り組むためには、関節リウマチという病気の性質や、治療の必要性を正しくご理解いただくことが欠かせません。当院では、イラストなどを用いながら病気のメカニズムを分かりやすくご説明したうえで、早期治療の重要性や継続的な治療の大切さをお伝えしています。また、ご本人だけでなく、できるだけご家族にも同席いただき、周囲のサポートを得ながら治療を進められるよう配慮しています。そのうえで、以下のような生活習慣の改善に取り組んでいただくことが大切です。
まず徹底していただきたいのが、禁煙と歯周病ケアです。喫煙や歯周病は関節リウマチの発症に関与するだけでなく病気の進行にも影響しますので、これらへの対策は進行を抑制する観点からも重要です。新たに虫歯や歯周病にならないようにし、虫歯や歯周病の治療が必要な方は関節リウマチ治療と並行して行いましょう。
また、食生活の改善に取り組むことも大切です。近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスが関節リウマチの治療に影響するといった報告も複数あるため、食物繊維を多く含む食材など腸内環境を整える食事を心がけるとよいでしょう。加えて、適度な運動も続けていただきたいと思います。
後述する関節リウマチの治療薬は免疫を抑制する作用があり感染症にかかるリスクが高まるため、帯状疱疹や肺炎球菌、インフルエンザなどを予防するワクチン接種が推奨されます。
また、先述したように関節リウマチでは悪性リンパ腫や肺がんといったがんのリスクがやや高まるため、がん検診を受けてほしいことも患者さんにはお伝えするようにしています。患者さんの中には「関節リウマチの通院で定期的に血液検査をしていればがんも見つかるだろう」と思っている方がいらっしゃいますが、通常の血液検査でがんを見つけることは困難ですので、積極的ながん検診をおすすめしています。
関節リウマチで最初に使用する薬は抗リウマチ薬である“メトトレキサート”です。抗がん薬としても使用されている薬で、関節リウマチに対しては少量を週に1~2日だけ内服します。治療を開始して症状が改善したように見えても炎症がぶり返してくる可能性があるため、症状が消失した後も治療をやめずに続けることが大切です。
起こり得る副作用としては、肝機能障害、口内炎、骨髄抑制などが挙げられます。また、メトトレキサートに対するアレルギー反応として間質性肺疾患を起こすことがあります。そのため、当院では服用後に発熱や空咳がみられた場合、病院とすぐに連絡が取れるようホットラインを設置しており、日中はリウマチ科の看護師が状況を詳しくお伺いできる体制をとっています。治療を行う前には期待される効果だけではなく、こうした副作用についても患者さんに十分に説明し、定期的な血液検査を行いながら副作用の兆候を見逃さないようにしています。
関節リウマチはできるだけ早期に関節の腫れや痛みがない状態にすることが重要です。そのため、メトトレキサートなどの抗リウマチ薬を使っても3~6か月以内に十分な効果が得られなければ、生物学的製剤やJAK阻害薬の使用を検討します。また、腎機能が低下している方や妊娠を希望している方は、メトトレキサートが使用できないので、最初から生物学的製剤やJAK阻害薬を使用することもあります。いずれの薬剤も高額ではありますが、関節の破壊を抑える高い効果が期待できます。一方で、感染症リスクが高まる点には注意が必要です。
関節の痛みがあると日常的な活動が減ってしまいますが、体を動かさないでいると筋力が落ちたり、痛みがより強くなったりすることがあります。そのため、症状が強い時期をのぞいて、リハビリテーションなど適度な運動を続けていただきたいと思います。筋力の維持・向上は日常生活の質にも直結しますし、治療後の社会復帰にもつながります。
また、薬物療法の進歩により近年は減ってきてはいますが、必要な患者さんには人工関節置換術などの手術を行うこともあります。当院ではリウマチ科と整形外科が緊密に連携しながら手術の必要性やタイミング、手術方法を検討しています。
以前、母娘共に関節リウマチの治療をしている方がいらっしゃいました。定期的に通院して治療を続けるなかで娘さんが妊娠されたのですが、お母さんは当初はとても驚かれ、悲観されていました。「妊娠の影響で症状が急激に悪化するのではないか」「無事出産することはできないのではないか」など、これまでお母さん自身が治療を続けてきたなかでの知識や不安、イメージに基づいた思いから娘さんの将来を心配されていたのです。
