インタビュー

大人のりんご病―頬ではなく手足に発疹がでやすい

大人のりんご病―頬ではなく手足に発疹がでやすい
清水 博之 先生

藤沢市民病院 臨床検査科

清水 博之 先生

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この記事の最終更新は2018年03月06日です。

りんご病は、基本的に重症化しない感染症です。子どものりんご病とは症状が異なり、発疹は顔面より手足に出やすいです。妊婦さんなど、りんご病に注意が必要な方への感染を防ぐために、日頃からの手指衛生や咳エチケットが大切です。今回は、大人のりんご病について、藤沢市民病院 臨床検査科の清水博之先生に詳しくお話を伺いました。

りんご病は、「ヒトパルボウイルスB19」というウイルスの感染症です。

りんご病にかかるのは幼児期から学童期(小学校に上がる前後)に多いです。かかった子どもの頬部が赤くなるためりんご病と呼ばれています。

大人の場合は、頬部が赤くなることはほぼなく、手足に網状紅斑、レース状紅斑といった発疹や、関節痛、むくみがでることがあります。

感染してから発疹が出るまでは、3~4週間かかります。発疹が出る2週間ほど前に、熱や頭痛筋肉痛、倦怠感などのインフルエンザのような症状があります。このときにウイルスを排出して他人に感染します。ただのかぜと見分けはつきません。

頬部が赤くなってりんご病の診断がつくのは、すでに治った後のためこの時点ではすでに感染力はありません。

ウイルス感染のため特別な治療はなく、自然に治ります。ただし、妊婦が感染すると赤ちゃんに強い貧血がおこり流産の原因になるため注意が必要です。

りんご病は、年中患者さんがいます。りんご病の流行は4~6年おきにみられ、流行が大きな年は季節性が顕著になり、6~7月がピークになります。
大きな流行がなければ季節性は、はっきりしません。最近の大きな流行な2001年、2007年、2011年、2015年です。

よく問題になるウイルス感染症である麻疹風疹水痘、ムンプスなどと比較すると「ヒトパルボウイルスB19」の感染力は弱く、一般的に大人の間での爆発的な感染は少ないです。家族内でのヒトパルボウイルスB19未感染者の感染率は、半数程度です。

りんご病を起こすヒトパルボウイルスB19の潜伏期間は、4~15日間です。潜伏期間は体内でウイルスが増殖する時期のため、基本的に感染力はないです。ただし、風邪のような症状が出現するタイミングより少し前からウイルス血症は始まります。

ウイルス血症…ウイルスが血液中に入り全身にまわること

りんご病の感染経路は、唾液や気道分泌物(痰など)を介した飛沫感染と、接触感染が中心です。

りんご病は、潜伏期間ののちに高度のウイルス血症が起こります。このときに、無症状か、軽い風邪やインフルエンザのような症状が、数日〜5日間ほど現れます。

その後、以下のような症状がでます。

  • 手足の発疹
  • 関節痛
  • むくみ

ウイルス血症…ウイルスが血液中に入り全身にまわること

大人がりんご病にかかった場合、頬部に発疹が出ること自体まれで、出たとしても手足がメインです。特徴的な頬部紅斑が出ないためしばしば風疹などと誤診されることがあります。

発疹が出る期間は、1日〜5日間ほどです。

発疹は、手足の外側を中心に網状・レース状紅斑が続き、近位から遠位へ拡大します。足底や手掌には出ません。

発疹は、必ずしも網状・レース状紅斑が出るわけではなく、丘疹、紅斑、紫斑、点状出血など、人によってさまざまです。麻疹水痘に似た発疹、強いかゆみをともなうこともあります。

一旦発疹が消えても、気温変化、日光、運動、精神的ストレスなどの刺激で再発することもあります。

りんご病による関節炎は、子どもでは10%未満ですが、大人の場合は60〜80%と高頻度で発症します。特に女性は、男性の2倍多いという報告もあります。(注)

