はんとしょうこうぐん

ハント症候群

俗称/その他
ラムゼイハント症候群

概要

ハント症候群(Hunt症候群)とは、顔面神経麻痺や耳周辺の痛み、難聴めまいなどの症状がみられる病気で、水痘帯状疱疹(たいじょうほうしん)ルスが原因となって発症します。ラムゼイハント症候群(Ramsay Hunt症候群)とも呼ばれるこの病気は、幼少期、水痘(水ぼうそう)にかかった際に感染した水痘・帯状疱疹ウルスが体内に潜伏し続け、疲労やストレスなどによる免疫低下時に再活性化することで引き起こされます。

主な症状としては、顔の筋肉の動きが制限される顔面神経麻痺が特徴的です。それに加えて、耳周辺の違和感や痛み、耳の発赤や水疱、難聴、めまい、耳鳴りなどもみられることがあります。顔面神経麻痺の原因疾患としては、ベル麻痺に次いで頻度が高いとされています。

ハント症候群はベル麻痺と比較して重症化しやすい傾向があります。進行すると後遺症が残る可能性が高くなるため、症状に気付いたらすぐに医療機関を受診し、早期より適切な治療を開始することが重要です。迅速な対応と適切な治療により、症状の改善や後遺症のリスク軽減が期待できます。

原因

ハント症候群は、水痘帯状疱疹ルスの再活性化によって引き起こされる病気です。このウイルスは、一般的に子どものころにかかる水痘の原因ウイルスとして知られています。

水痘から回復した後も、ウイルスの一部は体内に潜伏し続けます。主に顔面神経や脊髄(せきずい)神経、坐骨神経などの全身の神経組織に潜み、通常は無害な状態で存在しています。しかし、特定の条件下でこのウイルスが再び活性化することがあります。

ウイルスの再活性化を引き起こす主な要因としては、以下のようなものがあります。

  • 加齢による免疫機能の低下
  • 過度の疲労やストレス
  • がんや重度の感染症
  • 抗がん薬や免疫抑制薬などの使用

これらの要因により体の免疫機能が低下すると、潜伏していたウイルスが再活性化する可能性が高まります。顔面神経に潜伏していたウイルスが活性化すると、神経に炎症が生じ、顔面神経麻痺を引き起こします。

なお、ハント症候群はウイルスの再活性化によって起こるものであり、他人に感染することはありません。

症状

ハント症候群では、顔面神経がダメージを受けることにより、顔の半分が動きにくくなる顔面神経麻痺が主な症状として現れます。顔面神経は表情筋の運動を司っているため、この麻痺により目を閉じられない、片方の口角が下がる、水や食物が口角から漏れるなどの症状が生じます。

さらに、周囲の脳神経が障害されると、耳周辺の違和感や痛み、耳の発赤、発疹や水疱の形成、難聴めまいなどの症状も現れることがあります。これらの症状の発現順序や組み合わせは患者によって異なり、顔面神経麻痺から始まる場合もあれば、耳の症状や難聴・めまいから始まる場合もあります。

また、ハント症候群では後遺症として麻痺が残る可能性があります。そのほか、神経が回復する過程で顔面拘縮や病的共同運動などが現れることがあります。顔面拘縮は表情筋が常に緊張した状態となり、顔がこわばったり引きつれたりする症状です。病的共同運動では、口を動かそうとすると目が閉じてしまう、目を閉じようとすると口が動いてしまうといった現象がみられます。

顔面神経麻痺に気づいたら、すぐに医療機関を受診することが大切です。早期に治療を行うことで、症状の改善や後遺症のリスクを抑えることができます。

検査・診断

ハント症候群の診断は、詳細な問診と身体診察から始まります。医師は患者の症状や経過、既往歴を聞き取り、顔面の動きや耳の状態を注意深く観察します。診断過程では、以下のような検査が行われることがあります。

  • 麻痺スコア:顔面表情筋の動きを、柳原40点法、House-Brackmann法、Sunnybrook法などを用いて評価します。
  • 神経機能検査:筋電図検査により、顔面神経の障害程度を評価します。
  • 血液検査:水痘帯状疱疹ルスに対する抗体量を測定し、ハント症候群の確定診断に役立てます。
  • 画像検査:頭部CTやMRI検査を行い、骨折腫瘍(しゅよう)など、ほかの顔面神経麻痺の原因を除外します。また、神経の炎症状態も確認します。
  • 補助的検査:必要に応じて、純音聴力検査、アブミ骨筋反射検査、シルマー試験、電気味覚検査などが追加されることがあります。これらは聴力、涙の分泌、味覚機能など、顔面神経に関連するさまざまな機能を評価します。

治療

ハント症候群の治療には、薬物療法、手術療法、リハビリテーションなどがあります。後遺症が生じた場合は、ボツリヌス療法や手術療法が行われることがあります。

 薬物療法

ハント症候群の治療は、主にステロイド薬と抗ウイルス薬による薬物療法が基本となります。ステロイド薬は炎症を抑え、抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑制します。場合によってはビタミン薬や循環改善薬も使用されます。顔面神経の変性*は発症から7~10日で完成し、この時点で予後(病気の経過や結果)が決まるため、診断後速やかに治療を開始することが重要です。

*神経の変性:神経の機能が徐々に失われていく状態のこと。

 手術療法

発症早期でも麻痺が重度の場合には、顔面神経減荷術が行われることがあります。この手術では、炎症によって腫れて骨の中で締め付けられている神経の周囲の骨を削ることで圧迫を解除し、神経変性の予防と回復を促します。

十分な回復が得られなかった場合には、さまざまな外科的治療が検討されます。具体的には、顔面の左右のバランスを整える手術のほか、垂れ下がった眉毛を釣り上げる手術、筋肉や神経、軟骨を移植する手術などが行われます。これらの手術は、顔面の対称性を回復させ、表情筋の動きを改善することで、整容面(見た目)と機能面の改善を目指します。

リハビリテーション

顔面神経麻痺の回復を促進し、後遺症を予防するために、リハビリテーションが行われます。症状が進むと顔面表情筋が固まってしまうため、筋肉がこわばる前に正しいリハビリテーションを開始する必要があります。

一般的なリハビリテーションには、顔の筋肉のマッサージ、患部を温める治療、表情筋の個別的筋力訓練、病的共同運動予防としてミラーバイオフィードバック療法などがあります。これらは筋肉の柔軟性を維持し、顔面拘縮や病的共同運動の低減効果があります。

ボツリヌス療法

高度の顔面拘縮や病的共同運動などの後遺症に対しては、ボツリヌス毒素注射による治療が効果的な場合があります。ボツリヌス毒素は、過剰に収縮する筋肉を一時的に弛緩させることで不自然な動きを抑制し、後遺症を軽減させるとともに、リハビリテーションも行いやすくします。

予防

水痘帯状疱疹ルスへの感染を防ぐことが、ハント症候群の予防法です。そのため、小児期には水痘ワクチンの接種が推奨されます。これにより、水痘の発症を防ぐだけでなく、将来的にハント症候群にかかるリスクも低減できます。

一方、水痘にかかったことのある方は、ウイルスの再活性化を防ぐことが重要です。日頃から免疫機能を維持する生活習慣を心がけましょう。また、50歳以上の方には帯状疱疹ワクチンの接種が推奨されています。これは、帯状疱疹だけでなく、ハント症候群の予防にも有効と考えられます。

最終更新日:
2025年05月15日
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2025/05/15
更新しました
2017/04/25
掲載しました。

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