実は、こうした不安を抱える方は少なくありません。だからこそ私は、若い患者さんやご家族に対し、早い段階から将来の妊娠・出産についてお話しする機会を設けています。
リウマチ治療において大切なのは、まず炎症をしっかり抑えてよい状態をつくることです。そのうえで、メトトレキサートなどの妊娠中には使えない薬は避けて別の薬に切り替えたり、状態を見ながら休薬したりといった治療計画を一緒に立てていきます。今の医学では、適切なコントロールを行うことで健常な方と変わらない妊娠・出産を目指すことは十分に可能なのです。
一方で、妊娠・出産は本来どなたにとっても100%の安全が保障されているわけではありません。年齢的なリスクも伴います。万が一のことがあったときに「関節リウマチのせいで……」とご本人がつらい思いをすることがないように、私は患者さんが妊娠された際にはご家族にも診察に同席してもらい、一緒にお話を聞いてもらうようにしています。家族全員が同じ方向を向いて支え合える体制を事前に作っておくことが大切だと考えているからです。出産後、お子さんを囲んで笑顔のご家族を拝見するたびに、それは患者さん本人の頑張りと、それを支え抜いたご家族の絆の賜物だなと感じます。
近年、高齢の関節リウマチ患者さんが増加しています。高齢者の場合、若い方に比べて急性に発症することに加えて、手足の小さな関節ではなく肩や股関節などの大きな関節で発症しやすいという特徴があります。もともと加齢によって筋力が低下する“サルコペニア”がある状態に加えて関節リウマチを発症してしまうと、昨日まで元気だった方が一気に動けなくなり、車椅子生活を余儀なくされる患者さんもいらっしゃいます。車椅子や寝たきりの期間が長くなるほど筋肉がさらに衰え、炎症が治まったとしても元の生活に戻れなくなる恐れもあります。
先日、90代の患者さんがご家族に抱えられるようにして車椅子で来院されました。ご高齢で腎機能の低下もあり使える薬に制約はありましたが、できるだけ早期に進行を抑えることを最優先にご家族と相談のうえで治療を開始したところ、1か月後には杖をついて歩けるようになり、現在ではおひとりで通院されています。「年だから仕方ない」とあきらめるのではなく、適切な治療を迅速に行えば、再び生活を取り戻せる可能性があるのです。
約30年間、関節リウマチの診療に携わってきて、今でも鮮明に覚えている忘れられない患者さんがいらっしゃいます。私が医師になってまだ数年の頃のことです。当時はまだ生物学的製剤やJAK阻害薬が保険適用となる前で、現在のような炎症を抑え込む治療は非常に難しい時代でした。その患者さんは当時20歳の男性で、リウマチが悪化して血管炎を併発していました。全身の血管に強い炎症が起き、血流が滞った足先は壊死し始めていました。痛みは極めて激しく、通常の鎮痛薬ではまったく効果がないため、医療用麻薬を使用せざるを得ないほどでした。
当時の医学で可能な限りの治療を尽くしましたが、病気の進行を止めることはできず、壊死した部位を切除する手術も行いました。ご本人から民間療法を試したいという相談を受けたこともあり、治療が思うようにいかない苦しい時期が続きました。それからしばらくして新しい薬が保険適用になりすぐに治療を開始しました。その後、私は別の病院に転勤になったのですが、1年ほど経ってからその患者さんが私の元を訪ねてきてくれました。指の一部に欠損は残ったものの、傷はきれいに塞がり、杖を使いながらも自力で歩いて来られた姿を見て、医師として大きな安堵を覚えました。治療薬の進歩が患者さんの人生を救うことを目の当たりにした忘れられない経験です。
ラグビーの世界に「One for all, All for one(1人はみんなのために、みんなは1人のために)」という言葉があります。私は学生時代にラグビー部に所属していましたが、この精神はスポーツだけでなく、医療や社会においても非常に大切な考え方だと感じています。
関節の痛みや腫れ、こわばりといった症状を抱えながら「年齢のせいだから」「これくらいは仕方ない」と1人で納得し、あきらめてしまっている方は少なくありません。しかし、1人で問題解決や治療にあたるのではなく、自分の希望に寄り添ってくれるご家族や医療スタッフと一緒に力を合わせていくことが大切です。また現在は、できるだけ早期に治療を開始することで、病気の進行や症状を抑えることを目指せるようになってきています。日常生活の中で関節の痛みや腫れなどで不便を感じている方は、まずは一度病院を受診していただきたいと思います。
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