発疹がなく、関節痛の症状だけが出ることもあります。痛みには個人差があり、軽度の方からひどいと歩行困難になるほどの関節痛をきたす方までさまざまです。

りんご病による関節痛は突然起こり、左右対称に痛むことが多くあります。特に手膝足の指の小関節に痛みがでることが多いです。

ときに慢性化し、関節リウマチと似た症状をきたします。しかし、関節破壊は起こらず、通常3週間ほどで軽快します。

(注)Am Fam Physician.2007 Feb 1;75(3):373-6

関節破壊…関節を包む膜が炎症を起こし骨や軟骨が破壊されること

むくみも子どもよりも大人のほうが高頻度です。感染症学雑誌の報告では、大人のりんご病で80%の割合でむくみが出現しています。(注)

四肢(特に指先、足首、足底)がむくみます。指がむくんで曲げづらい、指輪が抜けにくいといった症状が出ることがあります。

むくみの程度は、診察ではわからない程度ものもから、体重が増加するほど高度なものまでさまざまです。

(注)感染症学雑誌 83:45-51,2009

大人のりんご病の発熱に特徴はなく、微熱から高熱まで個人差があります。

感染症学雑誌によると、りんご病による大人の発熱は、37.0〜37.9℃が40%、38.0〜38.9℃が20%、39.0〜39.9℃が20%、不明20%というようにばらつきがあることが報告されています。(注)

(注)感染症学雑誌 83:45-51,2009

妊婦さんがりんご病に感染した場合、胎児水腫になる可能性があります。不顕性感染であっても胎内感染は起こるため注意が必要です。

妊婦のりんご病について詳しくは記事2『りんご病―妊婦が感染した場合の胎児への影響』をご覧ください。

不顕性感染…病原微生物に感染していても症状が出ていない状態

りんご病は赤血球に感染するため、一時的に軽い貧血になります。しかし、以下のような溶血性疾患を持つ方の場合は、もともと赤血球の寿命が健常な方に比べて短いため重い貧血になることがあります。貧血が進行すると心臓に負担がかかり場合によっては輸血が必要になるため注意が必要です。

以下のような免疫抑制者では、ウイルスが排除されず、ウイルス血症*1が持続して慢性の骨髄機能不全、貧血になる可能性があります。

  • 白血病の方
  • HIV感染している方
  • 臓器移植をした方
  • ステロイド*2内服中の方 など

1 ウイルス血症…ウイルスが血液中に入り全身にまわること

2 ステロイド…炎症を抑えたり,免疫の働きを弱めたりする薬

りんご病は、通常治療法がなく自然軽快するため、健康な方であれば検査は不要です。

症状がひどい場合などは、内科を受診してください。

りんご病の診断は通常、発疹の形態や分布、関節炎などのりんご病に伴う症状などから判断します。大人がりんご病にかかるときは、子どもとの接触歴があることが多いため、その旨を医師に伝えてください。

重症化しやすい方や妊婦さんなど診断が必要な場合は、血液検査をする場合があります。

りんご病に抗ウイルス薬はなく、そもそも発疹や関節痛が出現しているときは、すでに抗体ができているため、抗ウイルス薬に意味がありません。関節の痛みが強い場合や、慢性感染、一過性無形性発作を起こしている場合は、以下のように対症療法を行います。

  • 関節痛…非ステロイド系抗炎症剤
  • 慢性感染…免疫グロブリン療法
  • 一過性無形成発作…赤血球製剤輸血

笑顔の日本人女性

基本的に1度りんご病にかかると抗体ができるため、再度感染することはありません。感染したとしても発症はしません。

手指に使うアルコール消毒

りんご病と診断される時点では、通常感染力はありません。

感染力のある時期は微熱、倦怠感など風邪のような症状をきたしているときです。そのときは軽症であり医療機関の受診もしないことが多く、早期の診断は困難です。そのため、日頃からの手指衛生や咳エチケットが大事です。

こまめに手洗いができない状況もあるため、携帯できるアルコール手指消毒剤を持ち歩くと便利です。

りんご病に限らず風邪のような症状がある場合、基本的に何かしらの病原体に感染しています。常に人に感染させる可能性があると考えて行動することが大事です。

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